■外部技術委託のコントロール 1 (No.092)
プロジェクトマネジメントにおける一つの問題点として,自前の技術だけでは完成が難しく,タスクの一部を外部委託してプロジェクトを進めるケースがあるが,往々にして外部委託したタスクの部分のコントロールが上手く行かず,プロジェクト自体の進捗,及び性能・品質に大きな影響を及ぼすことがあり,これらについて考えてみる。
アウトソーシングのあり方
昨今,自前の技術だけでは不足していて,一部の技術をアウトソーシングしてまとめ上げようとするケースが出てきている。これらは稀なケースではなく,最近では多くの企業がやっていることである。これらについては,会社とは(No.34)で一度触れている。
昔から,セットを作っている企業は,一般的には部品は外から買ってくるが,自前に合ったようにカスタマイズして専業の部品メーカに作らせることはよく行なわれていた。セット企業の一つの工程のように扱われ,ある部分はセットのコントロール下に置かれている状態だった。当時はアウトソーシングと云う言葉も無く,部品はセットメーカの下請け的な存在だった。こうしたケースが加速化して,いろいろな技術を組合せないと一つの完成品が仕上がらないようになり,各々の専業メーカにアウトソーシングしながらプロジェクトを進めることは,昨今では日常茶飯事である。もちろん,ソフトウェアの世界でも同様である。ところが,プロジェクトを進める中で,こうしたアウトソーシングの部分,即ち外部に委託している部分がなかなか思い通りに上手く進んでいないことが目立つようになってきている。これらは,昔から実施しているセット企業と部品企業の間ではなく,昨今,特にソフトウェアが大きく占める企業において起こってきている。外部委託とのコミュニケーションを良くする目的で,外部委託でありながら,企業内の建物内に入り込んだ請負業務が非常に多くなってきている。同じ企業内で顔を突き合わせながらプロジェクトを進めるスタイルである。しかし,すべてがそのスタイルにできることは難しい。当然,物理的にも外部委託となるケースは多い。この場合,やはり物理的に距離があることは,コミュニケーションを阻害する大きな要因であり,いろいろな問題が潜んでいる。それには,次のようなものがある。
技術的劣勢なためコントロールができない
アウトソーシングする基本は,自前に無い技術を外部から取り込むことである。つまり,自前に無い技術なので,技術の詳細な内容が把握できないのは当然のことである。しかし,日程などコントロールするのは,技術が全て判っている必要はない。しかし,現場は技術者同士のやりとりである。つまり,技術内容がどうかには関心が高く,しかも技術があるのは委託された方だから,技術者同士のやりとりでは委託されている方が優勢になる。つまり,技術者は自分の範囲を超えた技術をコントロールする術をもっていない。判らない技術は「おんぶにだっこ」で,委託された方の言いなりになってしまうケースが多い。つまり,コントロールが効かず,日程など予定通り進まないことが起こりうるのである。
特に,若い技術者が担当すると,所謂マネジメント的なコントロールの方法に対する知識も薄い。技術も負けているとなると,全てを委託先に委ねるしか方法が無い状態である。それでは,その上のマネジメント層がきっちりフォローしているかと云うと,そうではない。上司もアウトソーシングの経験が少なく,指導ができない状態である。つまり,委託先をコントロールできる状態にはないのである。ただ,技術を買っている状態だけなのである。
こうしたケースでも,企業内に入り込んだ請負業務だと随分違う。コントロールが効かないとは云え,毎日顔を突き合わせていれば,阿吽の呼吸とまでは行かなくても,以心伝心で伝わる部分は日本人同士であれば意思疎通を図ることが可能である。上述したコントロール不十分な部分も幾分は緩和される。ところが,やはり物理的に外部となると,そのまま影響を受けることになってしまっている。
的確な指示ができない
外部をコントロールすると云うことは的確な指示ができなければならない。ところが,技術の中身がよく判らない。見えないところ(物理的に)で仕事をしているので,その様子もわからない。おまけに,こうした外部委託には,契約問題が絡む。技術者にとって,契約問題となると異次元の世界に入った感覚になってしまうケースが多い。判らないことを全て契約のせいにしてしまうこともある。委託先がますます,遠い存在になる。日常の簡単な問題が発生したり,遅れが発生しても,どうしても気づくこと事態に遅れが生じることになる。或いは,問題が大きくならないと発覚しないこともある。
これでは,的確な指示が出せるはずが無い。これは,外部委託では珍しい話ではない。日常茶飯事に起こっていることである。委託先に対して,まるで腫れ物にも触るような態度で接しているようである。これではプロジェクトの進捗,及び性能・品質が思い通りにならないのは当然の結果である。委託先のQCDの問題であっても,むしろ委託側のプロジェクトマネジメントそのものの問題の方が大きいような気がする。
現場を見ようとしない(関心が薄い)
外部コントロールで難しいのは現場が見えないことである。メールなど伝達手段は確実に良くなっているが,何と言っても細かいニュアンスを含む現場の状況が掴めないことは大きなハンディである。ここで外部だから仕方がない,と諦めてしまっているのが多い。しかし,本当にコントロールしようとするならば,積極果敢に現場に近づく努力が必要である。不可能なことではない。関心そのものが強くないからそうなっているだけである。
と云うのは,本当にQCDをコントロールしようとするならば,現場に入り込む手段はいくらでもあるはずである。例えば,今でもそうだと思うが,自動車メーカの担当者はQCDで鍛えられている。したがって外部の部品メーカなどの工程をつぶさに観察し,問題点がないかどうか,徹底的に調べる。工程の管理ポイントについても,ノウハウに近いものまでとことん調べ,QCDが安定して守られるかどうかチェックし,担当者が自分で納得するところまで行なう。それが当たり前のように行なわれる。人の命を預かっている自動車だからそうなのかも知れないが,ここまで日本の自動車メーカが大きくなったのもこうした底辺での徹底したQCDを追いかける活動が積み重ねられて成り立っている。
それとの比較は少し違うかもしれないが,本当にQCDをコントロールしようとするならば,その位の徹底が必要なのである。やはり,本来あるべきQCDの意識がそこまで到達していないのである。関心が薄いと云われればその通りである。いくらでもやり方はある。ところが,実態は言い訳けの理由を一杯作って回避しているだけである。QCD確保に向けて何をどのようにすればよいかと常々考えていれば,いろいろなアイディアも浮かんでくるはずである。自動車メーカとは違った外部コントロールの方法が見出されるはずである。
(続く)
アウトソーシングのあり方がいろいろな問題を生んでいる
あなたのプロジェクトは外部委託のコントロールができていますか?
[Reported by H.Nishimura 2008.11.10]
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