■プロジェクトマネジメントの応用 13(ソフトウェア開発編)

  ◆進捗を管理する(リスク管理の徹底)

  @進捗管理のやり方

プロジェクト・マネジメントの基本中の基本は,進捗管理をきっちり行うことである。当初計画したスコープ,QCDを計画通りに完了させることがプロジェクトの成功であり,それが順調に進むよう定期的に管理するのが進捗管理である。

そのやり方は,計画したことができたかどうか,一日,一週間,一カ月,或いは,開発工程毎,マイルストーン単位で確認することを繰り返すことである。計画通り進むことはむしろ希なことで,内部・外部の様々な環境変化が伴って,予定を狂わすことになる。そうした変化に追随するようにして,最終目的を果たさんがために,進捗を管理しながら進めることになる。

一般的には,週単位での管理が一番身近な管理で,先週計画したこと(P)に対して,実施できたこと,できなかったこと(Do)を把握する。そして特にできなかったことに対する原因・反省を明らかにし(C),来週までに実施すべき内容を明確に(A)することで,一連のPDCAサイクルを廻す。この基本的なやり方を,週報として管理したり,或いは上司への報告書として提出したりすることになる。

週報など,各々の職場で使われているフォーマットなどがあるので,それを上手く活用して進捗を管理できればよい。予定通り上手く廻っている状況においては,どんなやり方をしていても結果がついてきているので良いが,計画通りなかなか進まないことが多いことから考えれば,プロジェクトの初めからPDCAサイクルを意識した進捗管理をすることを勧めたい。

  Aリスク管理と課題管理の扱い方

内部・外部の変化は発生してから慌てて対処するのでは遅く,事前に予知して対策することの方が効果的な場合が多い。そこで,変化の先読みをするなど,プロジェクトに対するあらゆるリスクを,進捗管理と並行して行っておくことが重要で,このリスク管理ができているか否かで,プロジェクトの成功を大きく左右することが多い。

一方,必ずと云ってよいほどプロジェクトを進める上で,問題が発生する。リスクとして見ていたことが顕在化する場合も同様である。このように問題が起こった場合,必ず課題管理などとして問題の内容を明らかにし,その重要度を見極めながら,原因究明,対策方法,担当者(責任者),期日などを明確にさせて,確実に課題を解決させて,次へ進む。メンバー全員でこうした課題を共有する意味でも,課題管理表なるものを作り,誰もが一目瞭然で判るようにさせておくのがよい。

拙いプロジェクトになると,この課題管理表が問題点で溢れ,プロジェクトを進めているのか,課題解決を次から次へやってあたふたしているのか判らない状況に陥ることもある。こうした場合,重要度を明らかにして,優先度を明確にさせ解決を図ることが必要で,リーダがきっちり統率してメンバーに指揮命令することが必要である。重要度,優先度は立場立場で変わるので,全体把握できているリーダの的確な采配が求められる。

ところがこうした拙いプロジェクトはリーダの采配が上手くできていないから起こっていることもあり,原因を裏返した対応策では解決しないことが多い。その場合は,課題が溢れた状態になっていることが考えられるので,主要なメンバーで重要課題を絞りこみ,その解決を徹底させる。次に小さな課題へ移る前に,今後発生するリスクの方を先に洗い出す。そうして,発生の可能性や影響の度合いが大きい重要なリスクを顕在化させない方に力を注ぐ。もちろん,余裕があるのであれば,重要課題解決と並行してリスク対応ができればそれに越したことはない。

課題は誰でも容易に判るが,課題解決は時間が掛かる場合がある。ところがリスクは,余程先読みしてプロジェクト全体把握をしていないと,重要度(=発生確率×影響度合い)がなかなか判らない。或いは,毎日の目先のことしか見ていないと見逃すことも多い。つまり,プロジェクトを上手く成功に導くことができるかどうかは,進捗管理においてリスク管理が上手くできているかどうかに掛かっていると云っても過言ではない。進捗管理が課題管理に留まっている(リスク管理まで手が廻っていない)プロジェクトでは,成功が覚束ないと云える。

  BWBS(Work Breakdown Structure)の活用

進捗管理は,先ず仕事内容を分解して,やるべき内容を確認し,順序立てて工程表を作ることに始まる。これをWBSを作成すると云い,これが工程表の基準となる。これには,仕事のやるべき順序,日程,担当者までが詳細に決められる。MS-Projectなどと云う便利なツールもあるが,高価であるので十分使い慣れないと,費用対効果が出てこないのでよく考える必要がある。通常,エクセルを活用してWBSを作成することで十分である(後述する)。

ここで重要なことは,分解した仕事内容に漏れ,抜けが無いことである。計画段階で仕事に漏れがあると,単に予定が狂うだけでなく,後戻りして余分な工数が掛かることになるからである。また,単に人が居るから割り当てたと云うのでは進捗がスムーズに行かないことが多く,個々人の持っているスキル,能力を加味したものでないと計画通りに進まない。また,計画をビッシリ詰め込むと,想定外の出来事などにより,大幅に狂ってWBSの計画が意味をなさない事態に陥ってしまうこともあり,ある程度のバッファーなどを加味しておくことが必要である。

