■技術者の育成 5 (No.544)
開発や設計を担当する技術者もいつまでも一人で担当しているのではなく,やがては自ら率先して部下を率いて開発や設計をするようになってくる。そこで必要なことは,リーダシップやマネジメントなど,技術の幅を広げた仕事ができるようになることである。
担当者と部下を持ったリーダの違い
一担当者としての技術者はやがて部下を持った仕事をするようになってくる。担当者であった仕事とリーダ的な存在になった仕事とは自ずと違ってくる。
前者の場合は,上司から与えられた仕事を必達すべく,目標や日程に合わせて確実に遂行することが求められ,大半が受け身的な仕事である。受け身的とはいえ,自分の能力をフルに活かしつつ,能力を超えたものにも果敢にチャレンジし,自己成長を図りながら,上司の要求に応えなければならない。廻りとの協調はもちろん必要であるが,自らに与えられた目標を確実に遂行することが第一である。
一方,後者は部下を持っての仕事で,上司から与えられた仕事であっても,自らが手を下してやり遂げるよりも,チームとして如何に目標必達に向けて,効率的,且つやる気をもった集団として仕事をするか,が求められる。そこでは,部下を助言したり,指導したりできる技術的な能力はもちろんのこと,率いるチーム全体を如何に効率よく仕事ができるようにするかと云うマネジメントの仕事もしなければならない。
積極性を育む
技術者にとって重要なことは,新しいものを創造することであり,このためには失敗を畏れず積極果敢にチャレンジすることである。ともすれば,失敗をすることを心配し,安全確実な道を進みがちだが,ときには大きな壁を打ち破るために積極的に未知のところへチャレンジすることが必要で,リーダは部下に対してこうした配慮をしてやることが必要である。
失敗することに萎縮したようなチームでは,大きな発展は望めないし,まして競合メーカと競っている場合など,半歩でも先に行くことが勝因につながり,安全な躊躇したようなやり方では競争に勝つことは難しい。日頃から,新たなことに積極的にチャレンジして失敗することは多少大目に見て,同じ失敗を繰り返すようなことはさせないような指導をすべきである。
目標を高く掲げ,積極果敢にチャレンジできる環境を提供するのがリーダの大きな役割で,このような集団で組織強化が図れ,新製品が次々と生まれることが理想である。もちろん,思い通りには行かず,挫折を味わうことも多々あるが,それを乗り越える精神力を養うことも技術者には必要なことである。技術力以外の人間的な魅力も培われることが大切である。
経営を学ぶ
技術者にとって,一つの転機は部下を持ったリーダになったときである。これまでとは違った仕事の拡がりが出てくる。これまで以上に技術力を磨くことは当然ながら,技術力だけでは為し得ない能力が必要となってくる。いわゆるマネジメント能力である。マネジメントについてはこれまでいろいろ述べてきているので,ここでは詳しくは述べないが,部下の能力を最大限活かす仕事の進め方である。
基本的なプロジェクトマネジメントなど,チームとしてのやり方を学ぶことは最低限として,リーダとしての先見性や洞察力を養うことが必要となってくる。つまり,これまでの上司からの与えられた仕事から,自らが将来を見据えてやるべきとを考え出す仕事に少しずつ変えて行く必要がある。もちろん,上司ほど広い範囲で将来を見据えることはできなくとも,専門分野でのあり方や現場第一線にいるからこそ感じ取れる変化を敏感に読み取り,それを行動に移すことをしなければならない。
改めて経営学の本などを読むこともときには必要になってくるが,日頃の仕事の中で学ぶ経営的な見方はいっぱいあり,それらを確実に身に付けて行くことから始めれば良い。もちろん,技術者としての見解と経営者的な見解と異なることも出てくるが,自分の信念をしっかり持って判断して行けば良い。間違ったり,失敗することは当然起こって来るが,初めての失敗は素直に認め,同じ失敗を繰り返さないよう心掛ければ良い。
そうしているうちに,自分の創ろうとしている新製品のコストや利益についてもだんだん知り得るようになってきて,如何にすれば競合に打ち勝ち,企業として利益を上げることができるかも学ぶ機会が出てくる。これまでの技術一辺倒の考え方から,経営的な見方を熟知した技術マネジメントができるようになってくれば,技術者として一人前になった証しである。
技術者として一人前になる
[Reported by H.Nishimura 2017.09.04]
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