■組織責任者のミッション(役割)
組織責任者のミッション(役割)
組織責任者になっている人に,あなたの職場のミッションはと問いかけて明確にポイントを押さえた回答ができる人はどれほどいるだろうか? 「それは,組織の責任者だから,当然,自職場のミッションは上から与えられており,判っているはずである。」と思っている人が多いだろう。ところが,実際に問いかけてみると,意外とトップが思っているようなミッションをずばりまともに答えられる人は少ないのである。
私が経験したことで云えば,技術部門や現場部門はその役割が明確になっていることもあって,しっかりした答えが返ってくるが,特にスタッフ部門,人事・経理・総務・企画,或いは品質もそうであったが,トップが思っているほど,ずばり明確な答えが返ってこなかった。さらに,そのミッションに対する尺度(何でそれの進捗度を図るか),判断基準(何をもって判断しようとするか,その基準値)は,どんなものかと問いかけると,曖昧で,これで組織運営が十分できているのだろうか,と疑問を抱いたことがある。
ISO9000シリーズの認証を採っておられる企業では,少なくとも先ず第一に,組織のミッションを明確に定義されていることが前提となっているはずである。ISOの審査をパスするには,内部監査を実施し,それをトップマネジメントに報告(マネジメントレビュー)することが義務づけられているが,詳細な活動に内容の審査に加えて,マネジメントレビューの際,組織責任者に,自職場のミッション,その尺度,判断基準は何かと,トップから質問(いきなりではなく,そうした質問をすることを予め連絡しておいた上で)してもらった様が,上述した内容である。
これには,大きく二つの理由が考えられる。
一つには,新しく発足した部門は別として,通常の組織は延々と過去から続いており,阿吽の呼吸で仕事をし,協力し合っていることが多い。特に,日本企業の場合は,ミッションがどうか,などと,真面目に話し合うことさえ憚れる状況にある。したがって,トップが事業計画など方針は出すが,それに対して自職場はどんな役割を果たすべきか,トップ自らが期待していることを,明確に言い切っていない場合が多い。どちらかと云えば,トップは大きな方針を出すので,それを組織責任者(ミドルクラス)が自分たちで咀嚼して,自分なりの考えで以て,判断行動すべきである,と云うのが一般的なやり方である。
従来型のヒエラルキーの組織(階層組織)では,トップを支える層が常日頃から,トップの思いを十分汲み取り,トップの言葉から自部門の方針を導き出し,それをさらに中間管理層に伝達する。それを中間管理層が受けて,自分の役割を自覚する。それをさらにその下へと順番に下りて行っていた。高度成長時代,みんなが同じ方向を向き,みんなと同じことをやっておれば,多少の差はあってもそれほど目立たなかったし,少なくとも業績は上昇していた。それに,今の時代と違ってスピードもゆったりとしていた。その時代は,このやり方で十分だった。
ところが,時代は変わり,目指す方向が間違っているととんでもない差がつく時代になり,且つスピードも要求される時代となった今日,即ち,的確な方向性とスピードが求められる時代では,トップ自らが,明確な方針,部門のミッションまでを伝えないと,競合に先を越されたり,思わぬ伏兵が出現したりして,いつの間にか負け組になってしまっていると云うことが日常茶飯事になっている。そうした環境下での,トップからの指示が不十分で,下に十分伝わっていないことが起こっている。トップは指示しているつもりであっても,部下がきっちり指示を受けているとは限らないことも多い。また,トップだけでなく,担当者まで伝達されるどこかのパスで,伝達がされなくなっていることがある。
もう一つは,組織責任者そのものの意識の問題である。50歳を超えた人はそうでもないが,ここ10年以内で組織責任者になった人は,ヒエラルキーの組織で育った感覚は余りないのではないだろうか。軍隊では無いけれど,縦に階層的になった組織では,自分の位置と上司,またその上司の関係がきっちり決まっていて,問題解決の責任や権限がはっきりしていた。あるレベルで判断が困難な問題は,その一段上の上司が判断するようになっていた。スピードがゆったりしていたこともあって,こうした仕組みで十分だった。
ところが昨今の組織は,ヒエラルキーではなく,プロジェクトリーダ的な,その課題に対して対応するような柔軟な組織が流行っている。スピードを要求される中にあって,何層もの組織よりも,決断が早くなると云うメリットはあるものの,組織としてのミッションなどは疎んじられている様相を呈している。名前も,部長や課長とは言わず,マネジャーとかリーダと呼び,誰もがいつ何時にもなれるようになっている。実力のあるものがリーダとなってやると云う点では,優れたやり方であるが,組織責任者としての役割を十分理解できないまま,その役割を背負っている人も見かける。
もっと穿った見方をすると,統率の取れた組織よりも,仲良しクラブ的な感覚で仕事をしている場面も見受けられる。従来組織のがんじがらめの組織よりも優れていると云う人も多いが,勝ち負けの競争の世界で仕事をしている点から見ると,特にリーダ自身の意識という点では従来型よりも劣っていると云わざるを得ない。事業目的があり,それを必達するために組織が作られ,そこに責任者がいる。そこには,当然明確なミッションがあってしかるべきである。組織責任者はミッションを全うすることが最大の使命である。そのミッションを曖昧なまま,或いは,十分部下に伝え遂行させることを怠り,仕事のやり方だけを如何にも効率よくやることだけが,リーダの役割と思ってはいないだろうか?これでは,将来が危ぶまれるのである。
詳細な説明は別途に譲ることにして,組織責任者のミッション(役割)を以下に列挙しておく。
- 会社全体における自組織の役割(ミッション)を明確にすること(方針の明確化)
- 明確なミッションを部下に的確に伝え,率先垂範して実践させること(コミュニケーション,情報共有)
- 事業計画などを自ら立て,その目標値(達成レベル,時期など),判定方法などを明確にすること(定量値化)
- 組織目標を必達すること(必達の執念)
- PDCAのサイクルを廻す展開ができること(仕事の基本形)
- 活動を通じて部下指導,育成をすること(組織の発展)
- 自組織に拘らず,高い視座に立って,会社の全体最適目指して,進言,実行すること(部分最適にならないこと)
- 将来のビジョンを示すなど,部下のモチベーションを高めること(最高の能力発揮の場の提供)
- 熟慮して,且つ果敢な行動が取れること
[Reported by H.Nishimura 2007.04.19]
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