■プロジェクトマネジメントとはどんなものか?
プロジェクトとは
順序が逆になったが,プロジェクトと云う言葉は,テレビの「プロジェクト X」などで有名になり,一般の人でもイメージは描けるようになっている。プロジェクトとは,通常のルーチンワークで行う作業と違って,ビジネス目標を達成するためのユニークな,つまり一度だけの限定された作業である。このビジネス目標には,変化の創造,戦略計画の実施,契約合意事項の実現,特定の課題の解決などがある。
また,プロジェクトは,明確な目的があり,スコープ・品質と云った最終成果物を明確にした上で,資源(人・物・金)と時間(開始と終了)のバランスの上で成り立っている。このことが,プロジェクトとしての基本である。
また,リチャード・オルセンは,プロジェクトマネジメントを,「ツールと技法の集積の適用。時間,コスト,品質の制約条件の下で,独自的な複雑な一度だけの仕事の達成に向けて多様な資源の利用を指揮すること」と定義している。
プロジェクトを上手く進める方法
定義はともあれ,我々の実社会では,決められたパターンに則ってやる作業以外の仕事は多い。特に,技術者は創造的な仕事が本来の仕事であり,そう言った意味では仕事=プロジェクト である。この仕事を如何に上手くやり遂げるか,そのやり方がプロジェクトマネジメントである,と云えば判りやすいかも知れない。
技術者の悩みに,仕事が上手く進まない,新製品開発が上手く行かない,課題の解決ができない,などと云ったものがあるが,これらの問題を上手く処理する方法があり,これらのやり方をプロジェクトマネジメントと云う。言い換えれば,技術者が上述した悩みを抱えいると云うことは,言い換えれば,プロジェクトマネジメントができていないことを指していると置き換えても間違いではない。
少なくとも複数の部下を持ったプロジェクトリーダは,プロジェクトマネジメントがどんなものであるか,その全容を学んで欲しい。そうすることが,プロジェクトを後戻りしたり,思わぬ落とし穴にはまったりしないことになり,結果的にプロジェクトの成功に上手く結びつけられるのである。
仕事をする上での合理的なやり方
プロジェクトマネジメントの詳細は次回以降に述べるとして,仕事を合理的に効率的に進めるやり方をシステマティックに解説していると云える。
プロジェクトとは,初めて行うものだから,決められたやり方があるわけではなく,またルールに則ってやればできると云うものではない。そうかと云って思いつくままやるのでは,失敗も多く,後戻りしたりするなど仕事の効率は良くない。そうした初めての仕事に対して,取り組む考え方,方法をまとめたものが,プロジェクトマネジメントである。したがって,このやり方に沿ってやることで合理的な仕事運びができることになる。
もちろん,初めてとはいえ,先輩諸氏のやり方を見聞きしているので,それを真似るのは悪くない。経験が先であると,失敗を恐れず前に突っ込むのもよい。しかし,プロジェクトマネジメントなるものが,どんなものであるかを十分学んだ上で,取り組むのとそうでないとには,明らかに差が出るであろう。自分で見聞きし経験する範囲はごく狭いものである。それよりも,世の中のプロジェクトの経験から,そのポイントを抽出したプロジェクトマネジメントを学ぶことがどれだけ有効か。その効果は絶大である。
もちろん,プロジェクトマネジメントの内容には,普段から心掛けて既にできている部分もあるだろう。なんだ,そんな程度かと見くびらないで欲しい。なぜなら,できていると思っている人ほど,あたかも同じような行動はしていても実は肝心なポイントが抜けているのである。頭で学ぶだけで実際の仕事には少しも使わないと云うのでは意味がない。実際にプロジェクトに使いながら,自分に合ったプロジェクトマネジメントを創り上げることが真に仕事で活かされることになる。
仕事の「見える化」
最近流行の「見える化」をプロジェクトマネジメントでは以前からやっている。つまり,プロジェクトは複数の人間で行うので,意思疎通,コミュニケーションが大事である。そう言った点で,マイルストーンを示したり,クリティカル・パスがどの部分にあるかなど,プロジェクトに参画しているメンバーに明確に示している。
