■職場の問題点とその解決策 17 コストダウン 4  (No.496)

コストダウンとアウトソーシングについて考える

  費用削減としてのアウトソーシング

アウトソーシングを利用する方法は企業ではよく用いられることである。自前の技術を育成するよりも,専門企業の技術力を上手く活用しようとするものである。自前の強いコア技術を活かしながら,その周辺技術を委託したり,或いはコア技術と専門企業の技術をミックスさせることでより優れた商品開発に結びつけるなど,方法は様々である。アウトソーシングは自前の技術を育成するよりも,専門企業の技術力を利用することで,開発費用としても抑えることができ,お互いがWin-Winの関係ができればメリットも大きい。

ところが,開発費用を抑えることを主眼で,アウトソーシングに走ると必ずしも企業の生成発展と云う点では,マイナス面も出てくるので注意が必要である。つまり,コストダウンの行き着くところが,外注依存などと安易に走ると後で大きなしっぺ返しが待っていることがある。

  アウトソーシングの失敗例

  @外注依存で品質低下し,やり直しに陥った例

オフショア開発のところでも述べたことがあるが,ソフトウェア開発を海外のメーカに依存することはしばしば行われることである。確かにソフトウェア開発は人件費が開発コストの殆どを占め,人件費の安い海外メーカを利用することは常套手段として行われている。見積段階では,コストダウン計画を十分満足できる開発費で済み,プロジェクトリーダにとっては,非常にありがたい存在である。

もちろん,言葉の問題や,海外メーカの技術力を十分調査した上での契約であり,その間を受け持つブリッジエンジニアなるものが居て,日本での開発と寸分違わない開発環境ができあがると,上手く進んでいくような錯覚に襲われる。初期の段階は,日本側も十分な注意を払いながら進めるので,大きなトラブルになることはない。(その段階で,上手く行かないレベルは論外である)

ところが,プロジェクトがどんどん進み出すと,開発委託するボリュームにもよるが,日本側から目の行き届くところが限定され,海外での開発状況が手に取るようには判らなく,出来上がってきた内容で判断せざるを得ないようになってくる。開発案件なので,必然と遅延状態も生じてくる。詳細な内容が十分把握できておれば,遅延状態の原因も対策も直ぐに講じられるが,往々にして日本のリーダたちは海外の実情に疎く,自分たちと同じ感覚で作業がなされていると錯覚してしまう。ここが大きな誤りである。

結果的には,遅延は回復するどころか,どんどん悪化,出来上がってきた品質も少しの手直しで済む程度ならまだしも,再度日本側でやり直しをしなければ使い物にならない事態に陥った例は数えきれない。このことは,開発コストを削減する予定だったものが,逆に海外委託分を丸々ロスしてしまった例である。

  A蓄積された技術が手元に残らず外部に蓄積された例

社員同様,社内に外部委託の技術者が入り込んで開発を進めることは,派遣ではなく請負の形で行われていることをしばしば見掛ける。特にソフトウェア開発など多くの技術者を必要とするケースでは,人件費削減策として一般的に行われている。請負のため,リーダや社員が直接外部技術者に指示はできないが,請負側のリーダを通じて,開発委託内容を指示する形で運用されている。

通常一般的には,ユーザ要求の内容に対して,要件定義などからシステム仕様書に落とし込む段階までは,社員である技術者が分担し,出来上がったシステム仕様書に基づき,ソフトウェア機能仕様や制御仕様を作成し,具体的なコンポーネント設計や詳細設計へと進んで行く。このとき,どこまで社員である技術者が関わるかであるが,いつまでも社員の手にあれば,それだけ社員の負担が増加するので,できるだけ早い段階で,外部委託へ任そうとすることが多い。

つまり,早ければ早いほど,開発技術的な創造力を活かさなければならない部分を外部依存する形になる。そうなると,社員である技術者は技術的な仕事と云うより,手配師的な役割を担ってしまうことになり,一番必要な創造力を殺して仕事に従事する形になる。いわば,一番重要な開発技術力を身に付けなければならないときに,技術力を磨く機会を失うことになってしまう。それはそっくり外部委託の技術者の力を付けることに置き換わってしまう。

こうしたことを避けるために,若い技術者には,外部委託の技術者同様,基礎的な設計部分も訓練させようとする動きもある。技術者としては,やはり基礎的な設計部分から慣れ親しみ,それをマスターした段階で次のステップへ歩むことが必要である。しかし,現実には人件費負担の軽減策から,少ない社員でプロジェクトを進めることが多く,社員である技術者の創造的な技術力が付かないことをしているところが多い。

もっと極端な例は,ハードウェアも絡む技術で,これも外部の技術者が社員同様に開発の仕事に従事し,すっぽり外部依存に頼ってしまうこともしばしば見受ける。このようなケースでは,要素技術的な部分も社内の技術者の手に残らず,外部委託の技術者の手に要素技術も含めて落ちてしまうことになる。人件費削減の目的は達成するかも知れないが,それ以上に大切な要素技術の蓄積など,技術力を高めることが疎かにされてしまうリスクがある。後から気がついても遅いのである。コア技術となる部分の外部委託はしてはならないのである。頭で判っていても,つい目先の目標に誘惑されるのが人間の性なので,特にリーダは注意が必要である。

コストダウンを意識するあまり,技術力を高めることを忘れるな!!

 

[Reported by H.Nishimura 2016.09.26]


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