■技術経営とは? 3 (技術経営に必要な条件)

次に,なぜ,MOT(技術経営)が必要なのか?について,技術経営に必要と考えられる条件を考えてみる。

「新製品開発のあり方」について

新製品開発から事業発展までの過程に於いていろいろな障壁がある。代表的なのが,下図に示す,死の谷やダーウィンの海である。基礎研究で良い技術ができても,それが製品化に至らず死蔵されてしまうケースがある。また,製品化にこぎ着けても,そこには市場競争と云う厳しい環境が待ち受けている。ここでは技術の良さよりも,顧客のニーズに合ったものかどうかが,生死を左右することが多い。言い換えれば,顧客を巻き込んだ,顧客と共に生成発展する姿になることであるとも云える。

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こうした事業発展までの過程で問題になるのが,研究開発のあり方であり,これが即ち,MOT(技術経営)の第一歩となる。そこで,MOTに必要な条件を挙げてみる。

◆「事業意欲」

新製品開発を何が何でもやり遂げて事業にしたいと云う強い思い,を先ず第一に挙げたい。こうした思いからすべてが始まる。新製品を世の中に出し,それで世界に貢献したいと願う気持ちである。

新製品開発とは,無から有を生み出す創造活動である。しかも,ひらめきだけで全てができるわけではなく,ある年月を掛けて,それも一人ではなく,グループで行う活動である。こうした活動を着実に進めるには,意欲,意志が無いところでは成就しない。グループ全員の一人ひとりに,そうした意欲があれば申し分ないが,少なくともグループとして「事業意欲」がなければならない。

この「事業意欲」は他の何にも勝るエネルギーであり,これの強さが事業発展を左右したケースも多い。また,開発過程で発生する如何なる困難をも克服させてくれる源でもある。

◆「事業観」「経営観」

技術者の中には,技術の惚れ込み,技術の中身に埋没してしまうタイプが居る。こういう人は技術の進展や,自己の腕が磨かれることに興味を持っている学者肌である。これでは,例え新製品開発に成功しても,いつまで経っても事業にならない。

企業で働く以上,事業センス,経営センスが必要である。優れた技術を事業に結びつける技術を見抜く眼,シナリオを作る力,戦略を立て,それを実行する力である。MOTにとっては,非常に重要な力である。上述したように,新製品開発から事業発展までの道のりは長い。しかも,いろいろな障壁がある。これを乗り越え,事業として発展させていくには,その道筋をきっちり描いて,仲間を引っ張っていくリーダシップが求められる。そのためには,「事業観」や「経営観」と云ったものを,明確に仲間に伝え,目指す方向へ導くことが,成功への大きな要因となる。

特に,事業化していく過程では,大きな投資が必要になる。それには,事業の展開図,資源の手当が必要であり,「目指す姿」への戦略が必要となる。こうした「戦略眼」も併せ持った経営者(技術者)が必要なのである。

大企業に居ると,技術部長にはなっているものの,事業観,経営観に乏しい人を見かけることがある。何らかの力があって,その地位にいるのだろうが,こういう人はトップの言いなりであり,上役にへつらうことでポジションを確保している。だから,誰からも経営者としての資質を求められている訳ではない。技術者としては,こういう人の下で働く人は不幸である。事業観や経営観を学ぶことができないから。

◆「鋭い洞察を伴うイノベーション力」

新製品開発は創造活動である。つまり,決められたルールに従って,効率を上げた仕事をすることではない。これまで他人がやったことがないことや,或いは他人がやったこととは違うやり方をすることが求められる。このことは,イノベーション活動そのものである。

しかも,新製品開発は,不確定な要素がいっぱいあり,それを限られた時間と費用と技術リソースでやり遂げなければならない。そのためには,いろいろな形で情報を収集・分析し,進むべき方向が間違っていないかを確かめながら,方向を決めて行かなければならない。即ち,未来を予測する鋭い洞察力が必要不可欠である。全てが判ってから,始めていては遅い。他人が気づくまでにやり始めなければならない。当然,不十分な情報であっても素速い判断が求められることがある。

◆強いリーダシップとそれを支える風土・文化・仕組み

事業を発展させるまでには,一人の力ではなく組織として仕事をすることが求められる。そうした組織では,リーダが必要となる。つまり,新製品開発から事業化,さらには事業発展と活動を展開するには,強いリーダシップを持った人間が必要となる。特に,高度成長時代のように横並びで進めば間違いない時代と違って,方向性を見誤ると事業の成否が逆転してしまうような変化の激しい時代にあって,組織をまとめて仲間を目指す方向へ向かわせる強いリーダシップが以前にも増して求められているのである。

企業目的を達成するために作られるのが組織であり,仕組みである。これらが,きっちり機能している組織は,自分たち仲間の結束はもとより,市場とのマッチングも十分配慮した活動が展開される。事業の発展は,個人の力もさることながら,最終的には組織の力であり,組織を,或いは仕組みをどのようにするかが,重要である。ともすれば,人ありきの組織が目立つが,やはり組織は,企業目的を必達させるための,トップの意志がこもった組織でなくてはならない。

また,組織で仕事するにはその土壌が,つまり風土・文化が大きく影響する。これらは長年培われてきた風土・文化であり,その組織の無意識での習慣でもある。これらは,その当事者たちは強く意識はしていないのだが,多くの重要な行動に反映されるのである。本当に,MOT(技術経営)を重視し,技術立社を目指している企業であれば,目の前の問題を解決するHow-toも大切であるが,それよりも大切なものは,その企業に存在する風土・文化になるのではないだろうか。

 

以上が,MOT(技術経営)に必要なものではないだろうか。

 

次は,MOT人材とその育て方とは?

[Reported by H.Nishimura 2007.04.29]


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