■課題解決法5 負のサイクルを断つ
問題点を掘り下げて行くと,何段階かして,元の事象に戻ってくることがある。こういった症状を負のサイクルに陥っていると云う。根深い問題にはこのように負のサイクルが廻っていて,そこから抜け出せなくなっていることがよくある。
負のサイクルとは?
もがけばもがくほど足が取られ深みに嵌っていくアリ地獄があるが,仕事で頑張っても頑張っても一向に成果が出ない状況に陥っている状態のことで,誰しも何度か経験していることである。
特に世界全体が景気が悪い状態や,赤字経営に陥っている企業など成果が出ていないところには必ずと云ってよいほどこの負のサイクルが蔓延っている。一つの原因ではなく,幾つかの原因が重なり合って悪い状態を構成しているので,簡単に解決できるものではない。最も多く見られるのが,そうした負のサイクルに嵌り込んでいる人達の意識が,何をやっても上手く行かず諦めに似た気持に陥ってしまっていることである。
確かに世界全体の景気が悪いときのように,時期が来ないとどうしようもない,と云ったケースもある。しかし,元気な企業では,そうした景気の悪いときに力を発揮して次なる飛躍に繋げているのである。それは,負のサイクルからの脱出方法を心得ているからである。そのように,負のサイクルからの脱出は企業の将来を賭けたものでもある。
新製品が計画通りに開発できていない(負のサイクルに陥った事例 1)
新製品の開発が計画通りに進まないことはよくある話である。その原因を調べてみると,いろいろな要因が考えられる。しかも,それらが一連のサイクルを作っており,その負のサイクルから抜け出せていないことが判る。こうした場合,どれかに対策を打とうとしても,現象を裏返しするのが精一杯で,有効な改善策に繋がらないことが多い。
つまり,負のサイクルの中でもがいても,抜け出すことは難しいのである。どこかで,そのサイクルを断つことを考えなければならない。下図の事例は,要素技術開発ができていないために,時間を要し,十分な開発日程が取れない事態に陥っている。その状態では,設計品質確保が難しく,設計完成度が低下し,いつまで経っても設計から工場へ量産引継ができない状態になる。つまり,このことは新製品開発をさらに遅らせる要因になっている。
このように負のサイクルに陥っている状況下にあるところで,個々の対策,例えば要素技術開発の遅れをなくせ,十分な開発日程を取れ,設計完成度を上げろと叫んでも,誰もが判っていながらできていないことは,掛け声だけでは解決が難しい。もがけばもがくだけ,悪循環は繰り返されるのである。この経験は多くの人はあるのではないか。
こうした負のサイクルを十分認識した上で,何か負のサイクルを断つトリガが無いかを考えてみる。そこで,その負のサイクルの事象に対する直接の対策でなく,新たに要素技術開発の部署を設け(トリガとなる新たな手段),その要素技術開発ができたものを使って新製品開発を試みることで対策を打っている。そうすると,要素技術が完成しているので,それらを組み合わせることで済み,開発日程に余裕ができ,さらには品質向上につながっている。それによって,量産引継を日程通りに実施でき,新製品開発が計画通りに進むようになって,負のサイクルだった症状の改善が図られている。
誰もが思いつかないような突飛なトリガを考え出す必要はない。ただ,現状を肯定して改善を図ることではない。どこか現状の殻を打ち破るトリガが必要なのである。負のサイクルの渦の中に嵌ってしまっている人には難しいことかも知れないが,思い切った対策を打つことが不可欠なのである。
プロジェクトの遅延がまかり通っている(負のサイクルに陥った事例 2)
プロジェクトの遅延は日常茶飯事であるというところも多いと思われる。そうしたところで見かけられるのは,計画そのものがいい加減に作られ,一生懸命頑張っても,計画が守れない状況になり,進捗管理も当然ままならないことになる。そんな状況下では,計画遅れが平然と見過ごされ,遅れても誰も気にしないような雰囲気が蔓延する。当然,計画遅れの反省など全く気にしていない。次の計画も,当然いい加減なものになる。
この状態を打ち破るためには,先ず計画そのものが実行できるもの,予定通りに進めることができる計画であることが必要であることは容易に気がつく。では,どのようにして実行できる計画を作ることができるか。先ず,プロジェクト遅延が蔓延している風土そのものを変える必要があるが,風土を変えることはなかなか難しく,時間も掛かる。しかし,重要なことであるには違いない。
例えば,現在居るメンバーで,顧客日程に合わせただけで立てられている計画であれば,プロジェクトリーダの自ら守れる計画として,日程優先ならばリソースを補充させたり,逆に今居るメンバーの増強が難しいならば,日程を少しずらせた検討をしたり,或いは仕様を少しダウンしたものを提案するなど,実行可能な計画を立てさせることである。
また,プロジェクトリーダに十分検討させて立てさせた計画でも遅れが生じているようならば,進捗管理に上司自ら入ったり,或いは思い切ってプロジェクトリーダを交代させたり,ある程度思い切った対策が必要である。
負のサイクルからの脱出は難しい
上図の事例で解決が簡単そうに示したが,負のサイクルに陥っている組織を蘇らせることはなかなか容易ではない。特に,染みついてしまった風土などを変えることはそう簡単にはできない。しかも,そのサイクルの渦に巻き込まれている人は,よく判っていないことがしばしばある。つまり,どっぷり浸かってしまって,危機感も薄れてしまっている場合がある。
そうしたときに有効なのは,第三者の眼で見て貰うことである。コンサルタントなどを導入することでも良いが,ベテランなどを活用することでも十分できる。ただ,風土などを変えるのは,なかなか仲間意識のある人では難しい。コンサルタントなど高い経費を払っても実施するのは,もちろん,いろいろな手法を駆使した力量もさることながら,そのネームバリューを利用した,同じことをやっても外部の意見を素直に聞く意識などを利用する場合が多い。
負のサイクルからの脱出は容易ではない
まず,負のサイクルに陥っている自覚をしよう!
[Reported by H.Nishimura 2013.03.18]
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