■技術者の育成 6 (No.546)
技術者の立場から見ると,技術力があった筈のシャープや東芝が凋落しており,他の家電メーカも以前のような勢いは感じられない。盛者必衰とは昔から言われていたことで,企業にもピークを過ぎると必ず訪れる衰退である。と言ってしまえばそれまでだが,技術者として考えることを述べてみよう。
シャープや東芝の凋落
経営評論家でも無いので,マスコミの報道などで知る程度の知識しか無い。世間で言われているように,トップの判断が間違っていたとか,経営者が自己保身をするような人物でしか無かったのが本当かも知れない。確かに,トップが先を見据えて,しっかりとした判断ができておればこのような体たらくは回避できたのかも知れない。
そのような目で見てみると,企業を起こした創業者や,創業者一家のトップは,自分の創った企業の成長を如何に持続させることができるかに必死であり,その姿はサラリーマン社長との差が歴然としているようである。その意味で,大企業の社長より,中小企業の社長の方が生き残りに掛ける情熱は大きいように感じられてならない。
シャープや東芝の歴代トップがどうだったかは知らないが,サラリーマン社長の宿命として,企業の成長維持をさせることはもちろんのこと,社長の座を掴むまでの戦いを経て,大企業が陥りやすい奢りが身体にいつのまにか浸透していて,容易く企業が傾くようなことは自分の代には起こるはずがないとの安心感がどこかに潜んでいたように思われてならない。
いくら優秀な部下,特に優秀な技術者が居ても,トップの判断が企業の生命を左右してしまうことになる典型的な出来事である。
技術者は何もできないのか?
確かに,技術者がどんなに素晴らしい技術を持って開発に当たっても,トップがそれを認めないような判断をすればそれまでである。しかし,企業は必ずしも,トップの責任だけに帰せられてしまうのは,早計のようにも感じられる。と云うのは,トップを筆頭にした幹部の責任も大きく,組織全体が衰退傾向に向かって行って,所謂大企業病が組織全体に蔓延していたことが根本にはあったのだろうと推測できる。
サラリーマン社会特有の競争と自己保身,それらが蠢く中で,本当に技術的に優秀な人物よりも,上司に受けがよい,極端な場合,技術よりも口先だけで出世するような仕組が出来上がってしまっている多くの企業が,いつまでの永遠に成長することは不可能であると断言しても過言ではない。もちろん,そういった人は少数で,技術者の多くは真面目に技術的なことに一生懸命努力しているが,皮肉にもそうした技術者が必ずしも報われるとは限らないのである。
30数年間の大企業のサラリーマン技術者として,いろいろな内部事情を経験してきて,シャープや東芝の出来事が他人事には思えない心境である。同じことが私の務めていた企業で起こったとしても不思議ではない。運良くか,トップの判断が良かったのか,未だ健全な企業として残っているが,油断は大敵である。
「組織は頭から腐る」とも云われている。つまり,トップや幹部からの要求に応えるように部下は働き,上の要求に従わざるを得ない組織構造になっている。だから技術者が幾ら頑張ってもどうしようもないのだ,と諦めの境地に陥ってしまえばそれまでである。技術者の組織長になっている人は,必ずしも上の命令に従順なだけではなく,会社の将来を背負って,技術で新天地を拓き,競合他社に負けない地位を獲得しようと野望に燃えている人も必ず居る。
こうした技術群団が居れば,自己保身に走っている幹部でも,一目は置く筈である。腐りかけている幹部を技術集団が蘇らせるのである。一介の技術者には何もできない,と思ってしまうのと,道は必ず拓けると先を見て進むのでは雲泥の差である。最後まで諦めず,将来に向けて,開拓をし続けるのが技術者であり,使命でもある。例え,シャープや東芝のような不幸な目に出会ってしまったとしても,技術者としての活躍の場は,次の展開が待っているはずである。
シャープや東芝の凋落から学ぶこと
[Reported by H.Nishimura 2017.09.18]
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