■技術者の眼 15 ふるさと納税  (No.598)

ふるさと納税の制度が始まって10年が経つそうである。私は一度も利用したことはないが,最近この制度を巡って,話題になっている。国にも地方自治体にも言い分はあるようだが,どうも本来の目的から掛け離れた制度になってしまっているようである。

  国と地方自治体の言い分

ふるさと納税の制度が始まって10年になるが,この制度の歪みが生じてきている。この制度の返礼品に対する競争が過激化し,都市にある市町村の税金が大きく減り,地方の市町村の一部に税金が集中する現象が起こっている。東日本大震災以降,ふるさと納税を利用される人が増えたようで,返礼品目当てにふるさと納税制度を利用する人が激増している。返礼品も地方の名産品ではなく,人気のある商品を返礼品とすることで,寄付金を集めようとする自治体も出てきており,返礼品の額も高額になってきているようである。

そこで,総務省は制度そのものが否定されることになりかねないと自治体に自粛を促してきた。報道に依れば,2016年度では全体の65%に当たる自治体で返礼品の割合が3割を超えており,2017年春,寄付金に対する返礼の割合を3割以下に抑え,地場産品以外は扱わないように大臣通知を出した。今春にも同様の通知を出し,自治体の自粛を促したが,依然として246の地方自治体(全体の約14%)が未だ3割を超える返礼品を実施している。これらの通知は法的拘束力は無いので,総務省は違反した自治体を制度の対象から除外する方針を打ち出した。

名指しで指定された泉佐野市が反論。3割の明確な根拠も示さず,地場産品の定義も曖昧で,総務省の一方的な押しつけである。よりよいふるさと納税制度を総務省の独断でなく,有識者を交えて議論し,全国的に納得できるものにすべきだ,と主張している。

  本来の目的は?

ふるさと納税は,地方自治体の黒字団体から赤字団体へ税収をシフトさせることで,自治体の健全化に貢献しようとするもので,個人が自由に寄付する自治体を選べると云う特長を持つ。この税収により,赤字団体で格差が付いている教育施設や,福祉制度などを補おうとするもので,地方交付税のみに頼っている自治体の自主性を促している。

本来は返戻金目当てではなく,地方自治体が工夫し,努力して,税金を活かす使い方をしようとする目的に賛同する方が寄付をするもので,税収分の使い道を明確に打ち出すことが重要である。この目的に合致した寄付をしている人も居るが,昨今の返礼品競争をみると,ネットショッピングをしているのではと見間違うほどの返礼品を並べた自治体もあり,度が過ぎていると言わざるを得ない。しかし,これも自治体のアイディア・工夫と努力によるもので,自治体の崩壊の危機を回避するためにやっているのだとの言い分も判らない訳ではない。

  あるべき姿は

税配分を官僚が取り仕切って,地方交付税を出すことにより,地方の自治が成り立っていることに変わりはないが,納税する個人が税金がどのように使われるか,その目的を明らかにしたふるさと納税制度そのものは画期的なことである。ただ,人気投票のように,返礼品の良いところに税が集中するようでは,競争が激化するばかりで,本来の目的から外れてしまう。

総務省は,本来の目的を厳守するためにと,返礼品の過激な競争を止めさせようとやっきになっているが,新しい制度は当初の目的から外れることはよくあることである。予期せぬ群集心理が制度をねじ曲げてしまうことがある。これは制度そのものが完璧なものでなく,修正が必要である。

その修正の仕方も,国から一方的なやり方ではなく,国民が納得できるやり方に修正すべきで,現在潤っている自治体も国民の納得性があればそれに従うと云われている。そうした方向に正すべき指揮を総務省はいち早く行動に移して欲しいものである。税金の無駄遣いは国家を滅ぼす源である。

  現状を見てみると

何はともあれ,ネット上でのふるさと納税に関する実態を調べてみた。

2017年度の寄付金は総額3653億円で,自治体では泉佐野市が135億円とダントツである。その実態をみようと,泉佐野市のホームページを覗いてみると,返礼品が何と1000以上も並んでおり,まるでネットショッピングをするかのような有様である。もちろん,一方では,寄付金の過去の使い道など詳細にしてあって,なるほど上手く使われていると感心はさせられる。

しかし,よくよく考えてみると,ふるさとへ寄付すると云う気持よりも,返礼品で人気を集めているだけのように感じられる。ふるさと納税の返礼品の人気ランキングなど,宣伝合戦も過激で,行き過ぎ感は否めない。もちろん,自治体の努力,より寄付金を集め,財政難を克服しようとされていることはよく判るが,こんな制度が長続きし,国民の中に受け容れられるとは思われない。

税金が本来あるべき姿になるよう考えてみよう

 

[Reported by H.Nishimura 2018.10.01]


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