■技術者の眼 3 伸びる分野への進出 (No.579)
新製品開発に携わっていると,今最盛期の分野へのアプローチはもちろんだが,次に伸びると思われる分野へのアプローチも必須である。しかし,次に伸びる分野を確実に当てることは容易ではなく,その時点ではマイナーとして扱われ,なかなか認めて貰えないことが多い。こうした次世代の分野へは営業や企画が掘り当てる担当だが,技術者も次の芽に注目しておく必要がある。
技術者の役割
新製品開発に携わっている開発技術者にとって,ヒット商品を生み出すことは最高の喜びであり,市場に認められた製品開発に携わったことは誇りでもある。特に利益を大きく伸ばすことに貢献した製品を開発すると,会社からそれに対する表彰を受けることもある。もちろん,ヒット商品を生み出すまでの苦労は人一倍であろうし,その喜びは一入である。
開発者全員が目指すところではあるが,そう容易く実現できる訳ではない。苦労に苦労を重ねても,なかなかヒット商品に繋がらないことの方が多いのが現実である。確実なのは,今売れている商品の製品改良や,次のモデルの設計をすることで現状よりも少しでも経営に貢献できる製品を生み出すことである。
技術者の多くは,今伸びている分野の仕事や流行の分野での仕事が中心となり,現状の経営に如何に貢献するかが重要視される。これは経営者としての狙いが利益向上にある以上必然的なことである。もちろん,将来を見据えた経営を重要視する経営者も居るが,サラリーマン経営者の多くは,やはり目先の利益が優先である。
技術者としてはトップからの命令は絶対的であり,次の新しい分野への挑戦は二の次にならざるを得ない。しかし,技術者が経営者の目先の利益優先に迎合してしまうと,将来の有望な製品を見逃してしまうリスクもあり,掛けるバランスは必要だが,新しい分野への挑戦を怠ってしまっては,将来が危うくなってしまう。
つまり,新しい分野への挑戦ができるのは技術者でしかあり得ない。そうした仕事の芽をつみ取られないように,常々新しい事への挑戦はし続けることが必要である。もちろん,上司に隠れてやることではなく,堂々と上司に認められた仕事としてやるべきことである。ただ,無闇に挑戦するのではなく,見極めをすることも重要で,一度やり出したら止めないのではなく,一定の区切りで判断してGO−NOGOを決めるべきである。
経験談より
私の経験では,当時はテレビ・ビデオが全盛期で,電子部品の多くの製品が,テレビ・ビデオ向けの部品を作っていた。もちろん,全盛期で作れば売れる良き時代で,テレビ用やビデオ用の部品が稼ぎ頭だった。そんな時代に私の担当していたのは,自動車向けの部品開発で,利益は出していたが,テレビやビデオの部品とは比較にならず,冷ややかな眼で見られていた。
ご存じの方も多いが,自動車の部品と云えば,品質重視で,非常に厳しい工程管理を要求され,家電製品の部品とは比較にならない厳しさで,そんな厳しい環境に敢えて対応しなくても,家電製品の部品を作っておれば十分ではないか,と云う雰囲気が蔓延していた。ただ,自動車の部品は品質は厳しくとも,安定して供給できるメリットは当時からあり,それによって確実な利益を出せる体質を作っていた。
また,当時は家電分野でこそ使われていたチップ部品(それまでは両足にリード線が付いたディスクリート部品)をいち早く,自動車用に導入したり,電子部品メーカだったからこそ,使い方も熟知し,品質確保するにはどのようにすれば良いかも検討して,新しい挑戦をしたもので,自動車メーカからも信頼を得て,着実に小型化の流れを自動車に持ち込んだのである。テレビやビデオとは品質面の確認から少しは遅れたが,小型化の追随は続けられたのである。
ところが,それから10数年経った今日,電子部品業界も,携帯電話の需要はあるものの,テレビ・ビデオは当時の面影も無く,自動車分野へ大きくシフトしてきている。我々は,当時からしっかりした品質を作り込めば,品質重視の自動車業界へも安定して供給できることを実証しており,自動車業界からも認められていた。そのことが,今になってようやく実ってきたのである。
当時のトップからの自動車用の部品への対応に関しては,利益は出していたので止められはしなかったが,大いに推奨されることはなく,地道にコツコツ歩むしか無かったのである。当時に先見性あるトップがおられたら,今日のことを予見してもっと力を入れ,今日以上の繁栄ができていたことを思うと,我々の力がもっとあれば,とも思うのである。もちろん,当時,将来の予測や伸び代のPRはしても,なかなか本腰を入れてサポートしてもらえるようにはならなかったのである。
ただ,当時からコツコツ地道に築いてきた道があったからこそ,今日の自動車分野への大きな舵取りも容易にできたのではなかろうか。今の経営者に当時の我々の地道な苦労を知る人は居ない。そんなことの繰り返しが,将来に亘っても繰り返されるのであろう。
伸びる分野へのチャレンジは継続が必要
認められなくともくさらず地道な努力を
[Reported by H.Nishimura 2018.05.14]
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