■なぜ,プロジェクトマネジメントを学ぶ必要があるのか?

まず,最初にプロジェクトマネジメントを知っている人も,知らない人も,なぜ,このプロジェクトマネジメントを必要とされているかについて,整理しておこう。

プロジェクトを上手く成功させる手法

プロジェクトとは,ルーチンワークの仕事と違って,殆どが初めて経験する仕事である。したがって,不確定な要素がいっぱいある。見本となるやり方もない。そうした中で,限られた期間で,限られた費用,限られたリソースで,決められた目標を達成しようとするものであるから,成功させることは並大抵の努力ではできないものである。

現実を見ると,企業の中では多くのプロジェクトが進んでいる。上手く進んでいるものもあれば,なかなか思い通りに進んでいないプロジェクトもある。技術者の多くが携わる新製品開発プロジェクトは,まず,殆どのものが日程遅れになっているのではないだろうか。私の経験からも,なかなか日程を厳守できたものはない。しかし,発売日程が既に決まっていたり,顧客への納入日が決められているプロジェクトも多い中で,如何にして目標性能,品質,コストをクリアさせるかに,全力投球するのである。そのときに,プロジェクトマネジメントが上手くできるか,できないかで,その成果物は大きく違ってくる。それほど重要なものである。

技術者の場合,こうしたプロジェクトに参画する機会は非常に多い。プロジェクトを成功させるか,否かは,出世にも大いに関係するし,自分自身の成長にとっても,大きなウエートを占める。だから,多くの人がプロジェクトマネジメントを学ぼうとするのである。

本や座学だけでは学べない

そんなプロジェクトであるから,いろいろな学者や経験者が,プロジェクトマネジメントに関する書籍を出している。本屋に行けば,一つのコーナーが設けられているくらいである。初心者向けから,経験者向け,さらにはすぐ実践に活用できるソフトまで付いている書籍まである。頭で理解するだけであれば,それほど難しい内容はない。後述する「プロジェクトマネジメントの内容(解説)」を読んでいただくだけでも十分である。

もっと基本的なことから学びたい人には,「PMBOK」(Project Management Body of Knowledge)と云う書籍があるので,これを読まれると良い。プロジェクトマネジメントについて,すばらしい内容が書かれている書籍である。これは,プロジェクトを遂行する際に、スコープ(プロジェクトの目的と範囲)、時間、コスト、品質、人的資源、コミュニケーション、リスク、調達、統合管理の9つの観点(「知識エリア」と呼ばれている)でマネジメントを行なう必要があるとしている。適用分野(業界)を超えた標準知識体系を定めることによって、プロジェクトマネジメントの共通概念・用語を設定しているものである。(書籍:プロジェクトマネジメント知識体系ガイド第3版

これらプロジェクトマネジメントに関する書籍で学ぶことは有意義なことであり,先人の経験をまとめたものであるので,役立つ内容は多い。しかし,これらを学んだから,自分はプロジェクトマネジメントができると考えると大きな誤りを犯してしまう。自転車のりでも,水泳でもやり方について本で学ぶことはできても,自転車にはすぐ乗れないし,泳ぐこともできないように,プロジェクトマネジメントも,実践して学ぶことが実に多いのである。

そういう意味では,小さなプロジェクト(2,3人〜数人程度から)で,経験を積み重ねながら,だんだん大きな,重要なプロジェクトを経験していくことが,一番確実に学習が進む方法だろう。現実には,なかなかそうも行かないことが多いので,プロジェクトに携わったら,常にリーダになったら,どう考えるか,どう判断するかを常日頃から心掛けておく必要があるのではないか。そうすれば,自分がプロジェクトリーダになったときに,あわてることなくプロジェクトを進めることが可能である。

