■技術者の育成 7  (No.547)

技術者は自分の技術力を高めるために邁進する。技術は奥が深く,幾ら探求してもやりすぎると云うことは無い。特に専門分野においては誰にも負けないと云う自負を持った人が多い。そのことは素晴らしいことで,技術者としては理想的な姿である。しかし,幾ら素晴らしい技術であっても,それが商品に反映できなければ,宝の持ち腐れである。

  技術力を活かすには

新人から技術部門に入って,だんだんと力が付いてくる時期がある。自分の技術力に少しは自信が湧いてくる頃である。技術者の多くは,自分の持てる技術をより深く極めようとする。それは専門性を活かし,より深い知識とそれを商品化する力を蓄えることである。一方,深い知識同様,幅広い見識も必要で,その両者を兼ね備えた人はそう多くは居ない。

つまり,知識を深めようとすれば,より専門性が強く,一つのことにのめり込むことであり,それを極めるには,他のことを除外しなければならない。世間一般に云われる専門家とは,そうした一つの道を究めた人達である。技術者として,一つのことを極めることは理想であり,若い人にとっては非常に大切なことで,専門性が無い技術者は,どうしても技術者としての価値を見出されにくい傾向がある。

企業で働いていると,自然と環境そのものが何らかの専門性を付けるようになっている。即ち,いろいろなことをやるよりも,何年間は同じ部門で働き,その部門特有の技術を身に付けて行くようになっている。その間に,専門性が磨かれるようになっている。初めは自分の専門は何かと聞かれても,直ぐに答えが出ない技術者でも,数年も経てばその部門特有の専門技術者に育っており,専門性の問いにも容易に答えられるようになっているものである。

ただ,だからといって持てる技術力が活かされているかと云えば,必ずしもそうとは限らない。技術者の持つ専門技術は,どれだけ極めたものだと云っても,商品に結びつくような結果を生まない限り,ただ単なる専門技術を有しているに過ぎず,企業への貢献はできていない技術者なのである。

もちろん,総ての技術者がそうとは云えず,商品開発に携わっていない技術者も多くいて,縁の下の力持ちのような,地道な技術者も居る。ただし,そうした技術者でも,直接商品化には携わらなくとも,生産技術的な面での商品化への貢献など,形は違えども,市場化への何らかの貢献はしているものである。つまり,直接的,間接的に商品化に結びつく専門技術をもってこそ,一人前の技術者と言えるのである。

  市場の声とは

開発技術者にとって商品化するには,持てる専門技術を如何に市場の要求に応えられるかが,一つの大きなカギになる。つまり,市場の声を無視したような製品を商品化しても,結果的には売れない製品で終わってしまい,技術者の専門技術が市場では活かされていないことになってしまう。だから,技術者は顧客重視,顧客第一をスローガンに開発を進めることが多い。

企業によっては,製品に対するクレームなど,生の顧客の声を重要視して,次の製品に反映する取り組みをしているところもある。つまり,顧客の声をそのまま製品改良に繋げているのである。往々にして顧客の声は無理難題が多く,必ずしも製品に反映しがたいことも多いが,その難題に応えるのが技術力であり,高い技術力が無ければできないことなのである。

このように市場の声をマーケティング部門などが的確に捉え,商品に反映することは,売れる製品を生み出すことに繋がる。しかし,本当の技術的なマーケティングとは,市場の声を直接聞き,それに反応するだけではなく,市場が欲求しているもの,未だ世の中に無いがこんなものがあれば良いと云ったものを的確に見出し,それを商品化して市場の声を引き出すことである。

ヒット商品と云われる多くの製品は,こうした顧客の欲求を素早く的確に捉え,商品化にトライして,市場の声を産み出して行った結果,上手くマッチしたと云われるものである。技術者にとって,顧客欲求と持てる専門技術を融合させることは自分たちにしかできないことであり,且つ市場を先取りできる最大の武器である。こうしたことを活かせるような技術者に育って欲しいものである。

顧客欲求を的確に捉えることのできる技術者たれ

 

[Reported by H.Nishimura 2017.09.25]


Copyright (C)2017  Hitoshi Nishimura