■技術者の眼 14 日本の技術
日本の技術者は優秀である。これまで世界に貢献してきたものを創り出した技術も数多い。特に,ハードウェア技術で世界を席巻してきた功績は大きい。しかし,ハード技術だけでなく,ソフトウェア技術が大きなウェートを占めるようになって,日本の技術が以前ほど光っていない状況に置かれてしまっている。
日本の技術の現状
日本は技術大国と言われてきて久しい。しかし,最近の日本の技術はどこか元気が無いように見える。どんな素晴らしい技術であっても,市場に受け容れられ世の中に貢献して初めて認められるものである。日本の技術レベルは高いが,市場に受け容れられるにはコストが高いことがある。
嘗ては,日本の高度成長期には素晴らしい技術が生まれると同時に,賃金も安かったので,低コストで高品質なものが多く,自ずと市場では歓迎され,世界中を席捲する勢いがあった。ところが昨今は,中国や韓国の安いコストに押され,市場で伸びる機会がぐんと減ってしまっている。見方を変えれば,直ぐに中国や韓国に追いつかれてしまうレベルの技術でしかないとも云える。
もちろん,こうした中でも,日本でしか作れない技術を駆使して頑張っている企業も多くある。必ずしも大企業でなく,自社特有の技術を活かして世界に羽ばたいている。こうした企業を探せば,幾らかは出てくるが,日本全体で見ればまだまだ少ない。世界に太刀打ちできていない。特に,私が居た電機業界ではさっぱりである。時代の流れと云えばそれまでだが,何とも嘆かわしいものである。
平成になって30年,技術者だけでは無いが,ノーベル賞を受賞するような優秀な日本人を輩出している。これは日本がまだまだ技術立国であることの裏付けである。それにも拘わらず,日本企業が技術を誇るような元気さが無い。ヒット商品を見ても,日本独自のものが殆ど見当たらない。
何が足りないのか?
生活が豊かになり,以前のようにガムシャラに働く姿は無くなっている。家庭を大切に,残業規制など規則正しい人間らしい豊かな生活になってきている。それ自体は,あるべき姿であり,寧ろ以前の家庭を顧みずに働いていたことが間違っていたのである。しかし,高度成長時代の真ん中で働いていた技術者にとって,以前のようにとは言わないが,何かしら足りないものがあるのでは無いかという気がしてならない。その代表的なものは何か?ハングリーさではないか?
人はハングリーな状態では,何かに付けチャレンジしようと試みる。その溢れるエネルギーが,新しいものを創造し,世の中に大きく貢献して行く。日本が負け犬状態に陥りつつあるのは,このエネルギーが見られないからではなかろうか?今の若者にこのエネルギーが不足しているのでは?果たして本当にそうなのだろうか?
人は年をとるに連れて創造力がなくなり,保守的になるのは自然な成り行きである。そうして考えると,日本の技術に元気が無いのを,単に若者のせいにしてしまうのは単純過ぎるのではないか?日本社会自体の高齢化が進んでいるように,企業自体の高齢化も進んでいる。昨今は定年の延長を謳い,60歳を過ぎても働くことが当然のようになってきている。
これでは企業自体が保守的になりつつあることを物語っている。世界で元気のある企業は若者が活躍していることが多い。つまり,若者にハングリー精神が無いのではなく,日本では若者が活躍できる場が少なくなってしまっているのではなかろうか?安定した,安全な道を進むことも重要なことであるが,それではアグレッシブな若者がなかなか育ってこない。そんなジレンマに陥っているのが日本の現状ではなかろうか?
日本でも,IT企業の社長など,若い人が活躍していることも目にはするが,何故か日本の技術とは結びつかない。確かに金儲けは上手かもしれないが,日本の将来を明るく元気にしてくれるようには感じられないのは,昔の技術者の僻みなのだろうか?物づくりに拘るからそのように感じられるのだろうか?
日本の技術に活気さを!!
[Reported by H.Nishimura 2018.09.24]
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