活きた進捗管理をやろうとすれば,詳細なWBSはせいぜい3カ月程度で,それ以上詳細なWBSを作っても見直しすることが必至であり,効率的な面からみて,3カ月以降のWBSは大まかな人数把握,工程予測ができる程度でも十分である。常に,3カ月毎の詳細WBSが繰り返し繰り返し作成できている方が実効的である。全日程のWBSの作成を求める職場や上司もいるので,その場合は作成しておこう。但し,3カ月以上のWBS作成に時間を掛けすぎないようにしよう。

WBSは作成することでリソースの確保などの目的もあるが,一番の目的はやはり進捗管理に活用できることである。従って,確実に実行できる計画であることが必須であり,その意味で3カ月もあれば十分である。計画通りに進むことが重要で,見直しの度に,WBSを後へずらして行くようなものであってはならない。遅れが生じれば,計画見直しの以降の3カ月で挽回できるような計画にしなければならない。ここでもWBSの進み具合に対するPDCAサイクルが廻るようになっていることが必要である。

  C進捗管理ツールを使う

進捗管理を行うのに便利なツールがいろいろある。代表的なものはMS-Projectであるが,その他にもプロジェクト管理のツールとして発売されているものが幾つかある。各々に特長はあるが,大まかに云うと,WBSの作成を手助けしてくれるもので,仕事名と期間,先行する仕事などを入力すると,工程表に表してくれ,クリティカル・パスなどを自動的に表示してくれる機能などが付いている。使い慣れると便利なもので,進捗度合いも判り,遅れている仕事も見える化してくれる。

ここで注意すべき点が幾つかある。その一つは,使い慣れると便利と述べたが,いろいろ便利な機能が付いているので,それらの機能を十分使いこなすには時間を要することと,費用が掛かることである。進捗管理はリーダ一人がやっておれば良いのではなく,WBSをメンバーと共有しなければ意味がない。つまり,進捗管理ツールを使ってWBSを共有するためには,最低限でも主要メンバーには必要で,その費用が結構掛かる。費用対効果がでるかどうかである。

また,進捗管理ツールは便利に使おうとすると,ある程度WBS作成などを十分にできる人でなければならない。なぜならば,仕事や期間,先行する仕事など,入力条件は自動的にはやってくれない。つまり,肝心なポイントは,経験者でなければ入力できないからである。これまで,進捗管理ツールの導入の相談を受けたことがあるが,「小中学生に真剣の刀を持たせるようなもので,真剣の刃(有能なツール)は切れすぎて,使い切れないことが多いので要注意」と説明してきている。つまり,プロジェクト管理に慣れない人が使おうとしても使い切れないのである。また,逆にプロジェクト管理を熟知しているひとは,わざわざ進捗管理ツールを使わなくても,エクセルで十分使いこなせている方が多い。

こう言うと,進捗管理ツールを全面否定しているように取られるかもしれないが,決してそうではない。金銭的にも余裕があり,プロジェクト管理で躓いていることが多い場合,その原因にも依るが,こうした管理ツールを利用して,進捗を容易に見える化できて,メンバーでWBSを共有して進めることができれば効果はあると思われる。また,上司など上への進捗報告も,こうした進捗の見える化により,適切なアドバイスを貰えることもある。活用如何では効果的なツールである。

  D一次情報をしっかり押さえる

進捗管理の基本は,現場第一線の的確な情報把握である。どんなに立派なWBSが作成できても,プロジェクト管理が上手く行かないことが起こる。つまり,現場の第一線がWBSに則ってきっちり仕事が廻っているかどうかで,それをWBSなどで見極めることが重要であり,ここはプロジェクトリーダの手腕に掛かるところである。

拙いやり方は,リーダ自身が部下に任せてしまって,自らが部下(サブリーダ)からの情報だけでしか判断しないような場合である。任せることは必要だが,丸投げ状態では任せたとは云えない。殆どの報告は部下からの情報でも良いが,その検証は,時には現場第一線の生の情報を採り入れることを怠ってはいけない。

特に,外部委託(含むオフショア開発)など,現場第一線が見えないところにある場合,中間に入ったサブリーダからしか情報が上がって来ないケースでは注意が必要である。ここで失敗するリーダが多い。外部委託での委託内容の詳細なWBSがあるかどうかでも大きく違う。WBSがあったとしても,現場第一線が見えていないとそれを信用するしかない。信頼の実績があるところでもケースによって違うことがあるが,特に信頼が十分で無い委託先やオフショア開発では,やはり一度は現場第一線を見ておくことが大切である。これを怠ると後で大きな痛手を負うと云うケースが頻発していることを忘れないで欲しい。

即ち,リーダ自身が常に一次情報を把握することに努める姿勢を持っているかどうかで大きく違ってくる。現場・現物・現認と云われているように,仕事に於いて現場感覚をきっちり持つことの重要さを教えてくれている。

 

 

[Reported by H.Nishimura 2011.10.02]


Copyright (C)2011  Hitoshi Nishimura