成功体験がステップアップさせる

プロジェクトマネジメントは実践すること,と述べたが,私の経験からは,失敗から学ぶよりも,成功した体験が,次への果敢な挑戦をさせてくれる,と感じている。現に,プロジェクトマネジメントを上手くできなかった人は,次の機会にも何か,上手くないことをやって,大きな成功に結びつけていないことが多い。失敗から学ぶと云うが,それは成功した人が,自分のプロジェクトを振り返り小さな失敗を反省したり,他の人がやった失敗を自分はしないように心掛けるのである。

プロジェクトは成功させることを目指す。つまり,どのようなステップを踏み,どのようなリスクを予め想定しておき,どこに,どのようなマイルストーンを設定しておくのが良いかなど,成功した,或いは成功すると信じるやり方でプロジェクトを進めるのである。このことは,成功の経験のない人にはかなりの難問である。失敗する人が,なかなか上手くプロジェクトを成功できないのも,こうした考えが予め巡らないからであると思う。

経営でも,「重要成功要因」(Key Factor for Success)を予め検討した上で,戦略を立てたり,戦術を練ったりすることが推奨されている。プロジェクトは当に,経営の一手段の戦術であり,どのような方法でもって成功させるか,その手腕がマネジャーに問われているのである。失敗したことをきっちり分析して,同じ失敗をしないことは重要であるが,それ以上に,どうして成功させるか,必ず成功させるには,どんな方法が一番適切かを,自分の頭で考えることを問われている。

つまり,プロジェクトは成功することが次のステップアップになることは間違いない。

ツール,手法におぼれないこと

優れたツール,ソフトなど使いやすい手法が世の中に氾濫している。子供が真剣の刀を振り回すと危ないように,優秀なツールは使いこなす技量が大切である。高価なソフトが必ずしもプロジェクトを上手く成功させるとは限らないことを予めよく理解しておこう。特に,部下から高価なソフトを申請されると,理解不足な上司はこれさえ与えれば,上手く仕事が進むと判断するケースがよくある。世の中に,仕事が成功するツールなどない。仕事の成功の裏には,よく考えて行動する人が必ず居るものである。

どんなツールや手法があるかを知り,その内容を十分理解することには意味がある。どんな場面で,どの手法を用いるのが一番適切かを知ることができる。ところが,往々にして,日本人は横並びが好きで,みんながやっているから自分もやろう,流行っているから是非やろう,と云ったタイプの人がいる。こうした人でプロジェクトマネジメントを上手くやっている人は殆ど見かけない。

それよりも,手法はごく簡単な,或いはツールも特別なものは使っていなくても,プロジェクトマネジメントの肝を,きっちり押さえたやり方をする人の方がプロジェクトを成功させる確率が高い。初めに述べたようにプロジェクトは不確定要素へのチャレンジである。それを既製のツールでこなすこと自体に無理がある。環境変化に素早く対応する俊敏さはツールでは出てこない。そこには,人が持つ感覚(経験カン,事業カン,意欲などの総体)がものを言うのである。

仕事のやり方が下手な人にはプロジェクトマネジメントのステップのどこかが欠けている

仕事の進め方が下手な人が中には居る。こういう人は,必ずと云って良いが,段取りが悪く,行き当たりばったりの仕事の進め方をしている場合が多い。また,独りでコツコツやるのも良いが,昨今の仕事は独りではなく,仲間との連携で進める仕事が多い。つまり,連係プレーができない人が居る。また,仕事が進まず焦ると自分自身で何をやっているか判らなくなってしまった経験を持つ人も多いのではないだろうか。

これらは,仕事を進める上で,大きなロスをしている。時には,同じことを繰り返さなければならないはめに陥ってしまうこともある。ソフトウェアで云う無限ルーチン(同じループを回っていて先に抜け出せないこと)に陥ってしまう。こんなことが起こるのは,プロジェクトマネジメントが全くできていない症状である。プロジェクトマネジメントのステップのどこかが,大きく欠落しているからである。

仕事がなかなか思うように進まないと云う感覚を抱いている人は,是非,このプロジェクトマネジメントの基礎をきっちり学んでもらい,今後の自分の仕事の進め方の指針として欲しいのである。

 

[Reported by H.Nishimura 2007.03.14]


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