■技術者の理想と現実 4 (No.555)

顧客に喜ばれる良い製品を作りたいと思うのは,開発技術者であれば誰しもが願うことである。しかし,本当に良い製品に仕上がるにはなかなか苦労も多い。

  性能(Quality)優先の商品

目標性能を掲げて製品開発は始まる。企画意図を十分クリアする性能を目指して,いろいろな部材を組み合わせながら検討を始める。基本的に,技術競争はこの性能面であり,したがって多くの場合,性能目標は競合他社の追随を許さないものになる。目標が低いと,競合他社に出し抜かれたり,直ぐ追随されて一番手の利益確保が難しくなる。

技術者は目指す性能に届かないと何としても性能をクリアする手段を考える。ときには,当初企画したときのコストを大幅に上回っていることが起こる。性能向上を目指す余り,コストに無頓着な技術者も多い。しかし,コストを無視した性能向上は技術者としての仕事ではない。もちろん,最初はコストを意識せず性能向上を目指すやり方もあるが,結果的にはコストの重視は企業の生命線でもあり,コストダウンを余儀なくされ,反って時間を食ってしまうようなことが起こる。

性能を上げることは,精度を厳しく管理することも重要な要素の一つで,それを実現するには,精度の良い部材を使う必要があり,精度の良い部材はコストが高くつく。これは,一般的な精度の部材を使って,製品化した段階で選別すると云う方法も無いことはないが,歩留が悪く,反ってコストが高く付くことが多く,一般的には組み合わせれば100%良品になるような部材を使って組み上げる。

技術者にとっては,性能優先は当たり前のことであり,高い性能を求められ,チャレンジングなものを好む技術者も多い。ただ,成功する確率は低く,何度も挫折を味わうとチャレンジする意欲が失せてしまうことにもなる。

  コスト(Cost)優先の商品

コストに対して厳しい要求が求められると,技術者にとっては厳しいものがある。もちろん,少しでもコストを抑えることは重要だが,行き過ぎるとどこかに手抜きが生じる。技術者としてはやりたくないことでも,コスト目標をクリアするために,致し方ない妥協が求められる。

許せる範囲の妥協であればよいが,行き過ぎが度を越して,市場に出てからリコールするはめに陥った話もよく聞く。ただ,技術者独りではどうしようもないことも多い。つまり組織としての風習など,技術者が感じていても,言い出せない雰囲気や,常習化した中では,感覚自体がマヒしてしまっていることもある。

顧客の要求は厳しい。多少性能が落ちても安い商品を求めることが結構多い。昨今の技術の進化は著しく,必ずしも最先端の技術を採り入れたものより,一世代前のものでも,そこそこの性能があり,通常使うことには全く支障のないものもある。パソコンなどが典型的な例であるが,性能よりも低価格な製品を望む顧客が多いこともあり,的確な顧客ニーズを把握した商品が売れるケースも多い。

  納期(Delivery)優先の商品

性能・コストの他に,納期優先と云った商品もある。つまり,性能を目標以上にし,コストを安く抑えたとしても,商品完成のタイミングを逸脱しては商品価値が認められない。

商品には売れる季節が決まっているものがある。こうした商品は,そのタイミングを逸すると1年間待たなくてはならない。したがって,こうした商品を開発するに当たっては,納期が最優先とされる。性能がそこそこでておれば良しとし,コストも多少のオーバーも許される。タイミングを逸すれば,それ以上の開発費のムダが生じてしまうからである。

部品開発では,納期の厳守はかなり厳しい。セットメーカの製品化の日程に合わせて開発しなければならないことが多く,製品化の日程を狂わすようだと採用して貰えなくなってしまう。その隙に競合メーカが入ってしまうことが起こる。ただし,この場合性能は許して貰えない。なぜなら,性能が劣るようだと競合に負けてしまうことになる。コストは,セットメーカには無関係なので,自社での負担が増えることになってしまう。

  性能(Q)とコスト(C)と納期(D)の狭間で悩む技術者

商品は,QCDすべてが満足されるに越したことはない。しかし,現実の世界では,なかなかこれが揃うことは難しいことがある。特に,プロジェクトを進めるなかで,いずれかの間で,トレードオフが生じることが起こってくる。これは技術者を大いに悩ますことになる。上司からは,両方を何とかしろと云うプレッシャーがしばしば掛かる。しかし,現実にトレードオフは起こる。

こうしたときの判断は,プロジェクトなどが始まる初期の段階で,トレードオフになった場合にはいずれを優先させるか,予め決めておくことが大切である。どちらも満足させたいと欲張り,「二兎を追う者は一兎をも得ず」と云う諺のように,なってしまっては元も子もないことになってしまう。

頭で考えれば当然な成り行きで,優先順位の判断が必要になってくるケースが出てくるが,こんな判断で悩む技術者も多い。要は,初期の段階で上司との話し合いを十分して,納得した上で開発を進めないと,余計な悩みを抱え込むことになってしまう。

製品開発は思い通りにはなかなか進まないことが多い

 

[Reported by H.Nishimura 2017.11.20]


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