■伊勢志摩サミット (No.479)
伊勢志摩サミットが先週,無事終了した。その後のオバマ大統領の広島訪問も無事終わり,被爆者との会話など予想以上の反響を呼んでいる。サミットの後味の悪さを醸し出したのが安倍首相の選挙対策まるだしのリーマンショック前の世界経済状況に似ているとの発言である。
安倍首相のとんでもない発言
サミットを利用して増税の先送りを理由付けにしようとした意図がみえみえである。流石の世界の首脳も,リーマンショック前の状況だとの発言にはあきれ顔で,そこまでの危機ではないと発言する程度に止めたようだが,笑い物であったように伺える。もちろん,サミットの議長国である安倍首相に恥をかかせてはいけないとの配慮があって,面と向かって否定する首脳は居なかったが,やんわりイギリスのキャメロン首相やドイツのメルケル首相は,世界経済はそこそこ成長している,とクギを刺したようである。
安倍首相は,2年前の増税延期で民意を問うた解散総選挙で,経済条項を勘案せず,必ず増税を実施すると国民に約束された。それは民衆に痛み伴う増税を回避し,デフレ脱却をすることを優先させ,アベノミクスで良き環境を創り出すとの宣言でもあった。ところが,原油価格の大幅下落,或いは新興国の伸びが鈍化してきているなど,世界経済に少なからず影響はあったものの,安倍首相の発言とは大きく違い,IMFの見通しでも2016年の世界経済全体ではは3.5%程度の伸びを示している。先進国でも2%台をキープしているのに対して,日本だけが0.5%と沈んでいる。
このことはアベノミクスが失敗している,否少なくとも効果的な手が打てていないことを物語っているのである。金利政策などで,株価や円安方向になりデフレからは脱却する方向ではあるが,実質賃金は抑えられており,一般消費はまだまだ伸びていないのが現状である。野党時代より,求人倍率など良化しているなど良い面を取り上げ,アベノミクスは道半ばであり失敗ではないと言い続けている。比較するのは野党時代ではなく,世界各国との現状での比較ではないか?
さらに輪を掛けたのが,リーマンショックのようなことが起こらないために,世界にアベノミクスを推進し,浸透させて行くような発言は,G7各国の首脳の失笑をかってしまっているのに,それさえ気づかない神経が裸の王様状態に見えてならない。また,こんなことをさせている首相のブレーン及び自民党もどうかしている,と言いたい。
世界からの寸評
マスコミの報道でしか窺い知ることができないのだが,安倍首相の認識に異論,として報じられているのが殆どである。増税延期の口実にG7を利用したとの報道もある。
米CNN:増税延期計画の一環。あまりに芝居がかっている
ファイナンシャル・タイムズ(英):世界経済が成長する中,安部氏が説得力のない2008年との比較を持ち出したのは,安部氏の増税延期計画を意味している。
BBC(英):安部氏はG7首脳を納得させられなかった。今度は(日本の)有権者が安部氏に賛同するか見守ろう。
ルモンド(仏):安部氏は「深刻なリスク」の存在を訴え,お騒がせな悲観主義でG7を仰天させた。
オバマ大統領の広島訪問
オバマ大統領の広島訪問が無事終わって,関係者は胸をなでおろしている。戦後71年も掛かったが,17分間の演説といい,被爆者と互いに言葉を交わし抱き合う表情に,日本中の人びとが感激を覚えたと報道されている。原子爆弾投下の過ちのお詫びの言葉は無くとも,戦争の過ち,未来に向けた教訓として,オバマ大統領の心に深く突き刺さったのではなかろうか?
許された制限された時間内では,十二分のパフォーマンスだったように感じる。原爆投下が戦争を終結させ,正しかったのだとする米国世論に賛同する訳には行かないが,戦争と云うものは国が変われば見方も変わる必然性からも致し方ないことである。ただ,米国大統領として,よくぞ広島まで足を伸ばすことができたものだと感じざるを得ない。
オバマ大統領が締め括った言葉,
「That is the future we can choose, a future in which Hiroshima and Nagasaki are known not as the dawn of atomic warfare, but as the start of our own moral awakening.」
「これこそが私たちが選択する未来で,広島と長崎は,核戦争の夜明けではなく,私たちの道義的な目覚めの始まりであるべきです。」
と,道義的責任とまでは言っていないが,道義的責任を感じて述べられた米国大統領としてのギリギリの言葉だったのではないか。
安倍首相の言葉にがっかりさせられた伊勢志摩サミットだった
[Reported by H.Nishimura 2016.05.30]
Copyright (C)2016 Hitoshi Nishimura