■技術者の育成 2 (No.539)
どんな技術者に育てるか?技術者にはいろいろなタイプが居て,技術的なことをやっておれば十分だと云う職人肌の人も結構居る。もちろんそういった人も重要な役割を果たしてくれるが,そんな人ばかりでは競争に勝てず,企業の存続が危ぶまれる。技術組織として企業存続はもちろん,清々発展するにはどんな技術者が必要なのかを検討してみる。
競合に打ち勝つために
技術者が重要なのは,企業の発展に欠かせない製品開発を遂行し,それによって販売が伸び利益が確保でき,企業経営に貢献できる役割を担っているからである。そのためには,常に技術者は将来に目を向け,企業が成長して行く路線を切り拓くことができる能力を必要とされている。もちろん,その行く手には必ず競合相手がおり,それとの戦いであり,常に一歩,いや半歩先を行き,優勢な戦いを進むべきである。
ヒット商品は容易にできるものではなく,優れた技術は必要であるが,技術が優れているからと云って必ずしもヒット商品になるとは限らない。つまり,顧客が買ってくれる,買いたいと思うような商品開発が必要で,そのニーズを先取りできるマーケティングも重要な役割で,技術者自らが市場をよく知ることも大切で,その専門である営業部門と上手くタッグを組んでやることも必要なことである。
技術者は技術を深掘りする専門性は必須だが,市場ニーズをかぎ取り,いち早く技術にフィードバックさせ,より販売が確実な製品に仕上げることが必要である。こうした一連の流れは,なかなか技術者独りでは難しく,技術組織として上手く連携し,総合的な技術力を駆使することが必須となってきている。即ち,優秀な一匹狼的な存在よりも,技術組織として,競合に戦える布陣ができるようなことができなくてはならない。
組織を強くするには
そこで技術組織を強力にできるような技術者を,如何に育てて行くかが非常に重要なことになってくる。企業の特色である技術内容によっても異なるが,先ずは目指す方向がはっきりしていないと,何をするにも手探りで,これでは発展は覚束ない。先ずは,技術トップのリーダシップが不可欠で,将来の見取り図,目指す姿を技術者に指し示すことで,リーダとしての重要な役割である。これが欠落しているようでは人材育成を語るに及ばずである。
ここでは将来の姿が明確になっているとして,それに対する課題が幾つかあり,未だ不確定な課題も残っていることもある。この課題をクリアして行くために,技術者に如何に力を発揮してもらうかを指揮することである。前回述べたプロ野球の選手補強のように,欠けているものを補うことは容易ではなく,与えられたメンバーの技術力で,課題を解決することが必要で,なかなか困難なものである。
もちろん,全く所有していない技術が必要な場合は,専門のメーカに依存したり,或いは新しい要素技術を研究開発部門に委託したり,自前の技術だけで解決できない課題も多い。こうした課題が多いことは,目標とするものとのギャップが大きいことであり,クリアできた暁には大きな成果が得られることも多いが,そもそも技術力が低すぎることもあり,技術トップの判断力が問われることとなる。
ここでは,課題を明確にして,それを乗り越える技術力を付けることが重要で,ゴールと時間軸を明確にして,進むことが必要である。それには,マイルストーンが必須で,ただガムシャラに進めば良いというものではない。マイルストーンでその進捗具合をチェックし,また進んで行く過程での内外の環境変化にも対応することが必要である。一人ではなく,大勢がそのプロジェクトに参画することが一般的であり,全体の進捗がメンバー全員に浸透して,行く先のベクトルが一致していることが重要である。
プロジェクトの達成と組織強化はそのまま一致はしないが,少なくともプロジェクトが順調に進むことが,組織強化の下地になることには違いない。技術者に成功経験を積ませることで自信を持たせ,積極性を育ませることが重要で,そうした意識を技術者が持つことが組織強化には必要なことである。
個人の成長が基本
組織で仕事をすると云っても,その組織を形成するのが技術者であり,この技術者が成長しない限り,組織は強くならない。広島カープの事例でも,個人の能力が全体の強さであるように,能力にない技術者が幾ら集まっても,組織強化にはならず,やはり個人の能力をあらゆる面で上げることが必要になってくる。
オールラウンドの人は何をさせても十分な対応力があり,それなりに成長をして行くが,技術者の多くは,オールラウンドよりも専門性に偏った人である。つまり,何か専門性の得意なことをさせると人一倍の能力を発揮するが,それ以外のことをさせると凡人以下であることがしばしばある。そうかと云って,何とかオールラウンドプレヤーに育てようとしてもムリなことがある。したがって,その人の個性を十分見極めて,専門性を伸ばす人と,ゼネラリストで経営的なセンスを兼ね備えて伸ばす人と,区分けが必要である。
とにかく,技術者の成長は個人の能力を上げることであり,弱点を補うことに力を注ぐよりも,長所を伸ばして育成する方が,成長の度合いが大きいことが間々ある。もちろん,組織としての能力発揮に,すべての技術者の長所だけを集めて成り立つものではなく,弱点をカバーし合う部分も必要である。ただ,技術者各々が独り立ちしている状態で,与えられた課題の解決だけでなく,自らが課題を抽出し,最終ゴールへいち早く到達させようとする動きができる組織は強く,技術部門としての役割を果たせることが多い。
競合と戦う組織力強化が重要
[Reported by H.Nishimura 2017.07.31]
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