■技術者の眼 15 ノーベル賞受賞 (No.599)
今年度のノーベル生理学・医学賞に本庶佑・京大特別教授が受賞された。ガンに対する免疫療法を見出し,小野薬品の「オプジーボ」の開発に繋がり,ガン患者の救いの手として注目されている。受賞の喜びの中で,「生命科学に投資しない国は未来がない」と指摘されていた。
本庶佑教授の言葉
今回の発見のきっかけは,「自分が研究していたタイミングは日本の科学研究費が伸びる時期に合っており,ずっと研究を支援されてきた」と語り,成果については「基礎研究から応用に繋がることは決して希ではないことを実証できた」と述べられている。また,現状の日本に対し,「基礎研究を体系的に長期的展望で支援し,若い人が人生を掛けて取り組んで良かったと思えるような国になるべきだ」とも述べられた。
また基本的な考え方として,「教科書が全部正しいのだったら,科学の進歩は無い」「人が言っていることや教科書に書いてあることをすべて信じてはいけない」と語られ,自らの取り組み方に対する姿勢を示されている。
自分が行ってきた基礎研究に対する見解も,「基礎研究とは無駄なんです。でも無駄の中から生まれてくるのです」と,今回の発見が地道な基礎研究の積み重ねが,今回のオプジーボに繋がる偉大な発見を導き出すことになり,一見すると無駄と思える研究の中に,大事な物が転がっていることを示すことになった証しを示されている。
感じること
本庶佑教授の言葉にはいろいろな意味で重みのある言葉が多い。詳しいデータはよく判らないが,現状のままでは日本の未来は危ういともとれる。どうも以前ほど基礎研究に対する重み付けが軽んじられてきているようにもとれる。効率を重視することは必要だが,生命科学のような分野にとっては,効率の尺度で測られると将来の日本にとって取り返しのつかない事態に陥る危険性を訴えておられるように感じられる。
今の日本の政策は歪みが生じていて,本来必要なところへの助成が疎かになっているのではないかと。無駄なところは多少はあるが,将来を見据えた中での必要な投資に目が向いていない近視眼的な政策に警鐘を鳴らしているようでもある。ノーベル賞を受賞できるような優れた研究ができたのは,20〜30年前の投資が活きているのであって,現状のような状態では,2,30年後には中国など,他国に追い抜かれてしまっているとの指摘である。
詳細なデータでもって知ることができないので判断が付かない部分はあるが,ある程度的を得た発言のようにとれる。20〜30年前の日本を思い浮かべると,確かに日本は経済大国として実績を示し,世界に存在感を示した時期であった。そのころの政策が立派だったかどうかはよく判っていない。ただ,その渦中にあって働いていた技術者としては,誇りを持ち世の中に貢献していた。
したがってこの時期の大学での研究費も存分に使えたのかもしれない。日本全体が一丸となって頑張っていた時代で,エネルギッシュな日本人が多かった。それと比較すると,企業は幾分元気を取り戻しつつあるが,労働者,特に技術者や研究者に元気が見られない。政策の貧困もあるが,正直に頑張ろうとする意欲が沸くような政治になっていない。アベノミクスを謳い文句にしているが,新規商品など経済を活性化できるような動きには程遠く,経済的発展が留まっている。
基礎研究を十分やろうとすれば,やはり経済的な豊かさが背後に無くてはならない。こうした環境が作れていないことのもどかしさが感じられてならない。ノーベル賞受賞を日本人の誇りとして讃えるならば,それに見合った将来に向けた投資ができるような環境作り,その中でも特に経済的発展が必要である。それを判っているのだろうかと安倍総理に質したい。
ノーベル賞受賞で思うこと
[Reported by H.Nishimura 2018.10.08]
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