■技術者の理想と現実 3 (No.553)

自分が開発した新製品が世の中に認められ,顧客に喜ばれる製品に仕上がることは技術者として誇らしいことである。そうした夢を追い掛けて日々努力している技術者は多い。しかし,そう簡単にヒット商品にはならないのが現実である。

  ヒット商品とは

世の中にはヒット商品と呼ばれるものがある。企画者の発想や狙いが上手く顧客のニーズにマッチしたもので,ときには企画者の意図以上に顧客がヒット商品に育て上げることもある。

顧客ニーズと云うものの,顧客が欲しいと願ったものが必ずヒット商品になるとは限らない。それは顧客は利用者としての一面からしか見ていないので,実現するにはとんでもない高価な技術が必要だったり,すぐ飽きてしまうものだったりして,顧客の声を鵜呑みにして商品開発するのは,顧客ニーズにはマッチしても,ヒット商品にはならないことが多い。

顧客ニーズも様々で,顕在的なニーズよりも,潜在的なニーズ(Want)を引き出すことができるとよい。即ち,技術シーズの側面から見て,顧客の潜在的ニーズに合致するような商品を企画して,顧客ニーズを掘り起こすことである。この場合,顕在的なニーズには未だなっていないため,市場での競合は無く,先手を打つことができる。或いは,新しいものに興味を示す顧客が利用を試みて,良いものだと判れば,自然と市場に拡大し,大きな市場に繋がるきっかけになることもある。

昨今では,ネット社会が拡大し,誰もがネットに繋がっている状態なので,人気のあるものは一気に市場に拡散することがあり,以前とは比べものにならないスピードで拡大してしまうことが起こる。こうした,ネット社会を上手く利用することもヒット商品に繋がる手段である。ただ,良いことも素早く拡散するように,悪い噂も素早く伝達されるため,一気に膨らんだものが,一気に萎んでしまう怖さもある。

こうした顧客の反応は,技術者が頭で考えたようにはならない。自分で思いついた通りにならないことが技術者を悩ませる。素晴らしい技術を駆使した,技術者にとってはこんな素晴らしい商品と思っても,顧客は冷ややかな目線で商品を見ることは間々起こり得る。このギャップを埋めることは並大抵のことではできない。潜在ニーズを掘り起こすことに挑戦し,何度も挫折を味わいながら,執念深く挑戦し続けることで活路が見出せるかもしれない。

  競合に負ける 先行を許す

通常,新製品開発は独自の画期的な商品よりも,競合と競い合いながら,如何に早く顧客のニーズを捉まえた商品を市場に出すかによって決まる。以前は二番手が,先行した商品を顧客ニーズに沿って改良をして,一気に大量生産して利益を上げるパターンがあったが,随分昔の話で,今は先行して逃げ切るパターン,競合より先んじた一番手だけが利益を上げることが多くなってきている。

商品の開発競争は,殆どの場合,競合との先行争いである。もちろん,独自の画期的な商品で,他社の追随を許さない商品も生まれるが,そうしたケースは少ない。通常は先行争いで,先行したと思ってもすぐ競合他社が追いついてくる事態になっている。技術者は競合争いの一歩,否半歩先を行くことを考えている。

商品競争では,後から直ぐ追いつき競争することは可能である。しかし,部品開発では,商品に搭載されない限り,日の目を見ないことがある。汎用部品ではいろいろな使い道があるが,カスタム部品は特定の商品に限定した開発なので,競合との先行争いに敗れると致命的なダメージを受ける。折角,これまで努力してきたことが水泡に帰すことが起こる。こうした経験は幾度となくある。

部品サイドから見れば,商品開発されているセットメーカが顧客で,その要求に如何に応えるかが勝負の分かれ目で,特に自動車メーカなどへ納入する部品は,搭載が決まれば車のモデルチェンジまでの一定期間納入し続けることが可能で,安定生産できるメリットも大きいので,競合部品メーカが凌ぎを削ることになっている。

そこで一番効果の上がるやり方は,自動車の開発を良く知った,車の環境に十分合致した部品を提供することである。口では簡単に表現できるが,車の過酷な環境に十分耐えうる部品を開発することは,家電用の部品を作っていても,そう容易いことではない。部品そのものの性能はもちろんであるが,自動車の環境に合致できる部品開発が決め手になることが多い。

部品開発で家電用では苦杯をなめても,自動車用として巻き返した経験もある。技術者は素晴らしい性能技術の搭載を誇りにするが,現実はそれよりも,使われる環境に十分耐えうる信頼性技術が重要なことも身に付けておきたいものである。

競合との競争は日常茶飯事,それに打ち勝つことは必須要件

 

[Reported by H.Nishimura 2017.11.06]


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