多くの人が関われば関わるほど,プロジェクトの全容が見えず,自分の仕事の位置づけが判らなくなる。私の経験からすれば,3,4人までのプロジェクトであれば,コミュニケーションも自ずと取れ,プロジェクトマネジメントを云々することは少ない。ところが,5人以上になると,お互いの仕事の関連が薄くなり,相互関係が自然と希薄になっていく。リーダがこまめに気を配っている人なら目指す方向性は間違いないが,通常では目指す方向性のベクトルにも違いが生じてくる。
こうした事態を避け,プロジェクトメンバー全員のベクトルが合い,お互いが助け合いながらプロジェクトを進めるには,仕事の進捗が,特に全体の進み具合が,メンバーの誰からも判るようにしておくことが大切である。プロジェクトも大きさにより,数十人というケースもざらである。仕事の進み具合が「見える化」できていると,各々が全体を見て行動の判断をすることができる。プロジェクトリーダからの指示を待ってから仕事をするのと,自らが判断しながらするのとでは仕事のスピードが違う。
こうした「見える化」が叫ばれるのは,向かう方向がみんな一緒だった高度成長時代と違い,変化の激しい今の時代にマッチしたやり方なのである。特に,個人,個性が重要視される時代にあって,プロジェクトはメンバー全員がベクトルを合わせることが非常に重要なのである。優秀な個性を持った人が集まったら成功するものではない。「見える化」はメンバーのコミュニケーションを取るのに有効な方法なのである。
IT業界特有のスキルではない
プロジェクトマネジメントは,IT技術が大きく伸びてきたためできたものではない。プロジェクトの定義からも判るように,全般的な仕事である。しかし,特にプロジェクトマネジメントが,最も叫ばれ,有効視されているのがIT業界である。プロジェクトマネジメントの資格があるが,こうした資格取得に熱心なのもIT業界である。
IT業界に身を置いたことはないので,その実態は定かでないが,少なくとも私の数少ないIT関連,と云うよりソフトウェア関連の仕事では,プロジェクトマネジメントが比較的有効であると感じたことがある。プロジェクトマネジメントの内容で詳細は触れるが,仕事の後戻りという事態がハードウェアの仕事よりもソフトウェアの方がより多く,その程度も大きいように感じている。
ハードウェアの仕事では,仕事の内容の擦り合わせが比較的容易であり,見える部分が多いのと擦り合わせをしながらでないと進まないことが多い。そのため,常に横関係の仕事と相互チェックがなされながら仕事が進んでいく。ところがソフトウェアの部分は,最初のシステム設計で部分設計に分担すると,それぞれが完成するまで横の連携が全く採れない。ソフトウェアの未完成部分で,横のソフトを擦り合わせすることは不可能なのである。
このことは,ソフトの一部分が未完成のために全てが進まなくなったり,部分を継ぎ合わせたところ,そこで新たな問題が発生したり,プロジェクトの進行に大きく影響する場面が多い。そうした実態から考えても,プロジェクトマネジメントの考え方をきっちり入れてプロジェクトを進めることが非常に有効なことが理解できるのである。
ただ,プロジェクトマネジメントはIT業界特有のものではなく,仕事をする上で非常に重要なものなのである。
より大きな仕事へのステップアップ
プロジェクトマネジメントは前述したように実践することに意味がある。初めは小さなプロジェクト,少人数のプロジェクトから始めることになるだろう。そこで経験したこと,成功も失敗もが必ず次のプロジェクトに活かされるはずである。なぜなら,後述するように,プロジェクトマネジメントは,一旦プロジェクトが完了したところで,「事後の見直し」をすることがステップとしてある。
この見直しには,上手く成功した部分もあり,逆に失敗した部分もある。失敗したことからは,次に同じ失敗をしないために何をすべきかと云うことが学べるはずである。もちろん成功した部分は,自分自身のやり方に自信がつき,さらに大きなことへのチャレンジ意欲をかき立ててくれることになる。つまり,プロジェクトマネジメントに沿って仕事をすると,必ず,次の大きなステップへと導いてくれることになる。
誰にも通用するやり方は,誰にでもマネができることでもある。プロジェクトマネジメントの基本部分は確実に学びながら,その中で実践を通じて,オリジナリティある自分のプロジェクトマネジメントを磨くことが大切である。そうした自分の意志のこもったやり方が,部下を魅了するやり方にも通じていくのである。
[Reported by H.Nishimura 2007.06.29]
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