■職場の問題点とその解決策 22 リーダが育たない 5  (No.502)

リーダについていろいろ述べてきたが,リーダは一朝一夕には育たない。優秀なリーダとなるには,やはり経験知が必要である。このことについて述べてみよう。リーダが直面する問題は様々であり,これらから考えてみる。

  技術的な課題

技術者のリーダが直面する問題の一つは技術的な問題点や課題である。部下の抱える様々なものを,上司として見つめ,これまでの経験から指導・判断することが起こってくる。これらについては,これまで技術者として経験してきた延長線上の事柄であり,比較的対応は容易であると云える。

ただ,総てが経験したものではなく,且つ範囲も広範囲に及ぶため,担当者として行動してきたものとは違ってくる。これまでは自分が解決を図っていたが,リーダの立場では自分が直接解決に当たるのではなく,部下を上手く誘導しながら解決を図って行くことになるので,少しもどかしさを伴うこともある。指導・助言は重要だが,部下に解決させ,自信を付けさせるような方法を採らなければならない。

いずれにせよ,物理現象との葛藤であり,感情など余分なものに影響されることは無く,粛々とやることである。後述するような複雑な人間関係などが入る余地は無く,比較的取り組みやすいものである。

  マネジメントの問題

リーダとして,最も変わるのは,マネジメントが必要となってくることである。これは言葉では簡単そうに見えても,なかなか幅が広く,且つ奥が深く,十分なマネジメントができるようになるには時間が掛かる。

特に必要なことは,大局的に物事を見ることである。これまでは,どちらかと云えば,当該事象に集中するだけで十分だったが,リーダとなると,周囲の環境や,時代の流れに沿った先見的な洞察力を必要とし,そうした能力を付けてマネジメントすることが求められてくる。技術屋のリーダは,専門的なことには自信を持って当たっても,所謂,ゼネラリストとしての経験は少ない人が多い。こうしたことから,経験を積む時間が掛かる人も多い。

  経営課題

これまでも自分の担当している製品の収支など,経営的見地からの見方も少しは学んできているが,リーダとしては限られた範囲とはいえ,経営者的感覚が必要とされる場面に遭遇するようになる。如何にすれば利益に結びつくか,答えは簡単なようで,結構複雑なのである。

利益が出る構造も,簡単なようであるが,これまであまり気に留めなかった固定費や管理費など,技術者の能力ではカバーできない部分の費用が重くのしかかっていることなどを知り出すようになってくる。P/L(損益計算書)も勉強しなければならないようになってくる。P/Lの分析書を読み解く力も必要となってくる。

固定費や管理費と云われるものが,自分たちの働きにどのように関わっているのかも学ぶようになり,利益を上げるために,固定費の削減など,管理可能な費用のコントロールも問われるようになってくる。結果分析だけでなく,予測や改善計画などを立てることも求められてくる。つまり,行動そのものが経営に直結してくるようになってくる。

また,リーダになると,P/Lなど短期的な収支はもちろん,長期的な経営課題も注視しなければならない。つまり,技術者のリーダは経営の将来的な展望を担っている部分も多く,企業としての生成発展に如何に寄与していくかを考える機会も増えてくるのである。

  人事上の問題

どちらかと云えば,技術者のリーダは苦手な部類になる,人事上の問題も遭遇するようになってくる。身近な部下の悩み解決や将来への希望に繋がる育成など,幅広い人格が必要となってくる。これらは,物理的な事象を中心に扱ってきた技術者には,人間の感情という複雑怪奇なものが入ってくる。

論理的には割り切れ無いものが入ってきて,上手く対処できないリーダも出てくる。人事上の問題を上手く解決できないと,部下の将来性にも影響を及ぼし,いい加減にできないものがある。

派閥,系列など少なくなったとは云え,まだまだ残っている企業もあり,そこまで明らかでなくとも,似たようなことがあるケースがある。

  現場での判断

これまでも現場での判断は担当者としてやってきたことなので,それほど大きな変化では無いが,部下の抱える重要な判断を部下から相談されることが出てくる。今までは,担当者として抱えきれない大きな問題点は上司に上げれば済んだが,リーダとなると,適宜素早く判断をすることが求められる機会が増えてくる。

重要な案件とさらに上の上司に相談することも必要なケースはあるが,技術的な課題など,最も専門的な知識があり,判断力が優れているのが技術リーダであり,判断の狂いが大きく経営を左右するケースもなきにしもあらずである。つまり,重要な現場での判断が求められることに遭遇する場面が出てくるのである。

部下の進言に同意しているだけでなく,上司として広い見地から素早く判断する能力が求められるのである。もちろん,成り立てのリーダの多くが悩むことであり,直ぐに手腕を発揮することは難しく,いろいろな場面の経験を通して培われて行くものであるが,リーダとして最も重要な現場での決断力であると云える。

 

リーダとしての経験知が重要 

 

[Reported by H.Nishimura 2016.11.07]


Copyright (C)2016  Hitoshi Nishimura