■技術の進化 10 ビデオ判定 (No.628)

技術の進化とは言えないかも知れないが,スポーツの審判の判定にビデオ判定が用いられるようになってきている。スポーツは必ず審判員が居て,勝負の分かれ目の判定を下す役目を担っている。しかし,昨今のきわどい判定にビデオが有効に利用されるようになってきている。審判員の一瞬の判定に異議を唱え,ビデオ検証するスポーツが増えてきている。科学の眼を活かした,有効活用と思われる。

  大相撲での誤審

先日の大相撲で,朝乃山と栃ノ心の一番で土俵際の際どい一番があった。行事は栃ノ心の足が残っていたと見なして,栃ノ心に軍配を挙げたが,物言いが付き栃ノ心の足の踵が土俵を割っていたと土俵上で審議が行われた。通常の物言いでは,直ぐに判定が行われ,判断が下されるのに,そのときは土俵上で6分程度も協議行われ,結果的には行事審判差し違えとして朝乃山に軍配が変わった。

審判員の協議中何度も繰り返しビデオが流されたが,栃ノ心の踵が土俵を割ったようには見えなかった。大相撲ではビデオ判定はしないのかと疑問を抱いたが,調べてみると実は大相撲は1969年からビデオ判定を採り入れているそうである。導入のきっかけは大鵬が45連勝を掛けた一番で,相手の戸田の方が先に足を出していたと行事軍配が大鵬に挙がったが,物言いが付き行司差し違えで戸田の勝ちとなった。その後,映像や写真で誤審だったことが判明し,翌場所からビデオ判定が正式に導入された。

それでは今回のビデオ判定はどうだったのか?ビデオ判定では,踵がついたかどうかは見えません,との判定だったようである。しかし,大相撲のビデオ判定は,審判員の上には行かず,目の前で審判員が判断されたことが優先される慣わしだそうである。結果,審判員の協議による結果が尊重されたことになる。相撲協会に問い合わせの電話が鳴りやまなかったことは言うまでもない。

折角,ビデオ判定の制度を採り入れておきながら,十分に活用されていないのは,大相撲の古い体質を示しているに外ならない。

  プロ野球のビデオ判定

プロ野球でも昨年度(2018年度)から,ビデオ判定が採り入れられ,監督の申し立てにより,リプレー検証が2回できることになっている。検証されている間,球場のスクリーンにも映像が流され,観客も一緒になって判定できる試みがなされている。もちろん,観客の判定が採用される訳ではないが,際どい判定をどうだったのかと楽しむことには効果が出ているように感じられる。

確かに,人間の眼では際どいプレーに判断を誤ることはある。これまでは,審判員の判定に全く文句が言えなかったのが,ビデオでリプレー検証するように要求することができるようになったのである。科学の眼で,今まで見えなかったものが,スローで確実に再現して確認できるようになったことは良いことである。審判員は大変かも知れないが,観客にも十分納得して貰う方法としては良い方法だと思う。

一方で,リプレー検証するための間延びをとやかく言う人も居るが,一応ルールとして採用された手法で,公正さを期するためには良い方法である。いろいろなプレーの判定を見ていると,審判員の立ち位置によってはなかなか見づらいこともあるようで,ビデオで改めて見て判定できるので,公正さは担保されるようになったと思われる。

ストライクとボールの球審の判定には採り入れられていないが,やがてはストライクとボールの判定にも,AIが用いられる時代がやってくるのではないかと思われる。球審の判定は,非常に微妙で,且つ球審によって判定が異なる。今日の球審は,厳しいとか,外側の判定がやや甘いとか,解説者がいろいろ説明してくれることがある。バッテリーは,球審のクセを見抜いて配球することも,一つのテクニックとなっている。手が挙がるか否か,その微妙な判定に固唾を飲む,と言う場面もあって,なかなか面白い。

いろいろなスポーツに於いて,ビデオ判定と云った科学の眼の活用が進んでいるが,前述したように,審判員がAIになる時代もやってくるに違いない。AIの判定に文句は言えないが,人間味ある審判でなく,機械化された審判となることが,果たしてスポーツを楽しむ人にとって,本当に良いことだろうか,と疑問を抱くことがある。審判員の誤審は問題であるが,AIの審判が導入されても,人間の感覚での判断がやはり必要だと云うことになるような気がしてならない。

ビデオ判定の意義について考えてみる

 

 

[Reported by H.Nishimura 2019.05.27]


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