■職場の問題点とその解決策 18 リーダが育たない 1  (No.497)

企業にとって,各組織のリーダの役割は重要である。組織があればリーダが居るので,一見何の問題も無いように見えるが,優秀なリーダが居るか居ないかで成果が大きく違ってくる。だから,企業としては優秀な人材を集め,その中から優秀なリーダが育って欲しいと願っている。だが,現実は思い通りにはなっていないのである。

  優秀な技術者は優秀なリーダになれるか?

上司の立場からみると,優秀な部下が育っていると,ついそのままリーダへ育てたいと思う。一般的には,このケースでリーダに育っていくケースが多い。仕事ができることはリーダになる条件の一つではあるが,必ずしも必要十分な条件ではない。頭の切れる優秀な技術者は,こと技術的な面では他より秀でていて,創造力も豊かな一面を持っている。だから,仕事を任せれば,十分な成果を上げてくれることが多い。

これは上司(リーダ)と一技術者の関係で,技術者として素晴らしい力を発揮している状態である。仕事を如何に効率よくやり,優秀な創造力を発揮する面では非常に優れているが,その技術者がリーダの立場となったときには,技術的なことはもちろん,それ以上の違った能力も必要とされる。例えば,方向性を決めたり,素早い判断力を求められる場面が出てくる。よく言われることだが,プロ野球で一流の選手が必ずしも優秀な監督になるとは限らない。つまり,プレイヤーと監督では,そこで発揮すべき能力に違いがあるからである。これはプロ野球の世界に限ったことではなく,企業の中でも同様である。

優秀な技術者は,どちらかと云えば他人に頼ることなく,一人で何でも上手く処理していく。優秀なスキルを以てして,積極的に前向きに進んでいく。これは素晴らしいことである。こんな部下がいれば上司は頼もしく感じて,ついその技術者に任せてしまうようになる。ここまでは良き上司と部下の関係である。ところが,その優秀な技術者をリーダにしようとすると,一人で優秀な能力を発揮していたほど上手く行かないことが起こってくるケースがある。

つまり,自分独りで何でも解決してきたので,ついそれが前面に出て,リーダとなっても自分独りでやってしまおうとすることが出てくるのだ。リーダとしては組織として上手く運営することが最優先なのに,自分の技術的なスキルのみで解決しようとしてしまうことがある。これでは組織としての力ではなく,リーダ個人の技術力に頼って,組織力としての力が発揮されていないことになる。意外にも優秀な技術者はこうしたことに気づかないことがある。ここまで極端でなくとも,優れた技術力を持ち合わせていることが,つい部下の能力を信じず,なかなか任せて仕事をすることが困難にさせてしまっていることがある。

  後継者を育てているか?

企業が永続的に発展していくためには,優秀なリーダを輩出し,これまでの大きな財産をさらに大きくさせることだったり,ときには将来を見据えて大きな転換を図る決断力を発揮することだったり,リーダとしての役割は,そのときの状況で大きく変わる。そうした,状況判断を的確に判断できるような後継者を育てようと思っている人は多い。しかし,思いと行動は必ずしも一致せず,目先の利益に目が眩んでしまうことも多く,なかなか後継者が上手く育っていない部署も多いことが現実である。

優秀な技術者は自分で何事もでき,堅実に仕事をこなすことができているから,つい部下に対しても自分の範疇で指揮命令することが多く,殆どの部下はそれで過不足は無く,仕事も順調に進むが,自分を超えるようなリーダを育てようとするとそれでは不十分なことがある。つまり,自由放任とまでは行かなくとも,リーダ自身ではコントロールが十分利かないようなものにもチャレンジさせてみる位の勇気が要る。これは優秀な技術者だった人ほど難しい。

一方,優秀なリーダは先見性を備え,決断力がある。そうした人は,上手く部下の能力を捉え,チャレンジさせる機会を与えていることが多い。一気にチャレンジを上手く活かす部下は少なく,何度か失敗を繰り返し,次第に自信を付けリーダとしての能力を身に付けて行くようになる。ここでの我慢も必要で,ダメなら次と目先をころころ変えるようなことをしていてはいけない。人を育てようとするには,少なくとも忍耐が必要である。

部下を育てることが大切だが,それ以上に組織を背負っているので組織力を発揮しなければリーダの役割は務まらない。つまり,組織の力は,部下の力を最大限に引き出して仕事をすることであり,リーダ自身の優れた技術力は,その部下の足りない部分を下支えするくらいの気持が必要なのである。部下の多少の失敗には目をつぶり,失敗を糧に大きく飛躍する機会を与えるくらいの度量も必要なのである。

リーダ育成は頭で考えているほど易しくない

リーダを育てることは,後継者を育てることである

 

[Reported by H.Nishimura 2016.10.03]


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