■マネジャーとしての役割
リーダーと同様にマネジャーと呼ばれる責任者が居る。リーダーより上位に相当する職責の場合があるが,必ずしもそうではなく,組織責任者(課長・部長など)として,マネジャーと呼ばれ,マネジメントをする人との意味合いで用いられることが多い。また,リーダーシップと共にマネジメントも求められ,リーダーよりも幅広い責任を負うことを指す場合もある。ここでは,技術責任者としてのマネジャーの役割に焦点を当てて述べる。
一般的にリーダーは変動が大きい時代に必要とされ,マネジャーは平穏時に必要とされると云われている。リーダーとの違いを見ながら,マネジャーの役割を見ていこう。
○組織全体を統率・管理する(事業計画)
マネジャーは組織の責任者である。したがって,組織全体の統率を図り,組織目標など管理全般を行う役割を担っている。通常一般には,年度毎に事業計画を立て(半期毎,毎月の詳細計画も),それに基づいた活動を行う。
事業計画に立てた活動計画を組織として遂行する。活動計画を実施するに当たっては,部下に詳細な役割分担を与え,各個人に事業計画を立てさせ実行させる。つまり,事業計画の実行が個人単位まで下ろされ,それらが確実に実行されることで計画が達成される仕組みになっており,その統率を取り,状況変化に対応した方策を取り計画必達を目指す。期末には,計画目標の達成の可否の判断,及び反省を行い,次の事業計画に反映させる。
また,組織の管理としては,事業計画に基づいた毎月の決算を行う。企業によって異なるが,また部門によっても異なるが,毎月のPL(収支決算)をはじき,計画に対する差分を検討しながら,計画した目標必達を目指す。通常,各マネジャー単位(各課,各部単位)で詳細な検討が加えられる。特に,製造部門では,変動費,固定費,在庫など毎月の増減,計画差などPL(収支決算)の詳細な検討を加え,目標数値の必達を目指した検討がなされる。技術部門の責任者は,そうした決算検討会に出席し,自らの部門の固定費の報告や新製品開発状況(量産投入時期)の報告をする。
○組織力を上げる(結果責任)
組織力を活かして事業に貢献することはマネジャーとしての大きな任務である。そして,マネジャーには組織としての貢献度が問われる。つまり,部下を預かり組織を任された以上,最適化された布陣で,与えられた仕事に当たり,結果を出さなければならない。目標に向かって一生懸命努力するのは部下の役割であって,マネジャーはその結果が求められる。全員が一生懸命頑張っても,事業に対する貢献がなければ,マネジャーとしての成果は認められない。
技術責任者としては,特に,新製品開発は最重要課題で,計画したスケジュールに則り,QCD(品質・コスト・納期)のバランスの取れた製品開発に組織力を上げて努力する。新製品開発は常に不確定要素が満ちているなので,順調に計画通り進むことは難しい場合が多いが,大きな狂いを生じさせないようなマネジメントが求められる。技術の組織力が問われるのが新製品開発であり,これが計画通り進むことが最大の使命でもある。
仕事は優秀な個人一人よりも,一定レベルのスキルを持ち合わせた集団の方が圧倒的に優れている。集団の一人ひとりが持てるスキルを十分出し合って掛かれば大きな力になる。そうした大きな力が発揮できるようにするのが組織力であり,マネジャーがその役割を果たさねばならない。個人の持てるスキルを十分に発揮できる環境を与え,個々の力が結集した組織力の発揮が良い製品を生み出す基となる。
○全体最適を図る(大局的見地)
マネジャーの役割を確実に果たそうとすると自分の立てた事業計画を必達することである。これに全力投球するのは当然のことである。計画そのものが確実にできることより,少しストレッチした目標設定になっていることが当たり前なので,かなり努力が必要である。ただ,環境変化状況によっては,全体の目標達成に向けた他部署との協力も必要なことが起こってくる。
こうしたとき,各課・各部に与えられた役割を果たすのは当然であるが,自分の管轄する部署のことだけに終始するのではなく,マネジャーとしては全体の中での位置付けをよく認識して,他部署との協力を惜しんではならない。ときには他部署からの援助を受け,ときには他部署を援助する側に廻り,全体としての目標を見失ってはならない。
実際の現場では,口で言うほど簡単なことではないが,部分最適に終わらず,全体最適を目指すことが必要なのである。そうしたことができる度量が必要である。
○部下を育成する(教育)
人を育てることはマネジャーとしての重要な役割の一つである。よく言われることは,自分の後継者を育てることである。組織責任者として,必ず次の後継者を誰にするか決めて,その人を自分以上に育つようにすることが使命でもある。組織はそうして強くなり,大きくなって行くのである。見方を変えれば,部下が育っているところは,組織力も上がってきているとも云える。人の成長は,組織力アップであり,企業の成長でもある。
マネジャーは部下に仕事の指示を的確に与えると同時に,部下一人ひとりの成長を促すことも重要な仕事の一つである。事業計画の中には,事業に向けた組織活動だけではなく,部下の育成も含まれ,それを通じて組織力を高めることは重要なことである。そのために部下との対話を通じてモチベーションを高め,スキルアップできるような指導を行うことが必要なのである。
部下は上司を見習って成長することが多い。だから,丁寧に細かく指導することもときには必要だが,見本を示して,技術的なコツや勘など,口では言い表せない暗黙知を伝承することも必要なことである。優秀な部下は,そうした上司の技・術・ノウハウなどを盗み取る。
そうは言っても,理想論と実際の違いはある。優れた上司は部下の育成にも熱心である。しかし,出世する上司が部下の面倒見がよく,育ててくれるかと云うと逆な場合が多い。自分の出世に精を出すが,それ以外は眼中に無いと云ったタイプが多い。競争社会では当然の結末かも知れない。だから,偉い上司だから部下を育ててくれると期待しないことである。
○経営的視点から上司を支える(戦略的経営者)
マネジャーの仕事は,組織を通じて事業に貢献することや部下を育成することがあるが,同時に一段上の立場に立って広い視野で上司をサポートする役割も担っている。つまり,上司から指示を受け,指導される立場であるが,常に受け身だけではなく,経営的な視点を持ち,上司に意見具申をしたり,上司の弱点を補完するような任務を受け持つこともある。
現場の第一線の声の反映は上司よりも身近に居る分,敏感に感じるものである。現場,現物,現認と言われるように,現場の感覚が経営を大きく左右することはよくある。そうした現場感覚をよく磨き,経営に反映させるのはマネジャーの役割である。こうしたマネジャーの役割を果たせているところは組織力も高く,企業全体としても成長している場合が多い。
○真摯であること
マネジャーにできなければならないことは,その殆どが教わらなくとも学ぶことができる。しかし,学ぶことができない資質,後天的に獲得することのできない資質,始めから身に付けていなければならない資質が,一つだけある。才能ではない。真摯さである。(「マネジメント」ドラッカー著 P130 マネジャーの仕事 より)
ドラッカーが上述しているように,マネジャーが役割を果たそうとするとき,必要な資質は,真摯さである。
[Reported by H.Nishimura 2013.05.13]
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