■職場の問題点と解決策(その1) 業務の外部委託 (No.467)
現場での仕事は毎日のようにいろいろな問題が発生する。それらに対処しながら,与えられた仕事を遂行し,或いは大きな問題になる前に課題提起して善後策を練るなど解決を図ってきた。そうした事例を基に,問題点をどのように捉え,どのように解決してきたかについて述べてみたいと考えている。各々の事例は,職場が違うと必ずしも当てはまらないものかも知れないが,ものの考え方や課題の抽出などに参考になればよい,と考えている
業務の外部委託について
非正規社員がどんどん増え,今日では正規社員と非正規社員の区別が一見見ただけでは判らなくなってしまっている。同一労働同一賃金との原則はあっても確実に守られているとは思えない。また,「派遣」,「請負」,「業務委託」などと仕事を外部に任せる場合でも,指揮命令など微妙な違いがある。微妙と敢えて言ったのは,法律では基準が定められているが,仕事内容によっては,厳密な区分ができないようなケースもあるからである。
業務委託の始まり
業務を外部に依頼することが始まった頃を経験している者にとっては,正規社員として外部の人に仕事を依頼することは,必要不可欠なことでもあったのである。一番初めは,ソフトウェアの外部委託だった。当時,我々技術者はハードウェア技術中心に技術開発を進めてきていたが,マイクロコンピュータの出現と共に,ソフトウェアでプログラムを組み,機能の一部をマイクロコンピュータに組み込むことで,ハードウェアだけでは困難なことを実現させることができ,ソフトウェア技術が必要条件となってきた。
ところが,我々ハードウェア技術者にとって,ソフトウェア技術は初心者に近く,もちろん少しはできるように努力はしたものの,マイクロコンピュータのソフトに組み込むには,ソフトウェア専門の技術者に任せる方が効率的であり,且つ信頼性あるものに仕上がることから,自然とソフトウェアは外部委託と云う形態が始まって行った。当時では,正規,非正規社員と云った感覚は全く無く,完全な業務分担であった。
とは云え,当時でもソフトウェア技術を専門とする業者は小規模な業者であり,分業とは名ばかりで,かなり過酷な労働を強いている面もあったと記憶している。ソフトウェアの中身そのものは完全に任せていたが,全体のシステムは我々が握っており,開発スケジュールなどの管理はこちらが主体で,それに合致するようにソフトウェア開発を進めさせていたのである。非正規社員と云う言葉は無かったが,下請け業者の一つとしての扱いであった。
また,当時でも派遣社員と云った形態をした業者が居て,ある程度の技術を持った技術者を技術部門へ派遣する制度(?)があり,技術部門の一員と同様に机も作業服も与えられ,ときには職場のリクレーションにも参加すると云った技術者も居た。正規社員を雇うよりは効率的で,一定期間の契約なので,仕事内容で止めたいと思ったときに契約解除できるため有効利用できるものだった。派遣された技術者にとっても,現場での実践的な技術が修得でき,契約解除となっても,次の職場ではその技術を活かせることにもなり,技術者を育成するような場にもなっていた。そうした,専門職を活かした業務委託や派遣が企業の中にだんだん浸透して行った時代があった。
非正規労働者の出現
あるときから専門職ではない,作業者としての外部社員が入って来るようになってきた。それは,製造作業者と同等の時間作業者で,専門職とは明らかに違う労働者であった。技術部門では主に試作など,量産までの技術試作を支援する形の業務を委託していた。その当時は請負とか委託とかの区分もなく,我々正規社員が,派遣社員に直接指示命令する形で進められていた。
一方,それ以前からパート従業員制度があり,正規社員とは時間的にも短く,残業もなく,一定時間作業するパート従業員がおり,時間中は正規の製造社員と同じ作業をする人達で,多くは子育てを終えた女性たちだった。一年契約で,社員に近い福祉待遇もあり,若い作業員が少ない中で,現場の重要な戦力になっていた時代がある。非正規と云う言葉ではないが,会社として契約した契約社員で,もちろん会社行事にも積極的に参加する人達だった。呼び名もパート社員から,定時社員と云うようになっていった。
そうした中で社会的なニーズが強かったのか,派遣業務をする業者が雨後の筍のように現れだし,製造現場にも正規の社員に混じって,派遣社員がラインの一員を構成する姿も増えだして行ったのである。当時の制度をよく知らなかったが,人事にとっては,定時社員と違った形での作業員を,業務の多少の変動に対応するバッファーとしては最適のシステムだったのではなかったか。
当時の背景は,バブルの絶頂期で,若者にとって自由な時間だけ働くことができる,通称フリーターと呼ばれる人達が増えだし,現在との大きな違いは,正規社員になろうとすればいつでもできたが,自由気ままに活きることを謳歌できるような時代で,給料もまずますで,結構生活も豊かに暮らせる時代だったと記憶している。つまり,非正規社員しかなれない時代ではなく,自ら選択してフリーターとして活きていた時代だったのである。フリーター側も企業側もWin-Winに近い状態だったとも云える。
業務委託の制度設計の問題点
フリーターの豊かな時代もバブル崩壊と共に去り,冷遇されるような時代へと移り変わって行った。つまり,求人の需給バランスが逆転して,フリーターの給料が安くなって行ったのである。これまで自由を謳歌していたフリーター達は,正規社員との差別化がどんどん酷くなり,正規社員への転換もままならぬ状態に陥っていったのである。それに拍車を掛けたのが,グローバル化であり,外国の安い労働力との競争となり,益々厳しさを増していったのである。
労働形態の自由な選択でお互いがメリットを感じていたのも束の間,バブルの崩壊と共に,業務委託の制度の問題点が浮き彫りとなり,結果的にはこうした外部への業務委託の制度そのものが時代と共に制度疲労を起こしてしまったのである。良かれと思った制度も,時代の変遷に追随して変革されていれば,もう少し社会的にも認められた多くの働き手を産み出していた筈である。時代の先を見通すことはなかなか容易ではないが,社会問題になるまで放置してしまった日本の現状の責任はどこにあるのだろうか?
今日,正規労働者の増加よりも,非正規労働者の増加が目立ち,日本の労働力が非正規労働者を頼りにしなくてはならない事態になってしまっている。確かに,失業率は世界では低い日本だが,好んで非正規労働を求める人は極一部であり,実態は生活に困窮するような非正規労働者を多く作り出している。格差を無くそうとする動きとは正反対に,正規,非正規の格差は益々広がるばかりである。
職場の問題点として,業務を外部に委託する形態の問題を取り上げようとしたつもりだったが,これまでの歴史的な背景から入り出したら,結局こうした制度設計の甘さ,時代に取り残された制度など職場の問題よりも社会問題としての視点になってしまった。
外部業務委託は制度疲労を起こしている
[Reported by H.Nishimura 2016.03.07]
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