■大企業の品質問題 1 (No.559)
日本の一流の製造業が品質問題を多発している。これまで日本の製品は高いが「品質は世界一」と云われ,日本の品質神話が誇りとされてきたが,それが崩壊しつつある。なぜ,このような事態に陥ったのか,技術者の目から考えてみる。
品質問題が多発
昨今マスコミを賑わしている大企業の品質問題がある。こんな企業がと思われるような一流の大企業で,とんでもない実態が浮かび上がってきている。最近のものから列挙してみると
- 鋼材性能データ偽装 (2017 神戸製鋼)
- 無資格者による法定検査の実施・隠蔽(2017 日産自動車)
- 自動車燃費性能データの偽装 (2016 三菱自動車)
- 地盤調査データの偽装 (2016 旭化成)
- 免震・防振ゴムの性能データ偽装 (2015 東洋ゴム)
- エアバックのリコール遅れ (2015 タカタ)
ザッと挙げただけでも,新聞の一面紙上を賑わした案件である。
個人的には品質関係の仕事に従事したことは無いが,技術者として監視されたり,指導を受けたりした経験はあるので,どのようなことが起こっているのかは,企業独自の詳細な部分までは判らないまでも,大凡の実態は検討がつく。と云うより,どうしてこんな問題が噴出しているのか目を疑いたくなるほどである。
昔と何が違っているか?
10年以上前の製造業では考えられない事態である。要は顧客と取り交わした性能を満たさないものを,堂々と出荷していたのだから「何をか言わんや」である。平たく云えば不良品を良品として出荷していて,悪びれもせず企業として出荷していたと云うことになる。
我々技術者は,製品を設計し,それが物づくりの工程で設計図通りのものに仕上がるよう仕様書に落とし込む。企業によって違うが,その仕様書に基づき,物づくりの工程で管理すべきポイントを明確にした管理工程図や製造指図書などに落とし込み,物づくりが管理された状態で行われるようなシステムが出来上がっていた。
もちろん,出来上がる製造物が確実に良品になるようになってはいるが,工程でのミスなど不良になるリスクを抱えており,最終工程で検査が行われる。物により歩留が悪い製品もあり,ここで良品のみが出荷へ廻って行く。その後,製造部門とは別の品質管理部門による出荷検査が行われ,出荷の合否が判定され,品質保証された良品の製品が顧客へ出荷される。出荷検査は全数検査もあれば,抜き取り検査もあり,決められた水準に合格しなければ出荷できない。
このように物づくりの工程で品質が作り込まれ,独立した品質部門の検査が出荷の関門になっている。だから,上記偽装と云う不正がどのように行われていたのか,詳しくは判らないが,物づくりの工程のデータも,検査部門の検査データも偽装されていたのではないかと疑われる。或いは,検査の規格がそもそも顧客と取り交わした性能データよりもゆるめの規格になっていた可能性もあったのではないか?規格外れのデータをわざわざ書き換えていたと云うのなら,何のための検査なのかと疑いたくなる。
昔はこんな馴れ合いの風土は無く,検査部門は市場の品質には絶対の自信をもって出荷していた。私の経験から述べるなら,それでも電気製品の検査部門は未だ,製造分の長,つまり工場長の権限が強く,工場長の責任で出荷の可否をしていることもあった。もちろん,その判断は市場での品質問題の発生は絶対に無いとの確固たるものである。一方,自動車部門の検査は,人の生死に関わる事故もあるため,検査部門が物づくりの工場長より権限を有し,検査部門がNGと云えば,工場長の権限も全く及ばないほど,厳格であったと記憶している。
このように製品品質に関して,企業の責任者として厳格なゲートが設けられていた。昨今の実態はよく判らないが,昔より経済性の追求や人も非正規の人が物づくりに携わるようになり,品質よりもコスト意識の追求が厳しくなっており,現場のできる範囲が狭まってしまって身動きが取れないようになってしまっているのではないかと危惧する。
また,これまでの馴れ合いで,性能が十分でないことを知りつつも,顧客市場で問題が起こっていないことから,それでも良いのだと勘違いしてしまっていた風土があるのかも知れない。要は品質よりも効率が優先されることになってしまっている危険性が見受けられる。昔は年輩で品質に一家言をもった人が居て,歯止めが効くシステムが出来上がっていたが,そうした年輩者もどんどん卒業して行き,伝統的な品質確保の気質が抜けてしまったのが今日の実態なのかも知れない。
昨今の品質問題多発に呆れ返って
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