■新製品開発のスピード 1 (No.444)
新製品開発の競争はどんな時代にもあり,熾烈な競争であることに変わりはない。昨今は従来の競合相手だけでなく,第三者に出し抜かれることさえある。そこで重要なのは,新製品開発のスピードであり,先発者が利益を上げるケースも多い。これまでの,先発者に先頭を走らせておいて,二番手が大きな利益を上げると云う構図はなかなか作り難くくなってきている。つまり,相手よりも一歩先,半歩先を行くことが勝利者なのである。
ここでは,新製品開発のスピードアップが如何に重要で,且つ,どのようにすれば開発のスピードアップが図れるかについて考えてみたい。
1.冷静なこれまでの反省(分析)
己を知ること
これまでの新製品開発において,いろいろな場面で競合他社と競ってきたはずである。その結果として,勝ったり,負けたりしている。そしてその各々の原因(勝因,敗因)も判っているとされている。しかし,それらは内部から見たものであり,真に市場に於いて勝敗を分けた要因には様々なものがあり,内部で判断しただけでは明白でないものもある。
実際,各々の事案に対して,内部だけでも真摯な反省がされているだろうか?一般的には,勝ったときは結果オーライで進み,負けたときは,あまり具体的にすると個人の責任問題にも発展し,うやむやにされていることも多い。大凡の敗因を反省するに止めてしまっている場合が多い。或いは,反省するなどの行為自体が開発プロセスには無いことも多い。
よくあるケースだが,開発レビューと称して,開発者全員から反省点のアンケートを集め,多くの意見が集まったことで満足していることもある。このアンケート形式は,衆知の意見を集めるには適したやり方ではあるが,一番肝心な責任者の辛辣な反省点が抜け落ちていることが多い。且つ,内部の論理が主流となり,本来一番重要な顧客から見た声に対する反省が抜けてしまっていることが多い。
つまり,己を正しく見つめるには,内部だけでなく,外部の声,特に顧客がどのように感じているかが非常に重要で,極端に云えば,顧客が良しと認めれば,その開発は成功であり,如何に上手く開発したとしても,顧客が良しと認めなければ,その開発のやり方に問題があると云うことである。
負けた敗因は比較的明らかで分かり易いことが多く,反省すべき点も明白である。しかし,上手く行った勝因は意外と判っていないこともある。たまたま勝てたと思わず,勝因についてもきっちり分析し,良きことは開発のプロセスに組み込むようにするなど,成功の要因を活かすことも重要な分析である。とにかく,新製品開発が完了した時点(或いは,プロジェクトが完了時点)で,開発に於けるレビューがきっちりとできるプロセスにしておきたいものである。このレビューが必ず,次の開発に継承されていく。
もう一つ,これまでの新製品開発で,開発途中での中断があったものについては,その原因が何であって,その再発防止が図られているかどうかについてもよく検証しておこう。同じ組織体制にあっては,しばしば同じ失敗が繰り返されるからである。企画段階での早々の中止はともかく,開発後期に到ってからの中止は要注意である。
勝てる戦略を立案すること
反省・分析は大切なことであるが,それらを活かす次への勝つための戦略はさらに重要である。同じような失敗は繰り返されるので,先ずは同じ失敗をしないことに心掛けることである。
勝つためには,最後までやり遂げられる見通しが立っていなければならない。もちろん,QCD(品質・コスト・納期)揃っての完成である。ただ,新しいことへの挑戦が含まれるので,100%確実な見通しとまでは行かずとも,やり遂げられる自信が無くてはならない。最初から見通しが立たず不安視されることがあれば,特にリーダがそのような感覚に居ては,全体の指揮に差し障りがあり,上手く進むものも失敗になってしまう恐れがある。リーダのやり遂げる自信は最大の武器である。
もちろん,人・物・金が必要で,開発に必要なメンバーが揃っているか,必要な要素技術開発ができているか,開発に必要な予算はあるか,などは最低限必要なことである。これらが,大きく欠落しているようでは,リーダの自信だけでカバーすることはできず,どこかで中断を余儀なくされるおそれがある。十分なリソース確保は開発には必須要素である。
これら十分なリソース確保の上で,最後まで成し遂げられるストーリーが描かれなければならない。このストーリーに則って進めることができるのが,新製品開発の良き進め方である。もちろん,リソースの過不足の発生,内外の環境変化など,当初の予測と変わることはしばしば起こり得るので,多少の紆余曲折は生じても,当初のストーリーが成り立っているかどうかが,成功へのカギとなる。
次に,新たなことへの挑戦には,必ずしも道筋がついているとは限らない。したがって,スタート時には未知数の要素を含んでいることは必然で,如何にそれらの未知数を確実なものへと導くかが大きなポイントとなる。即ち,他との並行開発や未完成の要素技術の取り込みなど,他のプロジェクトの進行に左右される場合も出てくる。こうした場合,必ずチェックポイントを予め設定しておき,その時点での進み具合により,大所から判断が必要な場合も出てくるので,きっちりとした判断ができるようにしておこう。遅れていても何とかなるとズルズル進み,後で取り返しのできないようにならないように注意が必要である。このためには,開発スケジュールの中に,DR(デザイン・レビュー)などのマイルストーンを初期の段階で定めておこう。
競合他社との先陣を競う戦いもある。こうした場合,他社の開発状況が把握できる情報ネットワークを持っておくことが必須であり,なかなか正確な情報が入手できないケースも多いが,市場投入時期が,商品の生死を分けるケースもあり,臨機応変な対応ができる組織体制にしておこう。もちろん,スピードを競って,不完全な商品を市場投入することは,大きな痛手となるので,製品の完成度は必要条件である。
単品での商品開発と,シリーズ品との商品開発では進め方も違う。特に,シリーズ品の商品開発では,長いスパンでの開発計画が重要で,商品開発のロードマップなど使った戦略的な開発計画を作り,関係者へ周知させて,必要な要素技術開発など,先行した開発投資に力を入れることが,必勝要因となることが多い。場合によっては,社内だけでなく,協力会社を含めた総合的な開発計画が必要となる場合もある。
開発部門の役割は,現在の開発はもちろんのこと,3〜5年先を見据えた開発計画が必要で,将来を見据えた開発にどれだけ投資できるかが,カギを握っていることも多い。つまり,開発戦略は企業の将来を左右する重要な位置付けであることを胆に命じるべきである。
良き開発戦略が企業の将来を決める
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[Reported by H.Nishimura 2015.09.28]
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