■分析力を養う (No.097)
少し前,課題の見つけ方3 No.91 で述べたが,課題を上手く抽出するには分析力を養うことが必要である。これについてもう少し詳しく考えてみたい。
分析力がない人の課題抽出の事例
・現れている現象(問題点)をそのまま,分析もせず課題とする
・他人の言ったこと,特に内容を十分理解している人の意見をそのまま鸚鵡返しに課題とする
・日頃から現象をしっかり捉えていないので,切羽詰まって思いつき(分析をしようとともせず)を課題とする
・他の分析事例をそのまま真似て課題に挙げる
・自分でいろいろ考えようとするが「論点」を定めず,当然分析はできず,漠然と課題とする
・対象となる仕事内容が十分把握できておらず,些細なことに目を奪われ,それを課題にしてしまう
・いろいろな事象,或いはその結果の数値を上手く組み合わせず,いい加減な組合せで課題としてしまう
・数値の整合性などが取れていないまま,課題としてしまう。
・間違った分析でも思い込みが強く,間違ったまま課題としてしまう
など,挙げ出したら限が無い。周りを見渡しても,こういった人は少なからずいる。
それでは,なぜ分析力が付かない(付いていない)のか,それを考えてみる。
1.目的が明確になっていない
上述したように分析が上手くできない人の殆どが,分析する目的が曖昧なままデータを加工して何とかそれらしき情報に仕上げようと考えている。或いは,他人がやったことを見よう見まねで真似をしようと考えている。もっとも手っ取り早い方法ではあるが,目的が違うと全く役に立たないデータを情報として加工することになる。一旦情報に加工されるとその情報が独り歩きしてしまう。データを情報に加工する前に,まずは,「何を訴えたいのか」「どこに焦点を当てて論理的に説明しようとするのか」など,目的を明確にした上で,取り掛かることである。もし,目的に合わない情報がまとまるようであれば,仮説したことが間違っているのである。答えがいつもすぐに思いつける訳ではない。答えらしいと思ったことを仮説として分析,検証するのである。
こうした目的を明確にした上での,仮説・検証の繰り返しが,分析力をつける近道である。
2.数値に弱い
分析には数値がつきまとうことが多い。したがって,その数値を素早く読み取り,そのデータから情報になることを抽出しなければならない。数値を理解することだけに追われているようでは,確かな分析が即座にできず,タイミングを逸してしまう。特に数値はグラフ化してイメージとして焼付け,「確か50%以上だったはず,少なくとも1/3はあった」,などと理解しておくと,正確な数値はじっくり調べれば良いが,何か変だ,と云う感覚が非常に大切で,これが分析力にものを云うことになる。分析力が下手な人の殆どが数値に弱い。もともと数学が苦手と云う人も居るだろうが,数学が得意な人よりも若干差がつくことはあってもそれが全てではない。それよりも,数値の意味するところを理解していないのである。数値はそれだけでは無味感想で暗記することは難しいことがある。内容と結び付けなければなかなか記憶に残らないのが普通である。先にも述べたが,私などはグラフなどでイメージ化して覚えるようにしている。これは数値そのものではなく,大よそどの位だったかをイメージしておくのである。その方が,分析には大いに役立つことが多い。
3.他人の報告書など,ドキュメントから学ぶことができていない
他人が作った報告書などにはいろいろな分析のやり方が報告されている。そうしたものを何気なく見ているのと,何を論点にこのような分析をしたか,或いはこの分析方法はどのような工夫が凝らされているのか,など報告書にじっくり目を通すことである。普通一般では,他人の報告書までは目を通す余裕がない。自分の作成で精一杯であることが多い。しかし,最も近くに良いお手本があるのに,それを活用しない手はない。必ず,自分とは違った目で見ている。この違った目は自分の見方を増やす意味では貴重なのである。全て学ぼうとしなくてよい。これはいいなあと思う点に眼をつけそれを徹底的に理解することである。判らなければすぐ近くに居ることが多いので聞けばよい。全てを学ぶようなお手本の報告書が書ける人などそれほど居ない。各人下手なりにも,何か特徴を持った報告書になっている。その良い点を盗み取れば良いのである。これらも関心がどれだけあるかに依って理解する内容が変わる。自分の周りにはこうしたチャンスが一杯あるのだと思って見れば様子も変わってくる。
4.フレームワークの知識も少なく,理解し使いこなすことができていない
これは知識としてあった方がよいと云う程度で,フレームワークを多く知ったから分析力が付くと云うことはない。むしろ,少ない知識でも確実に使いこなせるかどうかの方が重要である。知ったかぶりをして高度なフレームワークを使っても,ポイントがボケていては反って目障りである。フレームワークと云うのは,先人の知恵の結集である。だから,上手く活用すれば,これほどすばらしいものはない。
この「上手く活用すれば」,がミソであって,先ず多くの人がやることは,フレームワークを覚えると,知ったか振りをして使いたがることで,フレームワークなので形は一応整っているが,中身が伴っていないことがよくある。つまり,フレームワークの形はしているが,十分考えていず作業として埋めているだけのことがよくある。大切なのはフレームワークに沿った形で,自分で考え抜くことである。それを怠ってフレームワークに頼っていても分析力を付けることにな殆ど役立たないと思った方がよい。それよりも,知っているフレームワークは少なくても,或いは極端に言えばフレームワークは知らなくても,自分でとことん掘り下げる力を付ける方が余程役立つことを心に留めておいて欲しい。
エクセルなどで分析する場合も全く同じである。エクセルのグラフの作り方やピボットなど分析に役立つ手法がいろいろある。使いこなせることに越したことはないが,使えるだけでは分析力が優れているとは決していえない。エクセルの簡単なグラフ作成が出来るだけで,十分な分析は可能である。自分の「論点」を如何に訴えやすくするかがグラフでの見える化である。
分析力を養うことは非常に重要なことである。分析力が課題抽出のカギとなることも多い。
[Reported by H.Nishimura 2008.12.15]
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