■抽出法8 変化を読む
物事を分析していると,様々な変化が読み取れる。ただ漫然とその変化を見ているのではなく,変化をどう読むかで課題を見つけることができる。その例を紹介する。
差分を比較する
計画値と実績値,予測値と実績値の比較など,日常的に行われている分析である。ここから,なぜ計画値と違った実績になったのか,とか,予測した値と何が変わったのか,など問題点を探ることはよく見かける。要は,事前に想定したことが,なぜ違った結果を生むようになったのか,その原因を追及するのである。
差が誤差程度の違いを問題視するのではなく,大きく食い違った原因は何かなど,大局的な見地から見ることが大切である。なぜなら,大きな差が生じるようなことが再発,即ち,次の計画を狂わすような事態が起こらないかを突き止めるのである。そうした歯止めができないと,計画倒れが繰り返され,思った行動が取れないことになってしまう。
こうした差分に対する検討は,社会生活のあらゆる場面で起こっていることで,最も単純,且つ比較的容易な分析方法である。ただ,こうしたことがきっちり行われることが重要で,こうした小さなことの積み重ねが成果に反映されることとなる。
累積結果から判断する(積分)
単純な差の比較ではなく,全体としての成果は,各々の結果が積み重なって最終結果となって現れてくる。
例えば,プロジェクトの場合,いろいろな工程があり,その工程でのアウトプット(結果)により,良かったか悪かったかの判断ができる。特に悪かった場合,そうした結果を招いた原因があるはずである。すぐに浮かぶ原因は起こった事象で,その事象を引き起こした要因はもう少し深いところに存在する。この引き起こした原因が本来課題とされるべきで,これを解決する方法を検討することが必要となる。最終の累積結果から判断しようとすると,単純な棒グラフでの比較などでは無理で,合わせ込んだ面グラフなど,工夫を凝らしたグラフを作成して,そうしてはじめて見つけ出される課題もありうる。
変化点(特異点)を見つける
問題を見つけるためによく使われる統計手法に管理限界線と云うものがある。これは,生産工程などで通常安定している状態では,一定の値に落ち着いている。その平均値からバラツキを含んだ±3σに管理限界線を引き,その値を飛び越えたことが起これば,何らかの処置を施すものである。これは,通常のバラツキを逸脱した特異点であり,何らかの問題が潜んでいることが多い。製造現場などではよく用いられている方法で,自動的に問題点を警告してくれるものである。
また,一般的に用いられる折れ線グラフなどで値をプロットして変化状況を観察している場合でも,上昇傾向だったものが下降に転じたり,逆のケースなど,数学的には変曲点と云われるが,このような場面でも,何らかの課題が潜んでいて現象として現れたと判断して,その要因を追究することも行われる。
変化を読み取る(微分)
前述の二つ(差分,積分)に較べてこれが一番難しい。前の二つが静的なものに対して,動的なものである。よく注意していないと変化に気づかないことが多い。特に,経験が少ないとなかなか変化が読み取れないことが多い。それだけに,表面的には些細な変化でも,奥深く課題が潜んでいることがよくある。この変化を読み取るには次のようなことが大切である。
1.内容の理解が十分なこと(目的意識)
動いている中で変化を感じるには,先ずは内容理解が十分できていなくてはできない。流れに流されている状態では目的意識がしっかりしていないと,変化を変化とは捉えることができない。波にそのまま揺られているだけで,高い波か低い波かも判らない,いつも水面上に顔を出している状態に近い。内容を表面的な部分だけで把握しようとすると,現れている事象や起こった事象のみを追っかけることになり,その背景にある中身の重要な部分を理解できないまま,課題を抽出することになる。この場合も,課題を的確に抽出するには無理が生じる。目的意識をもって,本質的な部分に触れようとしないと間違う可能性が残る。
2.自分の立ち位置をしっかりしておくこと
