■プロジェクトマネジメントの応用 9(ソフトウェア開発編)

  ◆ソフトウェア開発計画書を作成する

  @ソフトウェア開発計画書(以下計画書)の目的が十分理解できているか?

計画書の狙いはいくつかあるが,次のようなものである。

(1)プロジェクトの基本となる計画であり,目標を定めるものである。
(2)計画された内容が確実に実施され,その通りできれば,QCDバランスよく成功に導くものである。
(3)計画と実績の差異が明確となり,次のプロジェクトに活かされるものである。

この狙いを実現させる具体的な方法を記載するもので,QCDの目標を設定し,成果物としてどのようなものを,いつ作成・承認・発行するかも明確にさせる。
プロジェクトとは,PDCAサイクルを廻して目標必達するもので,特に,計画書はその基本の部分を示すもので,これを基にマネジメント活動が展開されるものである。
小規模の少人数のプロジェクトでは,全体への指揮命令も的確にでき,全員のベクトルも合いやすく,変化に対する対応も素早くできるので,計画書そのものが効力を発揮する場面は少ない。むしろ,大規模なプロジェクトでは,上述した内容と反対のことが起こる可能性が 高く,情報共有して目標を明確にさせるためにも,計画書の作成は必須と云える。
先ずは,このことを十分理解した上で,作成することが前提で,審査に必要だから,ルールで決められているからとか云った理由で作成することそのものが目的になってしまっているのは論外である。

  A計画書の作成ポイントが理解できているか?

作成のポイントについても次のような観点が重要である。

(1)プロジェクトの成功への道標
(2)実行可能な計画であること
(3)リスクが明確になっていること
(4)変化に対応して修正が掛かること
(5)経営成果に結びつくこと

こうした作成の重要なポイントを理解した上で,その主旨に沿った内容になっているかどうかが重要である。特に,上述した計画書の目的を具現化する意味合いが込められたものになっていなければならない。
決められたフォーマットに従って作成することは,漏れや抜けを防止する意味では大切なことであるが,作成ポイントを外した形骸化した内容では作成する意味が無い。なぜ,そのフ ォーマットを必要としているのか,十分意味合いを理解して正しく運用することが大切であ る。

  Bソフトウェアの品質確保には必要不可欠なものである。

ソフトウェアの品質確保は,決められたプロセスに従って,決められたルールの下,計画したことを着実に実施することで実現する。計画書は,その基本となる活動を計画して実施に移す大元になるもので,この計画の良さが品質確保を担保することになる。したがって,計 画書作成に当たっては品質確保をどのような施策で実施するか,十分練られたものであることが重要である。
ソフトウェアの品質確保を具体的に行うには,設計の上流工程からの対応が必要とされている。即ち,ソフトウェアの品質は,システム評価テストなど評価工程を経るものの,そこでの品質確保では限界があり,設計段階の上流工程からの品質確保が欠かせない。
ソフトウェアはハ−ドゥェアと違って自由度が高く,設計者によって品質のバラツキが大きい。そこで開発プロセスとして品質を確保する方法が取られ,仕様決定から評価までをX字型のプロセスで,確実に品質を担保することが標準プロセスとして確立している。
ただ,その運用は組織の成熟度で様々で,品質はそのプロセスの各工程での品質確保に依存している。即ち,設計の前工程でどれだけバグを検出して品質を高めるかに掛かっている。 計画書段階でそのような計画が組み込まれていなければならない。

  C計画書はいつ(タイミンの,誰が,どのように書くのか?

計画書そのものの構成は標準的なものが示されており,それに基づいて記載すれば,漏れや抜けがなく作成できるが,問題はその中身である。
先ず,仕様が十分定まるか,定まらない段階で作成に入ることが多い。当然,仕様のプレによって計画が変わる。したがって,最初から完璧な計画書を狙うのではなく,初期の段階は, トップダウン的な,方針や概略見積など,DRなどで審査・判断を必要とされる部分を明確にさせることである。
ソフトウェア計画書なので,ソフトウェア開発の責任者が,或いはプロジェクトマネジャがプロジェクトを全貌した内容でまとめるようにする。もちろん,複雑なシステムでモジュー ルなどに分割されている場合は,各モジュールから詳細なデータの提出を要求することになる。
正式版としては,詳細設計仕様書作成などが始まる前の段階で,WBSなどタスクの詳細な部分を明らかにして,ボトムアップの見積を基に,QCDの詳細な目標値も合わせて計画に盛り込むことである。
作成のポイントでも示したように,フォーマットを埋める作業ではなく,プロジェクトを成功に導く具体的なやり方を明らかにするように記載しなければならない。

  D計画書の内容の妥当性を吟味しているか?

計画書を作成したら,必ず関係者で内容をレビューすることが重要である。なぜならば,この計画書を基にプロジェクト活動を展開するので,いい加減なものや,一方的なものであってはならないからである。
標準の構成に従って,漏れなく記載されていることは必要だが,プロジェクトとしてのQCDの目標が設定され,次のような点の妥当性があるかどうかを吟味することが必要である。

(1)規模見積と工数見積,及び要員計画
(2)品質目標と評価体制
(3)プロジェクトとしての課題提起(技術難易度など)
(4)進捗状況(これまでの状況把握)
(5)リスク管理,外注管理など

第三者部門(SQAなど)による開発計画に対するアセスメント(プロジェクトとして成功するか,それに閲しリスクとみなされる点の指摘など)を受けることができればなお良い。


[Reported by H.Nishimura 2011.05.29]


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