■プロジェクトマネジメントの内容 1(解説編・企画)
今回から,10回程度に分割して,プロジェクトマネジメントの具体的な進め方のポイントを順次述べることにする。一般的な,「プロジェクトマネジメント」と表題のついた書物と基本的には大きく変わらないと思う。そうした基本的な部分は外さないで,実際に自らがやってきたプロジェクトマネジメントの経験から,これからプロジェクトマネジメントに取り組もうとされている技術者に役立つような内容にできたらと思いつつ,パソコンのキーボードをたたいていくことにする。
プロジェクトの流れに沿って,企画〜計画〜実施〜反省 と云った順序に進めていく。
◆目標を明確にする
プロジェクトマネジメントのスタートは,このプロジェクトの目的が何であるかを把握した上で,ターゲット(目標)を明確にすることに始まる。つまり,このプロジェクトのゴールは,何(What)で,誰(Who)が,いつまで(When)にやるのか,である。
何故,目標が大切か?
これまでは,特に高度成長時代のプロジェクトの進め方は,方向が少々誤っていても,みんなが伸びているよき時代で,多少の伸びの違いが出る程度で済んでいた。競合他社との競争も,業界そのものの伸びがあったため,お互いが多少の違いはあってもシェアできていた。ところが,昨今のように成長するものとしないものがはっきりし,或いは殆どがゼロ(或いはマイナス)成長となると,ターゲットを間違うと成果が少ないでは済まなく,全くゼロにもなりかねないことが起こってくる。従って,まずリーダの最も大切な仕事は,プロジェクトの目標をはっきりさせて,間違いのない目標に向かって進めていることを宣言することにある。
例えば,実際にプロジェクトとは称しているが,どうもターゲット(目標)が曖昧と云ったケースが見受けられる。プロジェクトのメンバーでも,ある人は,ターゲットはAだと云い,またある人は,ターゲットはBだと云う。こうしたプロジェクトは往々にして,プロジェクトリーダ自身がしっかりとしたターゲットを示していないことが多い。こうした場合には,メンバー内での力の分散が起こり,決して効率的な活動にはならない。
目標を明確にするにはどのようにすればよいか?
それでは,目標を明確にする方法はどんなやり方があるか。
1.真のニーズを的確に把握すること。
プロジェクトを進めるに当たって,まずニーズがあるはずである。しかもそのニーズが真のニーズであることが大切である。つまり,言葉の端や表面上のことをニーズとしてしまうのではなく,会話や質問,或いは市場の動向,技術動向などいろいろな要件を加味して真のニーズを的確に把握しておくことが重要である。技術の場合,新製品開発プロジェクトにおいて,ユーザの真のニーズを的確に把握しておかないといけない。言葉で云うのは簡単であるが,これがなかなか難しい。真のニーズはユーザから云われた単純なものではなく,技術者同士の提案による会話などの中から出てくることも多い。
最も間違いを犯しやすいのは,方法や手法を目的にしてしまうことである。一番多いのが改革をやろうとして,著名な手法やコンサルタントが教える手法を目の辺りにすると,目的が改革ではなく,手法を導入すること,手法を学ぶことにいつしか変わっていることがある。手法はあくまでも手法であり,真のゴールである改革を遂げることとは違うのである。こうした間違いは,本人が気がつかぬ間に起こっているのである。
2.最終成果物をドキュメント化しておくこと。
次に最終ターゲットの成果物を最初にドキュメント化しておくべきである。ドキュメント化することで,抽象的な目標でなく,具体的になり,みんなの共有が図れる。また,途中でターゲットが変わっても,その経緯がはっきりし,最終結果から見直しをするときにも必要である。技術の新製品開発プロジェクトの場合,企画書にできるだけ具体的な目標を数値化しておくとよい。また,意識改革,業務改革なども言葉の遊びになってしまわぬよう,どういう状態が実現することであるかを明確にしておくことが重要なのである。
3.優先順位があるものははっきりさせておくこと。
通常のプロジェクトは日程,資源,最終成果物のバランスが取れていることが望ましいが,プロジェクトによっては,日程優先,資源優先,最終成果物優先とするものがある。こうした場合には,最初に優先順位を明確にして全員が共有した状態でプロジェクトを進めることも大切である。
目標を達成さえすれば良いか?
