■技術責任者としての役割 2 (技術管理)
次は,一般的に必要な管理中心の役割について述べる
■技術助成
技術標準化(マニュアル化)
技術だけでなく,仕事が煩雑になってくると,人によってやり方が様々に違ってくる。しかし,多くの人が組織で仕事をするようになると,標準化が必要になってくる。元来,技術者は独創性を求められ,他人と違ったことをする習性がついている。ところが,効率を求める仕事では標準化は欠かすことができない。或いは,製品はいろいろな部品から成り立っている。この部品が,製品に対して一品一様である場合は少なく,部品として標準化されたものが使われるのが一般的である。こうした製品の成り立ちには,必然的に標準化と云う作業がつきまとう。
こうした技術標準化の作業を,技術者の代わってやる役割が求められる。業界でまとめて標準化を図る標準化委員会なるものが作られているケースも多い。JIS(日本工業規格)なども,こうした標準化を目指している。
知財支援
特許申請は技術活動として他社との差別化を図る意味でも重要なものである。通常,技術者自身が発明した内容を特許に書き上げるが,これには上手く書くコツがある。大企業では,知財権組織として独立しているところも多いが,通常一般には,技術助成の仕事として,技術管理部門に特許担当者がいるケースが多い。
特許出願と維持管理だけであれば,事務的な手続き中心で済むが,昨今は知財権の争いがクローズアップされることも多く,抵触しても紛争にまでならなかった過去と違って,一つ間違うと販売停止に追い込まれる危険性もある。また,米国の影響もあって,プロパテント時代となり,特許を重視する政策が日本でも打ち出されてきている。
技術法規(輸出入・法令遵守)
企業リスクマネジメントが叫ばれるようになり,昨今特に注目を浴びている。これは,従来から海外へ輸出する製品には,いろいろな制約,決まりがあった(安全保障貿易管理)。輸出するには,どの製品分類に相当するか(輸出統計品目表),輸出規制品に該当しないか(外国為替令),産地はどこか(原産地表示),安全規格が守られているか(各国安全規格)など,を十分理解した上で販売しなければならない。
これらのことを,技術者が十分理解していることは希であり,通常はこうした輸出管理専任の担当者,又は,専門商社へ依頼するなどして,法令違反をしないようにしている。特に,海外会社で生産している会社も多く,販売でなく同じ会社間でも,国をまたがる物品のやりとりには必ず,貿易管理の法令を理解した上で判断することが求められている。
環境アセスメント
環境についても,環境基本法を始めとする,環境の取り決めが行われている。特に,特定化学物質の排出については,国で法律で定められている(PRTR法*)。これに基づき,MSDS制度*が定められ,製造業では自主的に行政庁へ報告することになっている。つまり,新しい部品・材料を採用するに当たっては,MSDSに必要とされるデータをメーカから取り寄せ,管理しておく必要がある。
また昨今,電子・電気機器業界では,欧州の「RoHS規制」*により,原材料に有害物質が含まれていないかどうかチェックしておかなければならない。これに伴い,各部品の構成表と原材料を各部品・材料メーカに求める動きになっている。
これらを技術者が各自でデータ収集していたのでは,効率も悪く,会社としての整理も難しいので,技術管理部門などがまとめてやっている場合が多い。また,「環境問題」がクローズアップされてから,環境専門の部署を設置している会社も多い。
*「RoHS規制」:2006年7月1日以降,EU加盟国内において,有害物質(鉛,水銀,カドミウム,六価クロム,ポリ臭化ビフェニル,ポリ臭化ジフェニルエーテル)が一定量以上含まれた電子・電気機器を上市することはできない。
*「PRTR法」:(平成11年7月公布)特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律。「第一種指定化学物質」(354物質)の排出量を事業者が自主的に届出する制度(平成13年4月)
*「MSDS制度」:(化学物質等安全データシート制度)「第一種指定化学物質,第二種指定化学物質及びそれらを含有する製品(指定化学物質等)を他の事業者に譲渡・提供する際,その性状及び取扱いに関する情報(MSDS:Material Safety Data Sheet)の提供を義務付ける制度」
■技術管理
プロジェクト進捗管理
