■読書 3 「思考力と対人力」 2  (No.604)

以前に呼んだ本の紹介

  「思考力と対人力」 

今回は思考力に続いて「対人力」について考えてみる。技術者にとっては,思考力と比較すると対人力はそれ程必要がない,と思われるふしもある。しかし,実際には,思考力だけでは仕事は進まない。つまり範囲の狭い要素技術の深堀に専念している場合は,対人力をそれ程気にすることはないかも知れないが,具体的に商品化をするとかのような自分独りでは仕事が全うできないことになると,途端にこの対人力がものを云うことになる。

つまり,技術者といえども,自分は限られた専門職だけで良いと云うならいざ知らず,一般的な技術者(必ずしもリーダだけではない)であれば,必要不可欠な能力と云える。仕事内容が複雑化,大型化するに伴い,専門能力(スキル)から,対人力をも必要になってくるのである。

対人力の基本はコミュニケーション

経営環境の変化が,対人力のスキルアップを求めてきている。ナレッジ・マネジメントが重要になってきたことである。経営資源の中で情報から知識,知識から知恵を如何に組織内で高め,共有していくかが問われるようになった。このことは,単にITの導入だけでなく,思考力は云うまでもなく,社員のコミュニケーション能力,対人能力なくして実践はできない。

対人力を「人に媚びへつらう」と勘違いして,「そんなことはしたくないので対人力なんてどうでもよいのだ」と思っている人もいる。特に,対人力が苦手な人は,或いは思考力が抜群の人は,そうした思いになることがある。しかし,効果的な対人力は,相手を尊重しつつも,目的に沿って成果を出すことであり,相手に振り回されることでもなく,慇懃な態度をとることでもない。

対人力は生まれ持った能力と云う見方もあるが,それは否めない一面があるものの訓練によって能力アップは十分できるものである。まず,インプット系のコミュニケーション能力を鍛える方法がある。「相手をよく観察すること」と「聞くこと」である。

@相手をよく観察すること

なぜ観察することが重要かと云うと,コミュニケーションは発信者の意図ではなく,受け手側が決めるという原則がある。相手を観察する目的は,こちらの伝えたいことがどの程度伝わっているのか,伝わっているとしたらどの程度受け入れているかをモニターすることが重要である。

A聞くこと

読み,書き,聞く,話すというコミュニケーションの中で使用頻度では,聞く(45%),話す(30%),読む(16%),書く(9%)で,最も重要なのが「聞く」ことである。しかし,聞くスキルを体系的に学ぶ機会は少ない。このスキルが最も高いのがカウンセラーである。

アウトプット系のコミュニケーション能力は「話し伝える」ことである。

@自分の話したいことではなく,自分のミッションと役割を考えること

A「What」と「How」 言語と非言語の両方に注意

伝える内容(What)だけでなく,その方法(How)も重要。このHowの中には,言語と非言語領域があり,言語では伝える内容の順番,文章の簡潔さや聞き易いように話すことである。非言語領域は,声のトーンやジェスチャー,表情などである。

リーダに必要な対人力

変化と多様性の高い現在の経営環境でのリーダとは如何にあるべきかを考える必要がある。リーダシップを考えるとき,リーダとマネージャの違いを考えるとわかり易い。企業ができたときは組織も小さく外部環境の変化に対応できるリーダが求められるが,企業が大きくなり複雑化してくると,マネージャが必要になってくる。従って,我々の中ではリーダ&マネージャが求められることになる。

しかし,リーダシップの本質は変化への対応である。そこで,リーダのコアスキルを挙げると次のようなものである。

  1. 現状打破
  2. ビジョンの共有
  3. 協力育成
  4. 率先垂範
  5. 鼓舞激励

これらからリーダに求められる行動は,ヒューマン・スキル(対人力)とコンセプチュアル・スキル(概念創造能力)がメインで,どちらが欠けてもリーダとは云えない。また,リーダにはそれに従う人がいる。その人たちをついてくるようにさせるのはコミュニケーション能力が大きな要素となる。

第3者が見てもリーダそのものである人もいる。しかし統率力があり過ぎると「裸の王様になってしまっている」危険性もある。そうならないには,コミュニケーションの中でマイナスの情報が入ってくるようにしておかなければいけない。得てしてそうしたマイナスの情報を自ら,無意識のうちに遮断させてしまっている。

下図の「ジョハリの窓」で示されるように,リーダの盲点は,部下が知っていることで自分が知らないことである。この部分が思考の弱点になってしまう危険性を知っておくことは大切である。リーダは,コミュニケーションのインプットがリーダを育てることを自覚しておいて,冷徹な自己認知が必要である。

フォロワーが 知っていること 共通理解 リーダの盲点
知らないこと フォロワーの盲点

=リーダの啓蒙

お互いの無知
  知っていること 知らないこと
 

リーダが

チームを活かす対人力

我々の仕事は独りですることは極めてすくなく,チームで行うことが多い。そのチームの成功要因とは次のようなものである。

  1. チームの目的,ゴール(目標),アウトプット(成果物)の確認と共有
  2. チームの位置づけとステークホルダー(利害関係者)の確認
  3. メンバーの役割と作業の確認
  4. チームの自浄機能の確立
  5. 忌憚のない,かつ建設的なフィードバック
  6. 問題構造化と意志決定のツールと言語の共有
  7. 信頼感とコミットメントの醸成

チームのシナジー効果(相乗効果)が出て,個人の能力の単なる和ではなく,それ以上の能力が期待される。しかし,このことは頭で考えるのは易しいが実際の実行となると非常に困難である。むしろ,相殺効果が起こることさえあることは,いろいろな面で遭遇することがあるだろう。ここでも対人力が活かせるか否かで大いに結果が違ってくる。

コミュニケーションが良い職場をつくりましょう

参考文献 : 「思考力と対人力」 船川淳志 著  日経ビジネス人文庫 

[Reported by H.Nishimura 2018.11.12]


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