■新製品開発のスピード 2 (No.445)
2.商品企画のスピード
顧客ニーズの的確な把握
顧客が求めている商品をタイミングよく市場に出すことは,新製品開発における最重要ポイントである。そのため,企業ではマーケティング部隊が市場のニーズ把握に汗を流す。いち早く市場のニーズを的確に把握し,開発に着手することが,先手必勝の極意でもあり熾烈な競争である。
顧客が,こんなもの(商品)が欲しいと具体的なものを指し示してからでは遅く,その前に,マーケティングで顧客要望(Want)を素早くかぎ取り,それを具体化させた商品を示し,要望とマッチしているかどうかを確認しつつ,商品企画するスピードが重要である。
商品企画を的確なタイミングで,顧客の望む商品とマッチさせるには商品企画のセンスが必要である。努力すれば誰でも良い商品企画ができるかと云えば,必ずしもそうではなく,むしろ持って生まれた才能のようなものが必要であることが多い。顧客の望むこと(Wants)と,自分たちができる技術力(Seeds)とを上手く商品に結びつける才能である。つまり,商品企画のセンスが良いかそうでないかで大きく差が出るように思える。
もちろん,この才能を活かすためには,市場ニーズを的確に把握できる情報が必要であり,いろいろなネットワークを張り巡らし,情報収集を怠らないことである。情報は千差万別であり,多くの散乱した情報を選りすぐることが必要となる。中には顧客が具体的には感じ取っていないニーズも含まれており,顧客を上手く誘導して,本当に欲しがっている商品に結びつけることも必要である。情報が多いだけでは良い商品企画に到るには不十分で,如何にして良い的確な情報を把握するかである。
ただ,商品企画は百発百中とは行かないのが常であり,顧客のニーズの変化も激しく,新製品を市場に出すタイミングも重要である。だから,失敗を畏れずトライできる環境が必要で,失敗が許されない雁字搦めの環境では良い商品企画はできない。また,企画検討するだけの余裕も必要で,企画段階の未熟な商品で市場の声を聞くことも有効な手段である。
新製品開発が進み出すとなかなか止めるには勇気が必要で,開発している当事者にはなかなか止められないものである。だから,企画段階で,開発に着手するかどうかの判断をする関所が必要で,且つ,企画段階でのストップはロスが少ないので,判断もしやすい。ところが,こうした企画段階での検討が十分できないまま,開発にズルズル進んでしまうケースは少なくない。開発リソース(工数)は限られており,如何に新製品を的中させ市場に送り出せるかは重要で,開発ロスは開発スピードを大きく左右する要因である。
衆知を集めて十分錬ること
良い商品企画に練り上げるには,これまでの開発経験者など,衆知の知恵を集めることは重要なことである。新製品を開発するメンバーは限られており,メンバー内での経験だけでの商品企画では不十分なことも多い。そのため,商品企画段階で検討する機会が設けられていることが多いが,その際には,できるだけ多くの衆知を集め検討することが重要で,多様な意見を集めることは,後戻りやプロジェクトの中止に到ることを考慮すれば,決してムダなことではない。
企画段階でのいろいろな意見は,単なる批判と違って,どちらかと云えば建設的な意見となることが多い。つまり,未だこれから開発するものだから自由度が高い。ところが,新製品の開発が始まってある段階まで進んだ時点で,衆知を集めた意見を聞くと,批判するつもりでは無い意見でも,開発にネガティブな意見になってしまうことがある。つまり,その段階での修正は困難が伴い,後戻りになってしまうことになることもある。開発者にとっては,もっと早い段階で言って欲しかったと云うことになる。
モノを見ないとなかなか意見が言えない,或いは,開発がある程度進んでいないと意見が言えない,と云う人も居る。どちらかと云えば,批評家に近い人々である。こうした人の意見は,多くは開発には邪魔な情報であることが多い。商品企画段階など,これから進もうとする商品に対して意見を言ってくれる人は開発者にとっては協力者である。こうした人,特に多くの情報を持った有能な人を商品企画段階で集められることは非常に優れた開発方法である。こうした衆知の知恵は,以降の開発のスピードにも大きく左右する。後戻りするリスクが軽減されるからである。
是非,こうした企画段階での知恵の出し合いができる意見を持った人が開発の周りにおり,商品企画に対しての貴重な意見を言って貰う機会を設けたいものである。
セットメーカからの要望品の開発(部品メーカなど)
商品企画について述べてきたが,部品メーカなど市場のニーズを直接感じ取って商品企画するのではなく,セットメーカの要望によって新製品開発するケースもある。そうした場合,直接市場ニーズの把握はムダではないが,それよりも,納入先のセットメーカの動向把握がメインとなる。そのためには,共同開発とまで行けば言うことはないが,そこまで行かなくとも,セットメーカと親しく,最新の情報が入るようにしておくことは,必要不可欠なことである。
もちろん,セットの新製品(又は新車など)は極秘情報であり,容易に入手できる情報は少ないことも多い。それだからこそ,早く的確な情報を入手することは,先手を取ることになる。当然,競合他社と競合している場合などは,如何に他社よりも的確な情報把握ができるかが,開発のスピードに一番大きく影響する。現在の開発体制には詳しくないが,以前はセットメーカの内部に部品メーカの開発者が入り込み,開発を手助けすると同時に貴重な情報を得て,自社の開発へ情報をフィードバックさせ,開発の促進を図る役割をする技術者が居た。もちろん,両者にWin-Winのメリットがあってのことである。
製品仕様(セットからは部品仕様)を貰って開発するケースもあるが,それよりもセットメーカと部品メーカの技術者が共同して,技術仕様を固め,それを基に開発を進めることはよく行われている。つまり,セットメーカのニーズと部品メーカのシーズを如何に的確に素早くマッチさせ,開発のスピードアップを図ることができるかがカギを握っていることもよくあることである。指示者と請負者と云う関係で開発が行われているようでは,なかなか優れた製品に仕上がらないことがある。一つの技術部隊となって如何にタイミングよく開発を進めることができるかをお互いが意識できるかである。
素早く情報入手する方法として,セットメーカと部品メーカが開発会議のような形で,定期的な会合を持つことも有効な方法の一つである。そこでは,情報交換はもちろんのこと,部品メーカの持つ新しいシーズ(Seeds)を紹介して,それを活かす方法を検討するとか,或いは,セットメーカの要望(Wants)を伝え,それに応えられる部品の要素技術開発を予め進める検討をしたり,とやり方はお互いの環境に一番マッチしたやり方で,あまり形式的に拘る必要はない。お互いが別々に想像していること以上の,新しい創造が生まれる可能性を秘めている。
開発のスピードアップは,力ずくで進めるものではなく,頭を使い,仲間を増やし,お互いがWin-Winのより良い関係を築けたところでスピードアップが図れるものである。
顧客ニーズを的確に把握することは開発スピードアップの不可欠要件
Win-Winの仲間を作り,スピードアップを図ろう
[Reported by H.Nishimura 2015.10.05]
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