■開発プロジェクトの失敗事例 2(No.108)

(続き)

こうしたケースで,研究部門の開発が全く日の目を見ない開発に終わったことに対して,責任者が不在なのである。
敢えて,「当事者意識の欠落」と指摘しても,誰もピン来ない状態なのである。研究部門にしても,事業部門にしても,むしろ,そんなことを部外者に言われるのは心外である,と云った態度である。研究部門の開発リーダ,上司もしかりである。一方,事業部門の責任者も市場での問題を出さずに食い止めた,と自信持った態度である。会社としては大きな損害(ロス)が出たのに,誰一人として責任を感じている人が居ない!!

一般的ではあるが,悪循環している会社ほど,こうしたケースではみんなが被害者意識である。誰もが責任の押し付け合いである。被害者ばかりで,当事者が誰もいないのである。本当はこうしたケースでは,被害者であっても当事者意識をもって,責任の一端を感じて冷静に反省するのが,次の開発にもつながり,スパイラルアップしていくのである。現実的には,サラリーマンの世界,誰も泥をかぶることはしないのである。ここが一番重要な問題なのである。

研究部門だけでなく,昔(と云っても現在でも行なわれているのだが・・)は,開発のプロジェクトが一旦スタートすると,開発者はそれを完了させること,つまり最初に立てた目標達成に向けて突き進む。その途中で,市場環境の変化があっても気にせず,技術開発をすることがミッションなので製品化されるか否かは関係なく開発が行われていた。それらには無駄な部分も多く,開発効率を考える見直しが開発部門にも導入され,開発期間の短縮,開発費用の圧縮,さらには開発効率(OUTPUT/IPUTの比率)などが求められるようになり,開発プロセスの改革が行われてきた。優良な企業はやった個人を叱責するのではなく,会社の仕組みとして事前にチェックするプロセスを築いている。昨今の厳しい経済環境からますますこうした開発の効率化が求められることになり,プロセス改善の必要性がますます問われる時代になってくるだろうと思われる。

具体的な改革プロセスの事例は,一旦商品企画し,開発スタートさせたプロジェクトでも,市場環境,内部環境の変化を加味して,ある必要な時点でチェックポイントを設け,その開発プロジェクトをそのまま続けるか否か,必ず途中で何度かチェックが入るシステムが考案されてきている。つまり,無駄な開発は途中でストップする英断を振るうことができるシステムになってきている。開発プロセスにおけるその
名称は各社によって違うが,一般的にはデザイン・レビューなどと呼ばれ,設計の進捗度や具体的な課題などを幹部に報告する場である。そこでは,具体的な設計検討は勿論のこと,プロジェクトとしてそのまま続けるか否か,と云った判断を伴うプロセス(関門が設定)に変えられてきている。もちろん,研究部門の位置づけや開発内容に依存するので開発プロジェクトが一律そうなったのではない。また,会社によってはそこまでの判断はなく,いわゆる設計のレビューで終えるところもまだまだ多い。だが,上述した事例を見れば判るように,誰も責任を感じないで,会社に大きなロスが出ることはなかなか許される環境ではなくなってきている。それならば,しっかりとした判断が下されるプロセスを構築しておくべきである。

上述したケースでは,会社のロスもさることながら,関係した技術者のモチベーションの低下によるダメージも相当なものがある。目に見えない,なかなか数値化できないロスが発生する。つまり,このようなケースで,折角開発したものが製品化されないと判ると,まずは開発者のモチベーションは著しく低下する。まして,製品化されないと判りながら開発を続けるとなった場合など,その意欲たるや惨憺たるものになる場合がある。技術者は,技術開発そのものに興味があるが,やはり自分の開発した技術が製品化されて世の中に出ることでより一層大きな励みになる。そうしたことが実現できないと判るとなかなかモチベーションの維持は難しい。若い人の中には,なぜ開発を続けなければならないのか,と疑問を感じ,リーダに当たる人も出てくることがある。リーダは部下のこうした反発を収拾させるだけでも一苦労である。

リーダ自身のモチベーションさえも下がるのが実態である。しかし,リーダたるものはそうした弱音をはかないものである。リーダ自身がやる気をなくしたプロジェクトほど惨めなものはない。だからリーダは絶対に弱音を見せてはいけない。こうしたときにもリーダは毅然とした態度で,これまでの苦労を労いながらも,技術的な成果を褒めるなどして,次の目標を示してモチベーションの低下を極力抑えることに努めなければならないのである。リーダはこうした辛い役割も果たさなければならないのである。それをメンバーと一緒になって,他責にして嘆いているようではリーダとは云えないのである。

これまでに述べたように人の生産性の一つの要素にモチベーションがあることは触れた(MOT人材とその育て方)。このモチベーションが下がった状態での生産性,つまりアウトプットの期待は小さくなってしまう。また,後に引きずらないようにと言ってもそこは人間,次のプロジェクトへも少なからず影響が出るものである。そうした点からも,無駄な開発をずるずる引っ張るのは悪影響が大きい。素早い決断がモチベーションを高めることさえある。

あなたの会社はどちらですか?

   ●被害者意識ばかりが蔓延している会社

   ●当事者意識がしっかりしている会社

開発を継続,中止を判断するチェックポイントを開発プロセスに組み込もう

 

[Reported by H.Nishimura 2009.03.09]


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