技術活動におけるプロジェクトの代表的なものは新製品開発プロジェクトである。
新製品開発プロジェクトにおいては,開発目標は性能,品質が先ず第一である。開発目標が決まれば,次に,技術で最も気をつけなければならないのは,日程と費用である。
最終着地点(性能,品質)は,比較的はっきりしており,一定レベルの商品にできあがらないと開発ができたとは云えない。それよりも技術活動は創造的な仕事も多く,思わぬトラブルや技術的なハードルの高さに遅れることが間々ある。専用顧客が付いたカスタム品と呼ばれる商品では顧客が眼を光らせており,日程が自ずとコントロールされるが,顧客がまだ具体的でない一般的に使われる汎用品と呼ばれる商品開発では,顧客が具体的に付いていないこともあって,こちらのペースで仕事が進められる。従って,日程面ではどうしても自己都合の甘さが出てしまうことが多い。最終成果(性能,品質)のグレードを当初目標より上げるために日程を延ばすことと,当初に立てた最終成果に到達していないので日程を延ばすのとは全く意味が違う。日程面の管理が不十分で,後者で日程遅れが生じることに,注意しなければならない。
また同じように開発に掛かる費用についても十分考慮する必要がある。即ち,研究開発費や人件費などの開発費用が該当するプロジェクトに見合ったものになっているか(リソースが的確になっているか)を常に意識した上でプロジェクトを進めることも重要なことである。当初立てた日程からずれ込むことは,常に他社と競争しているので,開発日程が遅れて開発目標が達成しても,遅れただけ拡売のチャンスを失ったことになり,開発に掛かる費用が増大し,プロジェクトとしてみると成功したとは云えないのである。(投資 vs.効果)
誰が目標を決めるべきか?
最終目標を決めるとき,メンバーが各々ターゲットを決め,それを持ち寄って全体のターゲットを決めるボトムアップ型のやり方を推奨するリーダもいるが,ことプロジェクト推進においては,全体のプロジェクト推進リーダのトップダウンで目標を決め,それを基にメンバー各々がターゲットを決め,それに基づいて推進することが非常に重要である。
少なくとも全体目標を決める前に,プロジェクトの全体像を把握しないでメンバー各々がターゲットを決めようとすると,自ずと狭い領域で判断がなされ,ボトムアップの積み上げ型では,部分最適の集まりになってしまい的確な目標から歪んでしまうことが起こる。
プロジェクトリーダは全体を任された責任者であり,目標必達を経営者とコミットメントしているはずである。そのリーダがプロジェクトの全体像を十分把握してトップダウンで目標設定するのが当然の成り行きである。それができないようなら,プロジェクトリーダとは云わない。もちろん,自分が決める前に経営者から,目標を設定されることはよくあることである。指示されたからやりますのではなく,目標とされるスコープの実現に,限られたリソース,決められた期限でできるか否かを十分吟味して,コミットメントすべきなのである。上から決められたからその目標に向けてやっています,と云ったタイプのプロジェクトは,既にできない逃げ道を作っているようなもので,上手く行く確率は極めて低いことが多い。
◆実効性を高めるために
プロジェクトを成功に導くためには,最初の企画段階での検討が不可欠である。それは最初にプロジェクトについて十分な分析ができているか否かに大きく依存している。
基本的なものは,次のようなことである。
- プロジェクトの分析項目を設定し,必要な情報を見極めること
- 収集した情報の確定度,可変性,信憑性を評価すること
- 欠落情報,未知項目を明確にしておくこと
- 未知項目を既知にする目標を定めておくこと(仮説検証すること)
- これらを実行プランに盛り込んでおくこと
多くのプロジェクトが失敗の憂き目に遭っているデータがあるが,それらから教えられることは,この最初の企画段階の検討がじゅうぶんできていないことが原因になっているのである。(プロジェクトの失敗の約90%が初期段階との報告がある)
◆新製品開発プロジェクトを確実に成功に導くポイント
技術者の最大のプロジェクトである新製品開発についても,企画段階での検討が成功に大きく左右する。その主なポイントについて,次に列挙しておく。
○商品企画
1.新製品企画書ができていること
背景、開発コンセプト、差別化のポイント、開発リソース(組織)、設備投資
販売・利益計画、競合比較、知財権、コスト、製造プロセス、開発スケジュール など
2.技術ロードマップと整合がとれていること
3.経営責任者の承認を得られていること
○顧客要求事項
1.顧客の要求事項が明確になっていること
要求仕様、開発スケジュール、品質(信頼性)性能 など
2.メンバー全員が共有できていること
○要素技術に関して
1.どのような要素技術が必要か明確になっていること
2.各要素技術の強み、弱み、技術レベルが把握できていること
3.他社と差別化できる要素技術があること
4.各要素技術に対する技術リソースが当てはめられていること
5.不確定要素などリスクが明確になっていること
○マイルストーンの設定
1.開発完了までのマイルストーンが設定されていること
(関連部署との整合性が取れていること)
2.マイルストーンにおけるチェック項目、判断基準が決められていること
3.直近のマイルストーンまでは詳細スケジュールにブレークダウンできていること
4.リソースが割り当てられていること
5.大まかなクリティカルパスが明確になっていること
[Reported by H.Nishimura 2007.08.02]
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