■技術者が持つべき資質 10   (No.466)

第10回目は「コミュニケーション」について考えてみる。

  顧客本位の技術提供

商品開発は顧客の望むことに応えることが大切で,そのためには顧客の求めているものを的確に把握することが必要である。それは営業の仕事だと割り切ればその通りだが,技術者が直接顧客の声を聞くことは,営業を通しての間接的なものと違い,重要な情報が含まれていることがある。だから,ときには技術者が市場に出て,直接顧客とコミュニケーションを図ることも大切なことである。こうした機会に,顧客が口では伝えきれない欲しいもの(Wants)を探り出すことができ,自分たちの持っているシーズと上手くマッチングさせることが可能なのである。このように,顧客の声なき声を上手く聞き出し新しい商品を発掘することもできるのである。

また,自分が商品開発したものの顧客の反応を確かめることも重要なことで,プロジェクトの振り返りなど反省する有効な材料である。反省には技術的な成果を云々することも必要だが,顧客の反応がやはり一番肝心なことであり,様々な反応が寄せられ,これらに素直に耳を傾けることが次の商品開発に活かされるのである。常に市場との対話は技術者にとって欠かせないものである。

ともすれば技術者は,つぎ込んだ技術が素晴らしければそれだけで満足する人もいるが,それは単なる自惚れに外ならない。それよりも,顧客がどれだけ喜んだか,或いはどれだけ感動を与えたかを把握することの方が重要である。技術者にとって,技術を高めることは非常に大切なことで,それに集中することが一番であると云う見方があるが,それだけでは不十分である。技術者は世の中に貢献するために技術を磨いているのであり,その成果は顧客の反応で判断されるべきである。顧客の声を無視した技術は大きく育たない。

顧客本位とは表面的なものでなく,真髄にあるものであり,顧客に感動を与えることは技術者の使命でもあり,喜びでもある。

  ミーティングは不可欠

技術者同士が互いに連携を取るために,定期的なミーティングは必ず行われる。つまり,独り単独で行う技術開発は殆ど無く,数人,或いは大勢だと百人にも及ぶメンバーで一つのプロジェクトに取り組むことになる。そうしたとき,目標に向かって足並みを揃えることは非常に大切なことで,何処かが予定に対して停滞していると,全体の停滞になり,そうした事態は極力回避しなければならない。そのためにも,進捗ミーティングは欠かせない会合である。

ミーティングは作業時間を割いて行われるため,要領を得た簡潔明瞭な報告が必要で,しかも一番重要だと思われることを的確に示すことである。思いがメンバーに的確に伝わることが必要で,遠慮していたり,わざとではなくても自分に不利なことは言わなかったりすると,後でメンバーに迷惑を掛けることが起こり得る。もちろん,報告書にして報告することも必要だが,議論ができる方がよりベターなことが多く,しかも早く問題解決が図れることが多い。

自分に与えられたことだけで精一杯で,他のメンバーのことは気にもしない技術者も中には居るが,同じ目標に向かって仕事をしている以上,他の人の進捗にも気を配り,必要に応じて助言することも大切なことである。特に,若い技術者に対しては,経験豊かな技術者が助言をしてやることは重要なことで,そうした助言から学ぶことも多く成長していくのである。

昨今は,面と向かっての会話より,メールなどの手段で連絡する方が早く大勢に的確に伝わるが,それでも双方向の会話でのコミュニケーションは欠かすことができない。何も話し上手になることはなく,必要なことを的確に相手に伝えられることが重要である。口達者より技術力の方が技術者には大切であることは否定しないが,黙々と技術だけに打ち込むよりも,ある程度仲間とコミュニケーションを取りながら進める方がお互いが切磋琢磨できて効率的である。それはコミュニケーションが上手く取れているチームは成果が上がっていることからも納得できる。

  技術者にはコミュニケーション力は不要と言っている人も居る

技術者に必要なのはコミュニケーション力ではなく,技術力である,と云う人が居る。技術者にコミュニケーション力は必要ない,と言い切る人も居る。そうした人の言い分をよく聞くと,技術者には技術力さえあれば,それを上手くコントロール出来る人が居れば,それで十分で,その人の技術力を十分活かせることができると考えているようである。コミュニケーションの下手な人でも,技術力さえあれば何とかなると言っているようにも取れる。

一方,技術者にコミュニケーション力が必要だと言っている人も,技術力を疎かにしてコミュニケーション力を高めよ,とは言っていない。確かに,コミュニケーション力と技術力を比較すれば,技術者にとっては技術力の方が重要だが,見ている観点が違っているだけのように思える。つまり,どちらも技術力が不可欠だが,コミュニケーション力があった方が良いかどうかの見解の相違である。

コミュニケーション力を強調するあまり,技術者に不可欠な要素とまで言い切ると,そうではないと反論する人が出てくるが,コミュニケーションは不要と言っている人に限って,コミュニケーションが苦手な技術者の技術力を,結果的には自らが上手くコミュニケーションを取るように働きかけ引き出している,或いは,引き出す自信があるから,そのように言い切れていることもある。

技術者が成長するにつれて,独りで任されていた仕事が,仲間と共に仕事をしたり,或いは部下を持って仕事をしたりするようになってくる。仲間や部下ができる以上,お互いのコミュニケーションは必須要件となってくる。専門を極め独りで研究開発を続ける人も中には居るが希であり,仕事の幅が拡がるに連れ対話する機会が増えてくることは,上述した事例でも理解できるはずである。コミュニケーションが不要だと言い切る人は,実際技術者の仕事をした経験がおありなのだろうかと疑問が沸く。

少なくとも私の技術者としての経験からは必要な資質の一つであると感じている。コミュニケーションの能力が技術者には絶対に必要な能力でなくとも,あった方がベターなことは理解出来るはずである。つまり,技術者が持つべき資質の一つとして挙げることは当然なことと思う次第である。

技術者にとってコミュニケーション能力も必要な資質の一つである

[Reported by H.Nishimura 2016.02.29]


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