■技術者の育成 1 (No.538)
企業の繁栄はいつまでも続くものではない。しかし大企業で働いていると,毎日の単純な生活の繰り返しで,なかなか危機感を抱くことがなく,気がついた頃には企業が傾いていたと云うケースも珍しくない。企業継続の成長の源となる技術者を如何に育成し,次々と新製品をヒットさせるようなことはできないものか,考えてみることにする。
人の育成
人の育成は一朝一夕にできるものではない。世代が代わるようになって,初めてその成果が判るほど長い年月を要することもある。だから,人の育成は計画性が必要である。その上,個人差もあって,計画以上に成長する者もおれば,期待に沿わない者も出てくる。もちろん,置かれた環境によっても大きく違ってくる。
大企業のように大きな組織では,育成のプログラムなど専門家が研究し,企業の将来を託す人を育て,輩出してきている。大きな組織なので,多くの人が対象で,成長と共にふるいに掛けられて,次第に絞られて残っていくシステムになっている。日本ではまだまだ,内部から育てることが前提となっているケースが多いが,欧米のように経営学を学び,企業のトップになるような人物を専門的に育て,企業を渡りあるく方法もある。
企業存続に当たっては,人の育成は不可欠で,いろいろな方法が試され,且つ,それを補う研究もされている。とにかく,今日でも,企業の存亡の実例は手に取るように多く,実例から学ぶことも多い。特に,失敗から学ぶことが多い。
広島カープの選手育成
実際の企業のことを検討する前に,身近なプロ野球の例から見て行こう。今年のプロ野球のセリーグは,広島カープがダントツで,後半戦が始まったばかりだが,優勝は確実な予想がされている。とにかく,強い。連敗をせず,確実に2勝1敗ペースを保っている。鯉は5月までは元気が良いが,その後が落ちて行く,と云われた時代はとっくに過ぎ去った様子である。
広島カープは他球団と違って,生え抜きの若い選手が育っていくことに長けている。高校や社会人で優秀な選手を集めた訳でもない。無名に近い選手を若いときから鍛え,一流の選手に育って行っている。その秘訣に学ぶべきものがあるのではないだろうか?
今年で云えば,一番の田中遊撃手,二番の菊池二塁手,三番の丸外野手(センター)とこの三人が不動で活躍している。攻撃面では,三人とも3割近い打率で,全くスキが無く,且つ誰もがホームランをも打てる強打者であり,この三人が塁に出ることで,四番以下の選手が打点を上げるチームプレイに徹している。鈴木誠也選手のように若い長距離バッターが育ってきており,他にも若手の台頭が著しく,他球団を圧倒している。
また,一番からの三人は,二遊間からセンターのラインをきっちり守り,守備面でも群を抜いている。好調な打撃陣のお陰か,若い投手陣も勝ち星を拾い,10勝以上を上げるようなタイプが育ってきている。とにかく,打撃,守備共に,若くて元気溌剌とした姿がグランドを賑わしている。また,他球団の有力選手を引き抜くようなことが少なく,若い選手が出場機会に恵まれ,その中で育ってきている。
私が説明するまでも無いが,こうした選手が育ってくる背景には,しっかりとしたスカウト陣が居て,全国的に有名な有力選手をドラフトで指名するよりも,補強すべき位置(守備)を明確に定め,その位置に必要な選手を全国から探し出しているようで,しかも伸びる性格を持った選手を選び出しているとのことである。要するに,チーム内で大きく育つことを前提とした補強と云われている。従って,補強する費用も少額で済んでいるようである。
選手起用も若い人にチャレンジさせ,気長く育てられているようで,一軍で経験を積ませながら,育てていく方針のようである。こうしたことが,直ぐには効果が出なくとも,やがて成果が実り,今日のような生え抜きの選手がチームを引っぱって強力な集団を作り上げている。監督は,成果が問われるので,2,3年後を見てくれと云うような余裕は無く,若手で結果が付いて来ないと,二軍に落とし,力のある選手を起用するのは当然だが,なかなか難しい仕事である。広島カープでは,上手く育つ環境もできているように見える。
阪神の金本監督も,広島カープ出身なので,広島の育成方法を十分知り得ている。そのためか,若手起用に積極的で,力のある選手をチャレンジさせて,2年目になるが,まだまだ成果を十分ではない。私が見る限り,金本監督が自分でやってきたように,若手には力を付け実力ではい上がるような指導をされているように映り,選手をいろいろ試されている。もう少し,気長に選手を見て,我慢して使い続けることも必要ではないか,と感じることも多い。チャレンジはできても,数回のチャンスではなかなか成果を出し切れない選手も居る。こうした選手を強打者に仕上げるには,使い続けて成果を待つことも必要なことで,もちろん見極めが重要であるが。
広島カープの若手育成には見習うべきことも多い
[Reported by H.Nishimura 2017.07.24]
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