■トランプ大統領就任と今後の日本の行方  (No.511)

後数日(1月20日)で,トランプ次期米国大統領が就任する。就任前から世間を騒がせているが,我々に直接影響は少ないとはいえ,日本の政治・経済には大きな影響を及ぼすことが,いろいろなメディアで報道されている。実態を具に知ることはできないが,マスコミの報道などを伝わってくる内容から,その影響を想定してみる。

  米国第一主義を標榜

トランプ次期大統領の発言として一番目立つのが,強い米国の復活,国内の雇用第一と,保護貿易政策とも云える対米輸出の大きな国に向けての挑戦的な態度である。その典型的な例として,自動車企業のメキシコでの生産増強を名指しで止めさせ,止めた企業を褒め,態度保留の企業を徹底的に虐める態度が続いている。

その背景は,オバマ大統領時代の不満が募っている中間白人層の働き口を確保しようとするものであり,トランプ大統領の支持層に配慮した振る舞いである。米国の労働者の雇用が,NAFTA(北米自由貿易協定)などにより,安い品物が流れ込むことによって,米国の企業が被害を被っているとの主張である。だから,同じことが起こるであろうTTP(環太平洋戦略的経済連携協定)にも反対する表明をしている。

中国に対しても,安い品物が輸出されてくることに反応して,中国が国として為替操作をしていると,「為替操作国」に指定しようとしていたが,取りあえずは見送ったようである。いろいろな見方があって,中国は対ドルで下落の圧力に曝されており,元買い・ドル売りの為替介入で下落を緩和している状況にあり,トランプ次期大統領の主張のように,為替介入を止めれば,一段と元安・ドル高を招き,反って中国からの輸入を促して米国の貿易赤字を拡大させるとの見解もある。

とにかく,今までの大統領にはなかった,強いアメリカを復活させるとの勢いは当分続くだろうと想定される。

  政治家らしくない振る舞い

この前のマスメディアを前にしたインタビューでも,CNNを名指しで,悪いメディアとして,質問もさせなかった映像が流されていたが,とても大統領になる人とは思えない振る舞いである。

あれだけを見せられると誰しもがそう感じるが,よくよく解説などを聞いてみると,日本のマスメディアと米国のそれとは随分違い,大統領選挙において,どちら側の味方をするかを鮮明に出して報道するようである。日本のマスメディアは中立で一方へ加担することは無いが,米国ではそうでは無いようである。したがって,トランプ大統領がロシアと密約したような報道がなされ,それをデマニュースだと怒るトランプ次期大統領の態度も頷けなくは無い。

個人的に怒り,名誉毀損で訴えるなどの方法はあっただろうが,インタビューに際し,露骨に態度を表し,大人げないとも思える態度は,政治家として如何なものかと考えざるを得ない。元々起業家として財をなした名士であり,その手腕は見習うべきところも多く,人を惹きつける話術は素晴らしいものである。ただ,多くの米国民が,従来型の政治家に飽き飽きし,鮮烈なトランプ次期大統領に共感したのは事実であり,イギリスがEU離脱を決めた衝撃のように,これまでの想定では予測できなかったことが起こってきているのが現代である。

トランプ次期大統領が何をしでかすか判らない,予測がつかないのが今日である。

  日本への影響

それでは,我々に直接ではなくとも,日本にどんな影響がでるのか?

ソニーの元社長だった出井氏が面白い話をされていた。それによると,トランプ政権になると,昔,日本バッシングされていたときの再来を心配する声もあるが,とんでもない間違いであると。インターネットが普及する前の物づくり中心の時代は,日本の安い品物が米国を席捲する心配をさせ怒らせたが,今はそんなバッシングが起こる筈はない。バッシングが起こるように感じること自体,時代錯覚である。

要は,現在の米国は日本企業を脅威に感じていることは殆ど無い。インターネット以前の社会では,確かに日本の物づくりが優れていて,ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われており,1ドル=360円だった時代から,250円,150円,そして1ドル=75円まで円高になった時代であり,日本製品が言わずもがな強くなった時代だった。しかし,インターネットが普及し,情報社会になって一気に米国企業が元気になってきている。現に,アマゾン,グーグル,フェイスブックなど最近注目されている企業は米国企業であり,ここ20年ほど日本で新しい企業ができてきていない。

トランプ次期大統領になって,日本が憂うことは一つもなく,大きなチャンスが到来したと考えた方がよい。情報社会に入って日本は完全に取り残されてしまっている。あの高度成長時代に見せた日本の勇姿を見せるチャンスを与えられたと考えるべきである。新しい企業がどしどし育って行って欲しいものである,との発言だった。確かに,円高・円安の振れによって企業の業績が揺さぶられる現象は起きているが,これまでの企業に於ける現象であって,新たな産業には,その影響は殆どないはずである。

技術革新も起こっていない。もちろん,半導体技術など,微細な集積度はどんどん上がってきているが,それ以上のものではない。インターネットのような革新的なものは日本では起こっていない。否,もう革新的などと云う技術革新は起こりえないのかもしれない。しかし,そう諦めるものではない。むしろ,出井氏が言われるように,この機会をチャンスと捉え,弛まぬ努力した者が報われる時代なのかも知れない。

若い技術者たちは大いにチャレンジして欲しいものであり,アベノミクスも声ばかりで何もしないのではなく,若者のチャレンジを大いに歓迎し,奨励して欲しいものである。そこに成長産業の芽が暖められているのではなかろうか?

トランプ次期政権は日本のチャンス到来でもある

 

[Reported by H.Nishimura 2017.01.16]


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