■技術の進化 6 3Dプリンタ (No.622)

技術の進化を見てきたが,今回は3Dプリンタに注目してみたい。

  3Dプリンタとは

私が3Dプリンタと云うものがあることを知ったのは,10年ほど前のことである。普通一般のプリンタが単に文字や絵を紙にプリントアウトするところから,写真のような精細なものまでプリントできるものになってきた頃で,プリンタが2次元の世界を描いていたものが,3次元にまで拡大できるようになってきたと云ったものだった。当時では,インクに代わって樹脂が射出され,それが積み重ねられるようにして,立体的な造形が作り上げられるもので,成型品がプリンタでも作れるようになってきた,と云った印象であった。

歴史を調べてみると,日本で初めて光造形法と云う紫外線を照射することで液体樹脂を硬化させる方法が発明されたのは1980年のことで,その10年後に熱溶解積層法と云う熱可塑性樹脂であるABS樹脂やポリカーボネート樹脂などが使用できる方法になり,本格的に普及されるようになって行った。2000年代には投資が安くて済むことから,中小企業での導入が進み,2009年に基本特許の期間が切れると共に,個人や家庭にも普及するようになった行った。

一気に普及が進んだが,一方で低価格のプリンタで問題も起き,3Dプリンタ業界でも大手が低価格プリンタから手を引くなどの事態にもなったそうである。しかし,3Dプリンタの特長を活かした,試作部品などその応用範囲は広く,根強い需要は残っている。

  3Dプリンタの行方

3Dプリンタに触れたこともなく,マスコミの記事程度の知識しかない私にとって,3Dプリンタの行方を語ることは恐れ多い。ただ,このような新しい技術では,必ず大きな壁にぶつかることはよくあることで,それで諦めてしまうようなことがあっては,折角の新しい技術が台無しになってしまう。

いろいろな課題が山積しているようだが,それらは新しいものに対する大きな試練で,それを乗り越える努力が必要である。もちろん,ただガムシャラに継続することでは意味が無く,その問題点の本質の解明が重要なのである。したがって,問題点が不可避だと諦めるのは容易いが,必ず解決策は見つかるものである。どこまで真摯に問題点に立ち向かうかである。

もちろん,新しい技術なので万能と云うわけには行かない。その技術の特長を活かした分野が必ず見つかるものである。大きな市場に拡がるか否かは,誰しも決められない。それよりも材料の選択や,技術の精度アップ,特長を活かせる分野の絞り込みなどに集中すべきである。物づくりは大量生産が前提とされる中,3Dプリンタを活かせる道は限られているかも知れない。

しかし,一方で1個或いは少量かも知れないが,非常に重要な造形物が必要なものもあるはずである。例えば,人体のある部分を再現させるような個体特有のものを作り出すような技術は,非常に貴重なものとなる可能性を秘めている。要は,多少コストは掛かっても,現存する技術では作ることが困難極まるようなものへの挑戦は大いにあるのではないかと考えられる。いま,それが何か,どんな分野か判っていないだけで,必ず3Dプリンタでなければならないような造形物を必要とするものがあるように感じられてならない。

専門家の方々が既に数年以上掛けて努力されているが,なかなか芽を出さないことを思えば,限界があるのかも知れない。素人が勝手に述べているので,先が見えているのかも知れない。しかし,技術者としては簡単に諦めず,とことん追及することが技術者の使命でもあり,そこに喜びを見出すことも可能性が無いわけではない。あのとき,諦めずに頑張ったことが良かったと言える日を待ちたい。

技術の進化はそう容易いことではない!!

 

[Reported by H.Nishimura 2019.03.25]


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