■職場の問題点とその解決策 6 人材の空洞化 (No.474)

外部委託のところでも述べたように,正規従業員がやるべき仕事を外部委託として派遣社員が担当することでやりくりしている職場が増えてきている。本来なら,新入社員など若い人に基本的な仕事から始めて貰うことができなくなってきているのである。コストメリットなど人件費の抑制面では優れた部分もあるが,大きな問題点を抱えてしまっている。

  ピラミッド型の組織構成の崩壊

そもそも企業に於ける組織は,一番上に幹部が居て,各部の責任者,即ち部長,その下に課長,その下に係長と,呼び名の呼称はリーダなど横文字の場合もあるが,上から下にピラミッド型の三角形のように,下に厚い組織構造になっている。20世紀に於ける企業の組織構造は殆どがこのようなものであった。

ところが20世紀の終盤から,派遣社員など正規の従業員でない社員が増えだし,下の厚い層の正規の従業員が少なくなり,ピラミッドの最下層の社員が外部の派遣社員が占めるようになってきた。つまり,人員構成上はピラミッド型をしているものの,正規の従業員の構成では,逆ピラミッドまでは行かなくとも,上層部と同じ程度の人員に変わってきている。

確かに,細々とした仕事は正規の従業員であろうと,派遣社員が付こうが仕事そのものは大きく変わらない。むしろ若い内から正規従業員は外部派遣社員のリーダ格としての仕事を任されるようになってきている。人件費などコスト面からはメリットを享受できるが,組織力を強化するためには問題点も無くはない。

  技術の伝承の問題点

先ずは技術の伝承では,これまでの先人の築き上げたノウハウや知識が広く深く蓄積され組織力となって発揮されるのだが,伝承する相手が限られた人数では,これまでの築かれたものが伝承できたとしても,それをさらに広く深く高めて行くには,さらに多くの人の知恵が必要となるが,限られた人になってしまい,多くの正規従業員が居る場合とは違ったものになってしまう。

数少ないのに,その人が居なくなるケースも発生し,技術の伝承のリスクは高まることは間違いない。多くいれば優秀な人が伝承できるが,少なければその人の能力で,技術の伝承も左右されてしまう。組織力よりも,個人の力を優先する若い人も多い。そうなると,益々技術の伝承は困難になってしまう。

技術は単に伝承するだけでなく,それを活かしてさらに上を目指して技術に高めてこそ,組織力が発揮されるものであり,そこでは次世代の仲間での切磋琢磨があってこそ成り立つものである。昔のアナログ時代と違って,デジタル化が進み,ソフトウェア技術が中心となると技術の伝承と云うことも,以前ほど重要なことでは無くなってきている傾向も見られる。

昨今の日本の技術力に今一つ光ったものが少ないのは,従来強みとされた組織力が弱くなってきているからとも感じられる。デジタル化,ソフトウェア技術であっても,技術の伝承は大切な要素であり,そこに日本の技術力の真髄がある。その点を十分猛省した組織力の構築が急務となっている気がしてならない。

  人材の空洞化

外部の派遣社員の活用は,明らかに人材の空洞化を起こしてしまっている。日本の技術力は,ピラミッド型の強い組織構造に支えられたいた。つまり,多少の人材の移動があっても,それほど影響を及ぼさない組織構成になっていた。ところが,昨今は外部派遣社員が増えた上,リストラなどの敢行もあり,優秀な人材が欠落しているケースも目立つ。

特に,技術の組織力はしっかりしたピラミッド型の構成員で成り立っており,それが崩れるだけでなく,肝心なところに優秀な人材が居ない,或いは育っていないことが発生してしまっている。人材が不足していると云うことは,直ぐに穴埋めできるものではなく,ボディブローで組織力を弱らせている。将来を見据えた技術力が養われる環境が育って居ないと云うことは企業にとっては致命傷になりかねない。それほど人材の確保は重要な要素である。

昨今,これまでの優秀な企業が身売りすると云う悲しい出来事が起こってしまっている。経営陣の見通しの悪さや判断力の低下に依る原因も大きいが,経営陣を支える幹部の力量も低下している。画期的な新製品が生まれないことも,企業を弱める大きな要因だが,その根本に人材の不足が絡んでいるような気がしてならない。少し行き過ぎとは感じたが,日本企業がアメリカの企業買収を行った時期がある。その当時を振り返ると,企業に元気があり,豊かな人材に支えられた熱い思いが迸るような活気が漲っていた。単に時代の流れだけでは済まされない将来を見通す洞察力があった様な気がしてならない。それも偏に,人材の豊富さからくる企業力だったのではと思いを馳せる次第である。

どんな時代にあっても,人を大切に育てることを怠ってはならない。企業の源は人材である。それをしっかり見直し,嘗ての日本の企業の底力を見せることのできる経営者が出てきて欲しいものである。

人材の空洞化が起きて,日本企業は弱っている

人材の大切さを今一度見直して欲しい!!

 

[Reported by H.Nishimura 2016.04.25]


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