■科学技術の発達について 2 (No.515)
2/8付けの毎日新聞に,日本の研究者に米軍資金が渡っていることが報じられていた。
米軍からの研究開発費
前々回,科学技術の発達について,開発したものがどのような影響を及ぼすか,全般に亘って見通している人が居ないことについて触れたが,今回の話は,大学の研究者へ米軍から研究開発費として渡っている例があるとのことであり,これは明らかに軍事目的の開発が行われていることを示している。
そもそも米国の国防省が予算を付けているのだから,研究者が軍事目的だけの開発では無いと言い張っても,依頼する側が如何に軍事目的に利用できるかを想定して,開発委託をしていることには違いない。もちろん,開発そのものが広範囲に亘って,軍事目的とは言えない開発であったとしても,その技術を使えるのは委託側であり,委託側の狙いが反映される可能性が高いはずである。
今回の報道があるまで,日本の大学の研究機関がこのような軍事的な開発資金を使っていること自体非常に驚きである。研究に熱心で開発を極めようとする姿勢は重要だが,その技術が使われる目的を良く理解すべきではなかろうか?
研究者の姿勢
どうも開発費を貰っている研究者の発言からは,開発予算が少なく,開発が思い通りにならないので,軍事目的で無い開発を米軍資金を利用しているような意味合いである。よく判らなかったが日本の防衛庁からの開発委託の方が,明らかに軍事目的であり,悪質であると述べている教授も居るようだが,居直りに過ぎない発言である。軍事目的では無い研究開発を米軍から委託されること自体,どうして軍事目的では無いと言い張れるのだろうか?研究者の良心に問いたい。
いろいろ学術会議でも議論されているようだが,姿勢は定まっていないと云う。受託する大学側も教授一人の判断ではなく,学内で十分吟味された上で受託されているようではあるが,資金に目が眩んでしまっているとは言い過ぎかも知れないが,資金不足を補う手段として利用されているようである。いくら開発費用が足りないと云っても,米軍支援金に手を出すこと自体,軍事目的の研究開発に手を貸していると言わざるを得ない。無知ではなく,抜け道を知った上での行為と見なして良いのではないか。
ただ,開発内容そのものは,直接軍事的目的が明らかであるようなものは拒否されているようで,民間での利用が想定される開発に限られているようだが,民間での利用目的と謳うのであれば,敢えて米軍からの支援を受けることは無いはずである。もちろん,開発内容が民間レベルのものであっても,精度が優れているとか,特殊技術が活かせるなどとして軍事目的に転用されることはあり得る。しかし,その場合は,あくまでも民生用での開発であり,資金委託などは受けておらず,開発された技術が軍事用への転用しようとされるのは,開発者の範疇を超えた領域である。今回の,米軍資金の投入とは一線を画している。
輸出品規制
上記のような議論を通して,部品開発をしていた中で,輸出規制に関することを思い出した。汎用電子部品でも超小型化や高精度化された部品は,製造側の思いとは別に軍事目的で利用される危険性を含んでいる。したがって,何でもどの国へでも輸出できるかと云えば,必ずしもそうではない。
元々,安全保障貿易管理でリスト規制品があって,武器や大量破壊兵器に利用されるものは輸出が禁止されており,通常兵器に利用される可能性のある高度な汎用品も,規制品目になっている。すべての製品には,輸出統計品目番号(HSコード)が付与されており,それによってどのような輸出規制が掛かっているかも判る。
また,輸出に関する詳細になるが,キャッチオール規制と云って,国によって規制が掛かっている国(ホワイト国以外)もあり,そうした国へ輸出する場合,輸出者が大量破壊兵器,もしくは通常兵器に使用される可能性を知った場合,申請しなければならない制度がある。特に,高精度なものは十分注意が必要である。
このように,完全な民生用の汎用品でも,輸出に関しては,かなり厳しい規則がある。それと今回の件は,直接は無関係だが,軍事的な利用目的と云う点では共通点があり,単なる商売とは云えいろいろな規制が掛かっていることから考えれば,今回の軍事目的と想定される開発委託には,大いに異論があると言わざるを得ない。
重要な研究開発を進化させる気持は十分計り知れるが,一度冷静になって世の中全体の中での立場を振り返ってみては如何かと思う次第である。
軍事目的の開発に技術者が加担するとは,如何なものか!!
[Reported by H.Nishimura 2017.02.13]
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