■誤送金問題  (No.703)

山口県阿武町で起こった誤送金問題は,決裁代行業者からほぼ同金額が返金されてきたことで一応決着は付いたようである。町役場の責任として町長,副町長,出納室長が各々月給をカットして幕を閉じた。

  ご送金はなぜ起きたのか?

そもそも新型コロナで生活に困窮する世帯を対象とした「国の給付金10万円」が,阿武町の対象463世帯に配られることになり,フロッピィデスクでそのデータを銀行に手配し完了したのだが,その後,この4月に採用されたばかりの新人職員が,同額の4630万円の振り込み依頼書を銀行に持って行ったので,2重に支払われることになった。

また,振り込み依頼書には一番上にあった人の名前があり,(それは銀行番号の若い順で,たまたま大手銀行の口座を指定した今回の犯人),犯人に正規の10万円に加え,4630万円が二重に振り込まれたようである。振り込みが完了した後に,銀行員が間違いではないかと気づき,役場に連絡したことで事件が発覚したのである。

今どき,フロッピーデスクを使うなんてと云う声もあるが,銀行側の希望だという話もあり,フロッピーデスクが今回の原因ではなく,振り込み方法が二つのルートがあって,余分な紙ルートの依頼書が発行され,届けられたことによるものである。

新人で不慣れなこともあっただろうが,こうしたミスは新人だからでもなく,人間はケアレスミスをするもので,現に,阿武町だけではなく,調べてみると,他の市町村,必ずしも小さな町ではなく,大都市でも起こっているようである。(EX.寝屋川市,神戸市,東京世田谷区,天栄村(福島県))

  今回の経緯

本人はご送金に気づいていなかったが,役場から連絡が入った犯人は,一旦は返金するつもりで,銀行まで同行したが,向かう2時間ほどの間に悪知恵が働いたのか,その場での返金手続きを拒否し,予め書面で連絡するようにと時間を稼ぎ,その裏では既にその預金から別の口座へ移すことをしている。

何か悪知恵を授けた仲間がいるかのようだが,もともと金に執着があり,ギャンブル好きだったようで,そのお金をオンラインカジノで使い,みるみるうちにそのお金をカジノにつぎ込んでしまったようである。町役場の対応も,田舎ののんびりした風土だったのか,まさかギャンブルにすべてつぎ込むような若者ではないと見たのか,お金を差し押さえすることもしなかったようである。

ところが,いざ蓋を開けてみると,預金残高は殆ど無くなっており,慌てて町の弁護士に頼ったようで,その弁護士が敏腕だったのかは判らないが,犯人が税金の滞納をしていることに気づき,振込先の口座へ差し押さえを敢行した。その弁護士も,残金が殆ど無くなっていることから,お金が戻ってくるとは思っていなかったが,何故か翌日には,振り込んだお金の殆どが町役場へ返金されてきたのである。

マスコミの情報では,ネットカジノそのものが違法賭博の可能性もあり,グレーゾーンなので,その他の顧客情報などが抑えられ,営業ができなくなることを畏れたのか,素早い返金に繋がったのである。

町役場は町民に対し説明会を開き,町長をはじめとした責任の取り方として,減給を決めたようである。これで今回の事件は一件落着したのであるが,課題は残ったままである。

  人のケアレスミスは起こりうることが前提とした仕組み作り

今回の問題は小さい自治体だから起こったのではなく,同じような誤った送金は他の自治体でも起こっている。人のケアレスミスは起こり得ることを前提とした仕組み作りが必要で,少なくとも担当者一人任せではなく,上司などのダブルチェックは最低限必要なことである。特に,大きなお金を扱う出納の仕事は,数字を1桁間違えても大事なのである。

人員削減など職員が過酷な環境に置かれていたなどとの報道もあるが,他の自治体でも発生していることを考えると,自分のお金ではない公金が故に,感覚がマヒしている部分もあるように感じてならない。自分の小遣いなどは気を付けて扱うが,間違っても痛みを肌で感じないところに落とし穴があるのではなかろうか?

公金などの処理をしたことがない者の感覚だが,大金の数字だけが紙の上やパソコン上だけで動く状況では,違う人によるダブルでのチェックは必須であり,それでも洩れることが起こり得る。起こった時の素早い対処方法も必要なことである。

今回の町役場での仕組みがどうだったのか判らないが,少なくとも取り扱いのマニュアル化は必要であり,誰が行っても同じ手順で間違いなく行われなければならない。マニュアルも,単に方法だけでは不十分で,そのような仕組みにしている背景など,マニュアルを十分理解できるような工夫が必要である。なぜなら,マニュアルも形骸化してしまうと役に立たなくなってしまう畏れがあり,マニュアルを作った人と,数年以上経過した後で使う人との感覚のズレがあるからで,活きているマニュアルになっていなければならないからである。

誤送金問題で考えさされたことを振り返ってみた

 

[Reported by H.Nishimura 2022.06.06]


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