■ノーベル化学賞受賞 吉野彰氏  (No.600)

今年もノーベル賞の受賞者に日本人が選ばれた。ノーベル化学賞にリチウムイオン電池を開発した吉野彰氏が米国の教授らと共に受賞された。

  受賞インタビューより

受賞インタビューで印象に残ったことがある。記者の「昨今,日本の技術が停滞していることについてどのように思われているか?」との質問に対して,「日本の技術は,まだまだ強いところがある。材料開発など上流部分ではまだまだ日本の技術が優位に立っている。下流部分で負けており,「GAFA」のような強いところが今のうちに(上流部分が強い間に),1,2社でも現れて欲しい。」との応対だった。

確かに,今は「GAFA」に代表されるところが,下流部分を牛耳って世界を席巻しているが,これに対抗できるような会社がでてきて欲しいとの意見だが,日本の技術は,「GAFA」のようなソフトウェア技術で太刀打ちできることは困難で,10数年経っても現れないだろう。それよりも,車のトヨタのような高品質で,信頼性高い物づくりで勝負すべきだと思う。携帯電話に続く,画期的な商品の物づくり,それが後述するET変革に繋がる商品であることを願う次第である。

  リチウムイオン電池の開発経緯

リチウムイオン電池の開発経緯はネットでもいろいろ紹介されているので,敢えて述べることもないが,簡単に触れておく。

1981年から研究に着手され,85年にリチウムイオン電池の原型となるものを完成させている。これは2000年にノーベル化学賞を受賞された白川教授による電気が流れる機能性プラスチックの研究成果であるポリアセチレンの利用で,当初は機能性プラスチック材料の研究で,電池を開発する発想は元々無かったそうである。ただ,充放電が可能な新型二次電池の開発がままならぬ状態をみて,二次電池への応用を発想されたそうである。

研究がスタートした82年末に英国のオックスフォード大学のジョン・グッドイナフ教授が発表した論文に,コバルト酸リチウムという化合物が二次電池の正極になる可能性があり,4V以上の高い起電力が得られるとあり,それを目に留めて,負極にポリアセチレンを組み合わせて電池を試作し,充電,放電を確認したところ上手く動いた。これが新型二次電池の誕生である。

ただ,実用化に繋げるには幾多の試練があったようである。ソニーが負極にハードカーボンを使って商品化に成功し,91年には京セラの携帯電話に搭載,リチウムイオン電池が世の中に出た。特に,大きな流れを変えたのが,携帯電話のデジタル化に伴いこれまでのIC駆動電圧が5.5Vから3Vに下がったことにより,リチウムイオン電池1個で可能になったことが,これまでのニッカド電池やニッケル水素電池を押しのける要因だったそうである。

  先を読む力

二次電池の需要がIT変革による携帯電話の普及にこれだけ役立つとは思われていない。当初は,ビデオカメラ用の需要目的で開発が進められていたようである。それが,いつしか携帯電話というとてつもない大市場に利用されるものになっていったのである。上手く時流に乗ったと云えばそれまでだが,二次電池の利用の裾野を読み切って居た人がいたのだろうか?

もちろん,携帯電話に合った小型軽量のリチウムイオン電池を開発するにはそれなりの苦労を伴ったことであるが,利用範囲が拡がることは開発当事者でも予測しきれないものがある。しかし,良いものは,次の改良に必ず繋がるものである。まして,ICの駆動電圧が3Vに下がらなかったら,今日のようになっていないかも知れなかったことを考えると,開発物だけでなく,周囲環境の変化を先読みすることも非常に大事なことなのである。

  ET変革とは?

IT変革とか,IT革命とか云う言葉はよく耳にするが,ET変革とは私は初めて聞くことばである。ET変革とは,Environment & Energy Technologyだそうで,環境・エネルギー変革に,リチウムイオン電池が役立つのでは無いかと云われているそうである。携帯電話用のリチウムイオン電池では,韓国・中国のメーカにシェアを食われてしまっている。

次のリチウムイオン電池の目標は,電気自動車用のバッテリーであり,ソーラー発電の蓄積用の電池である。これらが,ET変革のキーとなるものであり,他の要素技術である,ワイヤレス給電などと相まって,将来の社会を形成して行ってくれるものと期待したい。

ノーベル化学賞受賞おめでとうございます

 

[Reported by H.Nishimura 2019.10.14]


Copyright (C)2019  Hitoshi Nishimura