■職場の問題点とその解決策 11 生産性の向上策 3 (No.483)

生産性向上は結構難しい問題を抱えている。リーダ任せや現場任せで改善を図ろうとしてもなかなか一筋縄ではできないことが多い。つまり,経営的観点を十分理解していないと,自分の首を絞めるようなことは誰もやりたくないのである。目標必達が責務であるリーダにとって,敢えて過酷な目標を設定しようとはしないのは当然なことである。

  レビューに多くの人員と作業

実際に直面した話から始めることにする。ソフトウェア開発では,単に設計して次へ進むのではなく,レビューと称して設計した内容に,漏れやミスが無いかを数人で検証することが通常行われている。要は,設計した本人は間違いないと信じているが,他人が見ると多角度から見られるため,意外とミスしている点が発見されやすい。バグはできるだけ早い段階で取り除いておくことが鉄則であることから,このレビューを結構重視されていることが多い。

品質確保や後戻りを避ける方法としては,適切な方法であるが,工数的に見ると,レビューに結構時間が掛かっているケースがある。かといってレビューを省略すると,後からバグが発覚するリスクが高まり,結局その修正に時間が掛かってしまうこととなり,レビューをやって於いた方が良い結果となることが多いのである。ただ,よくよく考えると,独りでレビューするのではなく,数人で行うことから,その積算で結構な工数を要してしまっていることが殆どである。

もちろん,多くの仲間で行うので,新人などの教育に役立つなど,他のメリットが無いわけではない。ただ,レビューとしての時間を如何に効率よく行うかについては,見直してみることが必要な場合が多い。つまり,それだけの工数を掛けて,バグがどれだけ発見されたのかなど,効果についても検証しておくことが大切なのである。意外とレビューは必要だからやっているとの認識で,その効果を把握して適切かどうかを見極めていることまでやっているケースは少ないことが多い。

必要な作業の手抜きはしないことは大切なことであるが,それがどれほどの効果になっているかを把握せずに放置しておくようなことでは,生産性を向上させようとすることはそれ以上進まず,ルールなどきまりが優先され改革的なことはできずに終わってしまうことが多い。つまり,生産性を極限まで追求しようとすれば,先ず多く掛かっている工数に目を付けて改善を図ることが必要であり,その点でレビューは検討できるものなのである。

  計画段階の甘さ

生産性向上は計画段階の目標値より改善されることはめったにない。言い換えれば,設定した目標工数で人員計画をすれば,それより少ない工数になることは無く,それだけの工数が掛かってしまうか,むしろオーバーしてしまうことが殆どである。

経験上,工数オーバーで作業が遅延,或いは途中から止む得ず増員して対処したことのあるリーダが殆どである。つまり,最初の目標段階で総てが確実に予測できるケースは少なく,リスク対策としてある程度のバッファーをもって工数設定されることがある。不確定要素が多ければそれだけリスクも高まり,必要なバッファーも多くなるのは当然である。バッファーも初期段階では十分に見えても,進むにつれどんどん無くなってしまうものである。

こうしたことから,通常計画段階で,見積工数の1.2〜1.3倍程度の予測工数をとり,即ち,全体の工数の20〜30%をバッファーとして持つことが行われている。この数値は,もちろん企業によって差があり,見積工数の算出方法にも依るので,どの位の数値が良いとは一概には言えない。これまでの経験上での数値が用いられているのである。

こうした実態を踏まえて,生産性向上を図ろうとするとき,どんなことが行われるか。私が実際に経験した中では,トップから生産性を30%改善せよ,と云う指示がでたとき,現場のリーダは先ず全体の見積工数をできるだけ正確にはじき出そうとする。もちろん,設計の初期段階なので,総てが読み切れている訳ではなく,不確定要素も伴っているが経験上から見積工数を算出する。そこから,生産性を向上させる分,30%改善であれば算出した工数の70%の値が目標工数となる。しかし,そのまま鵜呑みにすることはリスクが大きく,生産性向上分は,バッファーとして欲しい,即ち30%のバッファーを含んだものを目標工数とすると願い出たのである。

現場のリーダとしては,生産性を向上させる施策を頑張って入れて,何とか見積工数内で収めることを宣言したのである。もちろん,初期段階の見積工数の精度は上司が判っている訳ではなく,これまでの実績から想定して現場リーダを信用するしかないのである。しかし,生産性向上の観点からは,バッファーを認める分見積工数と同じで,生産性の改善分はバッファーとして採られてしまっているのである。こうしたケースは実際の現場ではよくある話である。結果的には,前述したごとく,バッファー分は食いつぶされ,生産性向上はできなかったと云う結果に終わることが多いのである。

  生産性向上はトップの責任者(部課長)が旗を振る

現場の責任者に総てを任せていると,実際には生産性向上はなかなか進まない。つまり,リスクに対するバッファーをどうみるかに掛かってくる。つまり,責任者として,どのように取り組ませるか,内容まで踏み込んで精査しないと容易には進まない問題を抱えているのである。

生産性向上は,エイヤーと云った気力でできるわけではない。具体的に,地道に検討を重ね,その小さな改善の積み重ねでようやく結果が出るものなのである。したがって,現場責任者から提出された生産性向上策の確度を見極めることが重要なのである。30%の改善とは目標として理想的な数値であり,よく打ち出される数値であるが,そんな簡単にできる数値では無い。日頃,よほど楽な日程で,十分な工数を採ってやっている場合は別だが,そんなケースは殆ど無く,一生懸命残業をしながらやっと為し得るものであり,余裕などは殆ど無いのが通常である。

したがって,改善計画にムリが生じるのを知った上で,チャレンジさせることが必要で,現場の改善策を総てバッファーとして与えるのは十分中身が判っていないか,或いは生産性改善は困難なことと責任者自らが認めてしまっているかで,中身を吟味して,改善計画の30%は厳しいだろうからバッファーとして与える,或いはその数値が50%に及ぶこともあろう。100%バッファーとして与えてしまっては,現場のチャレンジ精神を損なうことにもなりかねない。多少の失敗で,予測工数オーバーすることがあっても,高い目標工数を設定させてチャレンジさせることが,生産性改善への道である。

改善可能な高い目標値が,現場のリーダを成長させる起爆剤にもなり,チャレンジする意欲をかきたてるものでもあり,責任者は現場リーダの性格も把握した上で,チャレンジさせることが望ましい。

責任者が甘くては生産性改善は進まない

チャレンジさせる風土を作ろう!!

 

[Reported by H.Nishimura 2016.06.27]


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