事業計画において計画したプロジェクトを重要度の高いものについて,進捗度合いをフォローする。具体的なプロジェクトの進捗そのものは,各プロジェクトリーダが行うが,部門としてプロジェクト全体を見渡し,進捗に問題がないかどうかをチェックし,必要に応じて部門長へ報告する。毎月定期的にプロジェクトリーダから報告を受けるなり,プロジェクト進捗表のマイルストーンをフォローするなり,管理の方法は,それぞれの職場に合った方法をとればよい。
新製品開発プロジェクトは,不確定要素も高く,進捗が予定通りに進まないことも多いが,問題の本質がどこにあるのかを聞き出し,的確なフォローをすることが重要である。プロジェクトの外部から批判するだけでなく,プロジェクトリーダと一緒になって,改善策を検討できるスキルを持っていると,プロジェクトリーダに信頼もされ,プロジェクトそのものも上手く進む。
管理方法は,できればプロジェクト共通が望ましく,それも定性的なものより,定量的なものの方が客観的で納得性がある。新製品開発であれば,開発遅れによる販売逸失額(=販売計画額×遅れ月数)などで,評価するのも一つの方法である。
事業計画(予算・実績)管理
技術開発には,目指す製品開発に要するリソースが掛かる。通常,事業計画時点で,プロジェクト毎に人件費(人員),研究開発費など予算計画を立てる。それに対する実績のフォローが必要である。開発内容の進捗も大切であるが,一方で経費面の実績が計画に沿ったものかどうかを確認する。
会議開催
新製品開発のステップには,管理規程に則った会議の開催が義務づけられている。そのステップにより,会議に招集すべきメンバーが決められており,こうした人たちにプロジェクトリーダに代わって招集し,会議の進行役を受け持つ。新製品開発には欠かせないステップであり,技術管理として,着実に開発ステップを進めるようにすべきである。
新製品開発のステップの会議以外にも,定例の技術連絡会や,必要の都度,関係者を招集して,部門内の指示・連絡事項を徹底する役割も担う。
規程・ルールの作成・管理
技術規程・基準と云った技術者の活動のルール作りも,組織が大きくなると重要な仕事になる。
技術部門内の活動で必要な規程(新製品開発管理規程などに代表されるもの)を作成,定期的な見直し,管理をはじめ,新たに必要とされるルール作り(規程・基準・要領・マニュアルなど)の素案を検討し,技術責任者に審議してもらい,制定する。
地道な作業で,技術者は苦手にする部分でもあるが,全体を統制,効率よく活動展開するには,必須のものであり,こうしたものの積み上げが,その部門の風土・文化になっていく重要なものである。
■技術管理のポイント(技術者に頼られる人気者)
1.技術者の手助けをする
先ず第一は,技術者の手助け(援助・支援・協力)をすることを目指すことである。技術者の独創性,個性を活かしながら,組織としての調和を上手く図り,結果として効率よい活動が展開されることを目指す。技術部門での主体者はあくまでも技術者であり,彼らが伸び伸びと自由闊達に振る舞え,苦手とする管理面などを補う手助けをすることが本来の役割である。
2.広範な知識・スキルを身につける
技術管理の仕事は広範囲に及ぶ。したがって,それに見合う知識・スキルの修得に励まなければならない。自分だけの知識と云うより,それを活用して技術者を助成・指導する場合もあり,知識として知っているだけでは済まないことが多い。活用できるスキルを求められる。
3.管理することの意味を理解しておくこと
管理をするとなると,やたら技術者にデータや情報を出すように云うタイプがいるが,管理することは,それとは全く逆である。管理するのが目的ではない。管理することによって,何をするか,その目的を達成することが重要なのである。場合によって,技術者からのデータが必要となる場合もあるが,その目的が管理ではなく,技術者の役に立つ目的であれば,理解して協力してくれるはずである。
一番厄介なのは,目的が判らず,本社から要求があるとか,トップからの指示だからとか,上からの要求に目的も理解せずに指令を発することである。こういう場合,一見仕事をしているように見えるが,何も仕事をしないトスをする人(情報をパスするだけの人)になってしまう。仕事に忠実なタイプは,こうしたことに気づかずに居ることが多い。
[Reported by H.Nishimura 2007.05.18]
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