■技術者の理想と現実 6 (No.557)

技術者は一般人よりも,どちらかと云えば論理的にものを考えようとする。しかし,社会のものごとは論理的では片付けられない,感情的・心理的な面で行われることが多い。その社会生活に疎い技術者もいる。

  企業での側面

企業に於いては,技術者は優秀な技術力を発揮することで,企業に貢献することが求められる。新しい物を創造できるのは技術者であり,それが使命でもある。したがって,高い技術力を有する人は,仲間からも上司からも,その存在を認められる。技術力での存在は認められても,それが地位も認められるとは限らない。つまり,企業での地位は,技術力の高さだけでは評価されない。

企業での仕事は個人よりも組織力としての方が重要視される。このことは,個人の技術力が如何に高くとも,組織を動かす力が無ければ半減することになる。技術力の高さと共に,組織力を発揮する力,つまりリーダシップなどの要素が必要とされる。得てして高い技術力を持った技術者は孤独で,独りよがりとは言わないまでも単独でする方が力を発揮するケースが多い。

むしろ,高い技術力は持たないが,口達者で上司にも受けの良い技術者の方が出生するケースが多い。技術的な観点から見れば,マイナス面も多いのだが,これが現実である。余り業績も上げていなくても,口先だけで出世していく人をたくさん見てきた。こうした人が上司に多くなると,技術力の低下は免れず,上の機嫌ばかりに注力して,肝心な技術力が伴わず,やがては衰退の末路を見ることになる。

高い技術力を持っていて,且つ組織を動かす力,リーダシップを発揮できるような技術者がどんどん上に上がって行く組織は強い。理想的な姿であるが,現実とのギャップを感じている技術者も多いことだろう。しかし,そうした環境下でも,目指す理想の姿を求め,日々努力を続けている人が最後には笑うことなると信じて頑張って欲しいものである。

  一般社会生活での側面

技術者は企業人であるとともに,家庭では大黒柱である。大黒柱と云う表現は些か古めかしいが,一家を背負って生活している人が殆どである。その社会生活の大半は,感情や心理的な面が左右することが多い。最近ではどんどん変わってきたが,我々の時代は技術者は企業人であって,家庭人には程遠い人が多かった。つまり家庭生活での子供の成育や近所づきあいは女房に任せっきりで,家に帰っても頭から仕事のことが離れない人が多かった。

昨今は残業規制もやかましいが,昔は残業規制はあったものの問題視されるようなことは少なく,企業戦士として仕事に命を賭けているような人が多く,これらの人々が日本の高度成長期を支えていたのだった。私事であるが,帰宅が終電を過ぎることもしばしば,或いは若い技術者は徹夜することもときにはあった。私も少なからず,顧客企業との約束を守るため,徹夜で働いたことも何度となくある。

今の技術者には通用しないが,やるときは徹底的にやる。多少の犠牲やルール破りは,見て見ぬ振りをしなければならないことがあった。何でこんな目に遭わなければならないのかと疑問を持ちつつも,家庭を女房がしっかり守っていてくれたからこそできたことである。今でも決して評価されるものではないが,このように一般社会生活に疎い技術者が多かった。もちろん,技術者に限ったことではなかった。時代の流れと云えばそれまでだが,本当に女房にはたいへんな苦労を掛けたと反省している。

現在では,女性の社会進出が活発になり,家事を女房任せの家庭もだんだん減ってきて,男性も家庭生活の一部を担うようになってきている。好き好んでやっているようには見えないが,男性全体が弱々しくなったようにも見える。一般的に,技術者はどちらかと云えば,論理的な判断をすることが多い。ところが,現実の社会は論理的なだけでは片付けられないことが多い。人間社会特有の感情が入った側面が結構あり,この切換が必要であるが,なかなか馴染まない人も居る。

子供のことは女房任せとして,自分の子供だからと高を括っていると痛い目に遭うこともある。自分が育った境遇と似通っているので,同じように育ってくれると願っている人は多い。しかし,時代が違った子供はその時代に沿った生き方を見つけている。大きくなって,親として締め付けようとしても,手遅れの場合が多い。その点技術者は仕事のことしか頭に無い人が多いので,家庭を顧みず,一方論理的に物事を考え勝ちなので,自分と同様と思ってしまい,気づくのが遅いことがよくある。真面目な技術者ほど陥りやすい側面である。

理想的な姿を描くことは得意でも,現実の姿に面食らって,身動きが取れないようなことにならないように気を付けよう。

論理には強いが,感情や心理面に弱い技術者が居る

 

[Reported by H.Nishimura 2017.12.04]


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