■技術責任者としての役割 3 (技術企画)
最後は,技術企画の仕事である。組織の名前に「技術企画」と付けているところがあるが,普通は技術管理などが中心の管理主体の役割が多く,技術企画の仕事をしていることは少ない。管理を重きに置くか,企画を重きに置くか,責任者のやり方一つでどちらにでもなる。企画は無くても仕事が回転するが,技術管理がないとその分技術者に負担が掛かり,効率的には良くない。
商品企画・新規事業企画
新製品を開発するには,先ず,その商品が売れるかどうか,マーケティング情報などを収集して商品企画(市場背景,製品コンセプト,差別化のポイント,対象分野(対象ターゲット),販売・利益計画,投資計画,開発スケジュールなど)をすることから始まる。開発技術者自らが目論見を作ることもあるが,大きな組織では商品企画を専門とする企画部門がある。
この役割は,如何に「市場ニーズ」と「技術シーズ」を融合させ,新製品を企画するかであり,場合によっては,新規事業を起こす可能性も秘めている。難しいのは,市場ニーズの発掘であり,顧客が具体的なニーズを言葉で発する前の,潜在ニーズ(ウォンツ)を上手く捉え,それを実現することである。誰でもできることではなく,商品企画のセンスが問われる。
重点商品企画・支援
全社を代表する重点商品・基幹商品が必ずある。これが事業として伸びないと会社全体へ及ぼす影響が大きい。したがって,こうした重点商品の企画・支援をする役割を担当する。事業戦略を基に技術戦略を立案し,次世代の商品をどのようにするかなど,製品のロードマップを作り,必要な要素技術を開発させたり,或いは外部から取り込んだりしながら,大きく育てることを目指す。
調査・分析
商品を企画する前の段階の市場・顧客マーケティングなど,調査・分析する役割も担う。特に,上述した市場の潜在ニーズ(ウォンツ)をどのように把握するかが大きなポイントである。情報は多い方が良いが,必ずしも多いだけでは役立たない。どれだけ,必要な情報を集められるかである。そのためには,「仮説」を立て,それに基づいて情報を集め,「検証」するやり方を繰り返すなど,精度を高める方法が求められている。
調査専門機関を使うことも有効であるが,本当に必要な情報を集めようとすれば,意図した本人が収集する情報に優るものはない。
成果発表会開催
一般的には,技術管理が行う業務であるが,技術企画が主体となるときは,狙い,目的を明確に打ち出す必要がある。定期的に定例行事として行う場合でも,会社幹部の特別な思いがある場合には,技術企画が主体性をもって開催することが望ましい。
特に,対外に向けた発表会など,顧客情報が集まる可能性がある場合には,貴重な機会と捉え,重要顧客の集客をはじめ,説明員の配置など,特別な配慮が必要となる。こうした機会は,期間が空くため,前回の反省が活かされていないケースがある。是非,マニュアルを作ったり,反省内容を次回に伝達できる工夫をするなどして,成果として実らせる会にしたいものである。
特命プロジェクト推進
企画部門は,時として,トップから特命のプロジェクトを仰せつかることがある。これは,トップの関心事であり,トップに成り代わって仕事をすることになる。トップの思いを十分咀嚼し,疑問を呈したら,コミュニケーションを密に速やかにやり遂げることである。スピードが肝心である。
■技術企画のポイント
1.商品企画のスキルを磨く
ある程度の経験も必要だが,持って生まれた素質がものを云う場合が多い。技術的な素養よりも,商品全体を素速くバランス良く見極めるスキルが求められる。論理的な左脳よりも,感覚的な右脳が働く人が向いている。もちろん,初めからそんな人は居ないので,日頃から企画のスキルを磨く努力が必要である。
2.俊敏な行動が求められる
状況の変化が激しい中にあって,そうした変化に対する洞察力を持ち,また一方で,日頃から訓練された適切な判断基準を持ち,俊敏な対応ができることが求められる。
以上,3回にわたって「技術責任者としての役割」を述べてきた。技術責任者になれば,必ず全てこの役割を果たすスキルを持たなければならない,と云うことではない。会社の規模,成り立ち,製品の分野の広さなど,それぞれの条件によって違ってくる。ただ,技術部門として,多かれ少なかれ,このような役割があること,名称はそうでなくとも,誰かがその役割を果たしているようになっていないと,バランスを欠いて,技術の責任を全うできない状態に陥ってしまうことは確かである。
[Reported by H.Nishimura 2007.05.21]
Copyright (C)2007 Hitoshi Nishimura