■技術者の理想と現実 2 (No.552)
新製品開発に携わった経験のある技術者は,必ずぶち当たる大きな壁がある。
開発が思い通りに進まない
技術者にとって新製品を開発することは,楽しいことであり,且つやり甲斐のある仕事である。誰もが未だやっていないことへの挑戦であり,新製品によって顧客に新たな歓びを与えることができる瞬間でもある。技術者,特に企業に就職した者にとっては,大きな使命であり,重要な役割でもある。
しかし,大学を卒業して企業に就職したから,直ぐ新製品の開発に携わることは少ない。例え,新製品開発チームに所属したとしても,極一部の部分の開発を上司の指導を受けながら役割を果たすだけで,新製品開発をしたと云う実感とは程遠いものである。殆どの者は,新製品開発よりも,企業の物づくりが如何にして行われるか,その過程の一部の仕事を任され,物づくりの全体像を学ぶことの方が多い。
だが,この経験は貴重なもので,新製品開発において,どのように物づくりが行われるかを経験しているのとそうでないのでは,必ず違った形で現れる。要は,新製品開発をすると云うことは,如何に物づくりがスムーズにできるかを配慮した製品であるかどうかで,できあがりの品質をも大きく左右し,ひいては顧客に喜ばれるものに仕上がるか否かに掛かってくることになる。
開発者を悩ますのは,なかなか定められた日程内に目標必達が困難なことに遭遇することである。開発者の殆どが,予定通りになかなか進まないもどかしさにぶち当たる。そもそも新しいことへの挑戦なので,想定外の出来事は起こりうる。もちろん,こうしたリスクが起こることを前提に,余裕をもった日程なり,或いはチェックポイントを設けて,予定通りに進むかどうかを事前に察知する方法が取られる。そうは云っても,技術者に余裕など無いのが実態である。
実際,大きな壁にぶち当たって,先が見えない状況は何度か経験した。ダメだ,と諦めてはそこまでで,技術者としてとことんやれることは総てやるくらいの執念は絶対に必要である。最後まで諦めず執念をもって当たれば,道は必ず拓けると信じて良い。仲間や上司が助けの手を差し延べてくれることだってある。よくよく見直せば,見えなかったことが見えて解決の糸口が掴めることだってあり得る。ありとあらゆる可能性をやってみることである。
もちろん,それだけいろいろなことをやっても道は拓けないことだって現実には起こる。未知への挑戦とはそんな過酷なものである。当初描いた理想通りに進まないのが現実である。悔しい思いを噛みしめなければならないことが起こる。計画したことが予想と違って,他にも影響を与える結果になるのである。場合によっては,上司の厳しい叱責を浴びることになる。或いは,取引先から大目玉を食らうことだってあり得る。技術者の誰しもがそんな経験を積みながら成長して行くのである。
メンバーの力不足
上述した内容は,技術者個人としてのことが中心であったが,実際には新製品開発を独りでやることは殆ど無く,何人かのチームで分担しながら開発を進めるケースが多い。要は,分担した総てが順調に進むことが不可欠で,どこか一部が遅れて進まないと,全体へ影響を及ぼすことになる。だから,全体を取り仕切るリーダは,各部の進み方を見ながら,遅れが生じそうなところを素早く察知して,手当をすることが重要である。
当初は,各部の分担をならして,どの部分の進み具合を同じようにする試みがなされるが,新製品開発に限らず,ウィークポイントが必ず生じてくるものである。メンバーの力量と開発の困難度はなかなか当初の予想,即ち理想通りには行かず,メンバー自身の力不足もあり,一方では力量はあってもそれを超える困難度が発生することだって起こり得る。どちらが原因かは判らないこともあるが,技術者の力量<困難度,となれば前に進まなくなってしまう。
こうしたとき,リーダにとっては,先ずは一緒に開発しているメンバーで知恵を出し合って解決策を見出すことをする。それでも解決策が無いときは,強力なメンバーを増強したり,或いは他に委託したり,素早く解決策を見出す必要がある。要は,遅れの影響を最小限に留め,損失が発生しない策を採らなければならない。咄嗟の判断であるが,なかなか思い通りに進まずジレンマに陥ることだって往々にある。
最初からメンバーの力不足を決めつけることは良くない。通常,誰でもできることをしていては,素晴らしい新製品の創出はあり得ないし,競合に負けてしまい新製品開発の成果は見込めない。むしろ,力不足を感じながらも,新しいことへ挑戦し,ブレークスルーする意気込みが必要で,こうした心意気のある技術者に育って欲しいもので,個人の成長と共に,新製品が創出されるのが理想である。
理想と現実の狭間で悩む技術者
[Reported by H.Nishimura 2017.10.30]
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