これも同じようなことであるが,変化を感じるのは,自分がしっかり固定されたポジションや基準をもって見ているから判ることである。そうではなく,人の言ったことや起こった事象で振り回されるようでは変化は捉えられない。これは全てを理解しないとできないことではなく,先ずは自分の考えをしっかり持つことで,誤りが判れば,改めればよい。自分の考えもなく,その場の雰囲気に流されたり,上司の意見だけを咀嚼もせずに飲み込むようでは,変化は読みきれない。昨今はいろいろな情報が氾濫しているので,それらの情報を上手く捉えて,サーフィンするがごとくして,仕事をこなすことが流行っていて,そうした人は変化に敏感なように見えるが,必ずしも課題として捉えることが上手いかといえば,むしろ逆で,しっかり地に足がついていないため,変化の大きさ,重要さを感知できないようである。
特に若い人にとって,しっかりした自分の考えを持つことは,すぐには難しいことではあるが,こうしたことを意識している人とそうでない人では的確な課題抽出に差が出る。
3.本音を汲み取る(要点を捉える)
これもなかなか難しいことである。いろいろな公式な場面で,記録に残された内容などは,形式ばったことが多い。ところが,実際のプロジェクトはドロドロした,表現し難い内容も含まれている。そうしたことは現場でのやりとりの中でしかない。つまり,本音の言い合いのような部分は,ドキュメント化されない。ところが,実際の変化はこうした中に,真髄のような部分が隠されている。発言する前にある程度,頭の中で熟慮してから発言するのが一般的だが,熱が帯びてきたり,議論になったような場合,日頃から感じているものがつい口に出てしまう。こうした本音の部分の要点を上手く汲み取ることができると,何気ない会話が非常に重要なことを含んでいる場合がある。
よく言われている,現場,現物,現認はこうしたことを如何に上手く捉えることが重要であることを言っている。マネジャークラスではなく,実務者でないと感じられない感覚であり,これを有効に活用すべきである。これがしっかりできるようになれば,課題の抽出は今まで以上に容易にできることになる。管理者に対しても,現場をよく見ろ,などと現場の大切さを言われることは多い。特に,動的な変化は現場でしか見つからないからである。しかも,ある一定のスキルを持った人間にしか感じられないからである。
4.自分で感じる(気づくこと)
何といっても,変化は自分で感じ取るものである。他人に言われて感じるようでは,微妙な変化は判らないだろう。現場の匂いを嗅ぐ感覚である。これが重要である。そのためには,現場の風の当たる場所に積極的に出て行くことが不可欠である。じっと待っていて変化が現れるような大きな変化は,誰にでも判り,課題を見つけ出す類のものではない。しかし,現場に出たからといって目的意識や問題意識も何も無い状態ではこれまた,変化を感じることはできないのである。ある程度経験が必要なのである。訓練して磨くことによって,感じる度合いも変わってくる。初めから上手くできる訳ではない。上手くできるようになるには,目的意識などをしっかり持っていることである。そうすると,目的から外れることや,意識していることと違っている事象に気づくことができるのである。
「目的に適っていること」が重要
上述したように,差分,積分,微分などから課題を抽出するわけであるが,ここで気をつけたいのは,「本来の目的に適っているか」を念頭に置いておかないと間違った課題を抽出してしまう可能性がある。計画した時点から環境変化は当然あるので,それらを加味した対応は当然必要なことである。したがって,計画差があっても,それが環境変化などにより,本来の目的を達成するために修正して実施した結果であれば,それは課題ではない。計画に合わせるために,本来の目的を見失って実施したことは,逆に課題になりうる。つまり,課題に挙げるか否かを判断する基準に「本来の目的に適っているか」が重要である。やり方や事象ばかりを追っかけると,本来の目的を見失っていることがあるから気をつけたい。
変化には必ずと云ってよいほど,課題が潜んでいる
[Reported by H.Nishimura 2013.02.25]
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