■職場の問題点と解決策(その2) 業務の外部委託 2 (No.468)
業務の外部委託については,コストメリットなどを主として展開されてきているが,いろいろな問題点を抱えている。ここでは,外部委託が最も多いと思われるソフトウェア開発の現場の問題点を取り上げてみる。これまでこのエッセイでも何度か外部委託に関することを述べてきているので,一部重複する部分はお許し頂きたい。
どの立場に立っての視点か
私の場合,直接ソフトウェア開発を進め,外部委託をしていたと云う経験はなく,ソフトウェア開発をしている若い人を数年間第三者的な立場から見ていて,いろいろな相談に乗ったりしてきた。開発規模も大きく,外部委託のウェートが高く,百人以上の外部技術者が構内に入り込んだ形態で行われているようなところで,経験上でいろいろ感じた問題点などについて述べることになる。ただ,第三者的な批判ではなく,自らが開発者の立場になって,どのようにすべきなのかを考えてみることにする。
外部委託先の現場責任者の能力で,QCDが左右される
外部委託が始まった頃はそうでもなかったと思われるが,何年も継続して外部委託でソフトウェア開発を進めるようになると,正規社員の指導の下に開発が進められるのは形式上で,実質は数人から数十人をコントロールする外部委託先の現場責任者(構内に常駐)が,正規社員との間に入って,QCD(品質・コスト・日程)を管理する形が採られる。
つまり,ソフトウェアプロジェクト全体のリーダは当然正規社員が務め,その進捗具合は組織責任者などのリーダに報告されるが,具体的な技術内容など詳細は,全体のリーダの下にいるサブリーダがコントロールしている。このサブリーダは若手の正規社員である場合もあるが,外部委託の現場責任者が任されることもある。サブリーダが若手の正規社員であっても,その下に必ず,外部委託のリーダが付いている。
そのような組織構造の下では,ソフトウェア技術に関するQCDは,外部委託先の現場監督者やリーダの手に握られることになる。そうではなく,正規社員がその上で管理していると見なす人も居るが,実態を見る限り正規社員に権限はあっても有効とは云えず,日常管理の細やかな点を含めて,外部依存になってしまっている。実際には,正規社員よりも経験が長く技術的にも上回っている責任者もおり,言いなりになってしまっていることも間々ある。
こうなると,プロジェクト全体を左右するQCDの肝心要の部分が外部依存となり,外部の現場責任者の能力が高い場合はプロジェクトがスムーズに運び,逆に能力が低いと問題点が山積すると云う事態が起こる。多かれ少なかれこの傾向は出てしまう。外部の現場責任者を指導・育成すれば改善されると思われがちだが,そう簡単なことではない。
外部委託先のリーダが十分な教育を受けられず,全体のレベルアップに繋がっていない
外部委託先のリーダを指導・教育することは,委託側企業の役割にはなっていない。やはり,現場リーダの指導・育成は受託側企業の責任であり,プロジェクトを進める上でのルールや管理方法は指導しても,リーダの育成にまで手を差し延べてはいない。受託企業側や本人の自覚に頼っているのが現状である。
だから,リーダとしてのセンスのある人は,プロジェクトを任される中で育てられ,経験を積むことでリーダとしての能力を遺憾なく発揮出来る人も中には居る。しかし,全てのリーダがそうなる保証はどこにもない。ソフトウェア開発の現場事態が,非常に追いまくられた環境で,ゆっくり時間を掛けて教育する雰囲気は到底無い。もちろん,受託側企業にも育成プログラムが無い訳ではないが,委託側の大企業とは雲泥の差で,育成面での格差は広がるばかりである。
私が見た限りに於いては,受託側の外部業者で,リーダ教育などをしっかりできているとは思えなかったし,その下の開発技術者においては,時間労働者的な扱いのように見受けられた。もちろん,そうした中でも,自覚して上を目指して勉強している人も中には居たが,極めて希な存在だった。
このような状態のままでは,開発技術力の全体のアップは見込めず,ただ低コストの開発労働力を利用しているに過ぎない。委託先と受託側の企業が,プロジェクト毎の単発依頼ならば別だが,継続して協力関係を続けるのであれば,少なくとも両者のメリットとなる教育指導システムを検討すべきであり,特にプロジェクトのQCDのカギを握る現場責任者の教育については,最低限の教育を時間を採って行うべきではないかと感じている。
急がば回れで,委託側に多少のコストが掛かっても,外部の委託先の現場責任者がその意義を十分理解すれば,プロジェクトの中で十分ご恩返しができる素地は十分にある。人の意欲や意識を軽んじてはならないものである。
内部正規社員の育成が難しい
もう一つ,重要な問題点がある。それは外部依存のウェートが大きくなるにつれ,内部の正規社員の育成が難しいと云う点である。つまり,正規社員が限られると若手の技術開発社員も,現場第一線のソフトウェア開発よりも,外部委託のプロジェクトのコントロールをする仕事がメインになってくる。即ち,ソフトウェア開発の具体的な経験を積むことを跳ばして,マネジメントの役割を負わされる。
もちろん,優秀な技術者なのでマネジメントも無難にこなすことはできるが,技術者としてはやはり最初は現場第一線の開発技術を経験すべきで,そうした経験を積むからこそ,現場のリーダとなったとき,技術者への配慮も行き届き,現場の細かな問題点にも目が行き届くようになるのである。それらをスキップしてしまっては,頭でっかちの理想を掲げるリーダに偏って育ってしまう恐れがある。
現場でよく見掛けたが,若手の技術者がまるで手配師のように外部業者を扱っている姿がある。果たして,これで技術のリーダとして上手く育っていくだろうかと疑問符が付くことがよくあった。中には,部課長などの責任者が指揮命令して,若い正規社員の技術者に外部業者の開発者と同じような作業を経験させていることもあった。同じような危機感を持った責任者だったのだろう。
やはり組織として仕事をする以上,組織体としての正しい姿が必要で,上ばかりが多い組織体は,どこか欠陥があり,長続きはしない。これまでのようなピラミッド形をした組織体を形成することは難しい時代だが,やはり組織力をアップするには,ピラミッド形に近い方が望ましい。プロジェクトの進捗同様,或いはそれ以上に人材育成の進捗についても気に留めたいものである。
外部委託は組織的な歪みが出てくる
外部委託は目先のメリットよりも,将来的な姿を考慮して
[Reported by H.Nishimura 2016.03.14]
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