■読書 2 「思考力と対人力」 1 (No.603)
以前読んだ本の紹介。
「思考力と対人力」
技術者にとってじっくりものごとを考えなければならないことは日常茶飯事である。設計開発をやりながらも,“どのようにすれば目標としている成果にたどり着けるか?”“なぜ,予想していた通りの実験結果にならなかったのか?”“我々の製品とライバルの製品はなぜ,こうも差がついているのか?”など,考えを巡らせていることが多い。
しかし,日常茶飯事のことだけに,“思考力とは”と云った基本的なことについて考えたことがある人はどれだけいるだろうか?今回は,この“思考力”について考えてみる。技術者と云うより,リーダとしての観点が多いが,参考になることが多いのではないか。
思考力とは何か?
思考力の定義:考える力と辞書には出ている。思考の定義:感情や意欲を除く知的活動の総称
基になるものから,頭の中で組み立てる力
基になるものとは:事実,共有された知識,個人の経験,イメージ,仮説 など
組み立てる力とは:筋道を立てて明解に推論する(論理思考力)
自由に想起する(知的直観,想像力)
記憶力,理解力,思考力はどう違うのか?
最近の学生,及び社会人の学力について,知っているか知らないかで判断して,低下しているとしているケースが多いが,これは「知る(Knowing)」を重視し,「考える(Thinking)」を軽視してきた教育の結果である。本当は両者が重要である。これをマトリクスにすると次の通りである。
高い
考えるThinking
低い
思いて学ばざる 知的思考力 Knowing & Thinking
知的活動低下 学びて思わざる 低い 知る Knowing 高い
また,最近注目されてきているのがクリティカル思考である。このクリティカル思考とは,「真なるものと偽なるものを見分けながら,推論していく」ことで,次のような内容である。
- 問題点に対して注意深く観察し,じっくり考えようとする態度
- 論理的な探求法や推論の方法に関する知識
- それらの方法を適用する技術
思考を活性化する7つのポイント
我々が物事を考えるとき,自然と頭に規制を掛けていることが多い。以下に述べる7つは「なぜ,思考停止が起こるのか?」を著者が考え抜いて,その中から選び出したポイントだそうで,我々が思考を巡らせる場面に遭遇したとき,役立つものであるので紹介する。
@思考力に限界はない:考え抜けば答えは出る
A一問百答:正解はひとつでない
B両面を見る:同じ物事のプラスとマイナスを見る
C言語の一人連想ゲーム:ビジネス用語は平易な言葉に,英語は日本語に,日本語は英語に直す
D思考モードのシフト:拡散と絞り込み,スピードとしつこさを意識的に選択する
Eいつも心に氷山を:現象だけでなく,水面下にある問題を探る(Why? Why? Then Why? So What?)
F汝を知れ:自分の思考の枠,色眼鏡を意識せよ
次に,論理的な思考がなぜ重要か?それは自分が発言した内容が相手に受け入れられるかどうかの場面を想定すると良い。即ち,論理的でないと,個人的に受け入れられる場合はあっても,一般的には通用しない。但し,論理的であっても受け入れられない場合がある。それは人間が感情を持っているからであり,論理だけではダメで,感情的にも受け入れられることにしなければ,広く一般的に支持を受け入れられないことが起こる。
「論理」と云うだけで難しいものだ,と思う人も一般的には多い。技術者の大半は「論理」は得手な方に入るでではないか。その論理にもビジネスマンにとって必要と思われる原理原則がある。論理のルールその1 : 因果関係の3原則
時間的順序:原因は結果の先に発生している
共変関係 :相関関係がある
第3変数の排除:原因以外の要因が影響しない
論理のルールその2 : 集合の輪:必要条件と十分条件
論理のルールその3 : 演繹と帰納
演繹法:3段論法
帰納法:共通,妥当性を見つけ出す
問題解決の思考力と基本技法
クリティカル思考をいくら鍛えても問題解決ができなければビジネスマンとしての付加価値にはならない。問題解決ができないと,「アンチ論理派」から「論理オタク」となるだけである。以下,具体的な技法である。
問題解決のステップ
- 情報収集 ―― 事実とその意味合い,解釈の確認,必要情報の確認
- 制約条件の確認 ―― 動かすことのできない条件,一時的か,恒常的か
- 目標と目的の確認 ―― 5W1H,特になぜこの問題を扱うのか,何がアウトプットとして求められているか。誰にとっての問題か。
Step1:状況掌握
Step2:問題の構造化,明確化
Step3:解決策立案
「箇条書き」では問題解決はできない
あやふやな思考力のままで放置してきた風土やその中で気が付いたら思考力自体が萎えてしまっている。
論理的な「突っ込み」を認める風土づくりが組織に求められてる。
問題解決において,「箇条書き」でやる習慣ができているため,問題が構造化されにくい。問題が並列化されて安易な解に走ってしまう。この点が,日本のビジネスマンの最大の弱点である。
フレームワークの重要性
経営はアートかサイエンスか?という議論があるが,いずれも「型」があり,「型に学ぶ」ことは多い。
経営のフレームワークはこの「型」である。フレームワークを用いることで,経営的課題を取り組むことが効率的に行える。
マインドマッピング
複雑な問題の多くの異なった要素を一度に表示する方法。チームメンバーとアイディアを共有しながら,効果的にアイディアが抽出できる。
MECE(ミッシー) Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive
洩れなく,ダブリなくと云う切り口
- バランスがとれていること
- 何を対象としているか確認すること
- なぜ,分析するかに立ち戻ること
ピラミッド構造(The Pyramid Principle 「考える技術・書く技術」が先鞭)
Why? So What? の構造物――原因を考えたり,対策を構造的に考えるのに有効
マトリックスの応用
縦軸,横軸を2分割した4象限で分析するものが多い。
軸の取り方でそのマトリックスの価値が決まる。
システム思考
拡大サイクルと平衡サイクルを上手く使うが重要である。
基本原則の特徴(全体像を考える,長期と短期のバランスを取る,動き,複雑性,相互依存性と云うシステムの3つの性質を理解する)を認識して問題解明に当たると効果的である。
技術者にとって(特にリーダにとっては)結構内容の奥深いものがある。これらは単に学習した知識で修得できるものではなく,幾度かの訓練,経験を積み重ねて初めて能力を発揮できるものである。まず,第一歩はこうした思考力を身につけたいと思う意志である。
(続く)
スピードが要求され,No.1のみが勝者になれる時代になって,ますます本質を見極めた判断が必要とされてきている。
若い技術者の皆さんも,他人事,リーダのことだ,と思わず,自分のこととして捉えて欲しい。
参考文献 : 「思考力と対人力」 船川淳志 著 日経ビジネス人文庫
[Reported by H.Nishimura 2018.11.05]
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