■職場の問題点とその解決策 7 デザインレビュー (No.475)

設計途上で開発の進め方に問題は無いかどうかをチェックする会議がある。企業によってその呼び名は様々であるが,一般的にはDR(デザイン・レビュー)と云われ,上司や仲間,経験者などが設計内容について議論する場である。通常,設計が始まって終了まで,このようなDRの場が何度か,その段階により吟味の内容は異なるが行われている。ルールが決められ,そのルールに従ったやり方で,改良が加えられ,必須の会議とされるが,問題点が無いわけでは無い。

  最初のDRでの課題

多くの企業で見られることであるが,最初のDRのときに長々と製品説明をする場面が見受けられる。要点を突いた簡単な製品説明は有効だが,審査員に対して製品を理解してもらうための製品説明が会議の半分以上を占めるケースも珍しくない。これは,本来,製品開発を始めるに当たってのキックオフのときにすべきものである。

なぜこのようなことが起こっているかと云うと,どこの企業でもよく見られる製品のキックオフがきちんとされていないことに依るものである。本来,製品開発は企画段階で,このような製品開発を進めると云う,企画会議など呼び名は違っても,開発をスタートする承認を得て始めるものであるが,これが曖昧なまま開発者の一存でいつの間にかキックオフしてしまっていることが多いのである。

このような実態から,最初のDRにキックオフ時にやるべき製品説明が必要になってしまっているのである。企画会議とDRが一度で済むから効率的だとの言い分も無い訳ではないが,開発のリソースを使うに当たっては,曖昧なことが許されるようでは,非効率なことが起こっていても誰も気づかないことが起こっているのである。経験上,確かに製品のキックオフをするタイミングは難しい。早ければ良いと云うものでもなく,遅すぎるとDRの時期になってしまうと云うのが実情である。

キックオフが遅れる一番大きな要因は,企画段階に必要な要件がなかなか揃わず,会議資料が整わないケースが多い。完璧な資料を求めるとなかなか実施できないのが実態で,多少不完全な資料であっても,関係者へのお披露目をしてスタートを切った方が,後々を考えると効率的なことが多い。だからこそ,そうしたルールや規定ができているのである。

うるさいルールや規定が幾つもあると思わず,先人達の苦労の賜物の知恵が凝縮されているものと見なすべきである。大きな過失を事前に防ぐために,ルールや規定が作られているのであって,開発者の負担を増すようなことにはなっていないことを十分理解しておくべきである。

最初のキックオフが曖昧なケースでは,開発全体の効率も良くないケースが多い。開発人員が居るにも拘わらず新製品開発が進んでいないことや,初期の段階で開発していた製品がうやむやの内に消えてしまったり,良いことはあまりない。

  本来のDRから外れたロス

本来DRは設計の決められた段階での進行具合とその内容の吟味であり,それらに関する議論がなされるべきである。ところが,前述したような場合,審議そのものが違う方向に進み,リーダそのものが墓穴を掘ってしまう状態に陥ることが起こり得る。つまり,製品説明などに時間を要すると,審議者の頭の中が,製品に関することに集中し,会議の進行役が上手く話題を本来のものに戻さないと,いつまでもズルズル続いてしまう。

後から考えると,何の会議だったのか?本来のDRは何処に行ってしまったのか?と思わせるような会議になってしまうことさえ起こり得るのである。多様な人が集まる会議だから,進行役の人は時間を上手く配分する必要がある。例えば,製品説明に時間を要する様が起こりそうであれば,この議題は本来の目的から外れるので,後で別途個別で説明するように申し付けたり,必要な書類で報告させるようにしたりする配慮が必要である。

会議の資料を事前に配布しておいて,議論する話題を事前に通達しておくなど,会議を本来の目的に照らし合わせ,効率的に行うことは非常に大切なことなのである。多くの会議が,不必要とまでは言わないまでも,ムダな,或いはロスになってしまうようなことで時間を浪費していることが多い。しかも,会議は多くの人が参加しているので,ムダな時間は一気に何倍にも膨らんでしまうことになる。

  再審査の実態

DRが再審査されることは,課題検討が十分なされておらずこのままの状態で先に進むと,後戻りすることになったりしてスムーズに進まないリスクを回避する目的で実施されることがある。これは,ルールに則って同じ過ちを繰り返さないようにする手段であり,それなりの意味を持っている。

ところが,再審査になる実態は,前述したようなキックオフがきっちりなされていない結果,肝心の審議が十分できなく,時間切れになってしまったり,キックオフ段階での問題の蒸し返しで経験不足のリーダが立ち止まってしまったりして実質審議ができなく,やむなく審査責任者がやり直しを命ずるなどの例が後を絶たない。

こんな実態を見ると,新製品開発の管理規程そのものの実施の定着化が疎かにされ,忙しいことを理由に先に進むことだけを考えてしまっている若いリーダに見られる兆候である。同じ会議を二度も時間を掛けてやることほどムダなことは無い。一度で済めば,二度にわたる準備作業など時間ロスも甚だしい。

条件付き合格と云うべき,残る課題を解決することを前提に,先に進むこともある。これは再審査ではなく,残る課題を期限までに報告することで済む。こうしたことは,リーダの視点とは全く異なった角度からの指摘であり,リーダにとってもありがたい指摘である。もちろん,DRを上手くすり抜けることが目的ではなく,あくまでも多くの視点,経験者の助言など,リーダの力不足を補う指摘が多くあった方がDRとしては意義があるのである。その上で,検討が不十分としての再審査なら意味がある。そうではなく,手抜きしてすり抜けることを考えているようなリーダが居たら,それは本来のDRの意義を理解できていない者である。そうしたリーダに限って,再審査を言い渡されることは情けないことである。

DR(デザイン・レビュー)を上手く活用することは有意義なことである

リーダは事前準備を疎かにしないこと

 

[Reported by H.Nishimura 2016.05.02]


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