■転機 10 定年後 (No.441)
60歳で定年を迎え,新たな仕事については,このエッセイ上でも何度か触れてきた。37年間働いてきた企業での技術者としての仕事とは違い,新たな気持で取り組むことになった。もちろん,企業も職種も違っているので,これまでの待遇とは全く違う面があったが,仕事を進める上でのやり方などはこれまでの経験を十二分に活かし,持てる能力を発揮することが可能だった。
定年後
定年を迎えるに当たって,いろいろ考える。年金支給開始年度が徐々に伸びているため,この歳で老けるのは嫌だから何かやりたい,と思うのは誰しも同じで,まだ現役でバリバリ働けると思っている人が大半である。給料は減額されるが,同じ会社に残って仕事を続けることも選択肢の一つである。ただ,現実はそう甘くなく,そのまま同じ仕事を続けることができるケースは少ない。また,私達の時代でも,大企業では定年の延長が検討されており,形式上ではあったが,会社に残る意志のないことを書面で確認されてきた。
一方で,これまで培ってきた能力を他のところで活かす道は無いものか,とも考える。もちろん,これまでの経歴などを考慮して,迎えてくれる企業や公共の団体,機構などから声を掛けられる人も少なくは無い。或いは,これまでできなかった趣味を活かし,自由になった時間を十分活用しようと考える人も居る。もうこれ以上あくせく働くことは御免だ,と云う人である。もちろん,こうした人は経済的に豊かで,収入云々を問題にする人ではない。選択肢は様々である。
ただ,家庭においては,今まで家に居なかった人が,定年を機にずっと家に居ると云うのは,奥さんにとっては大きなストレスが掛かり,平日はどこかへ出て行って欲しい,願わくば,何らかの収入が得られるところへ,と云う心情が偽らざるところである。今まで外で働いていた者にはなかなか判らない感覚であるが,しょっちゅう顔を突き合わすことになり,食事の準備も独りであれば自由気ままだったのが,そうは行かない状況が生まれることになる。夫婦間の微妙な変化が生じる時期である。
そうした事情もあってか,私の多くの知り合いも,定年後すぐに年金生活で,他の仕事に就かなかったと云う人は殆ど居ない。多かれ少なかれ,65歳前後までは,何らかの仕事に就いて外で働いている。もちろん,今まで通り毎日と云う人もおれば,週の内3日とか,働き方は様々であったが・・・。技術者は一般的に,何か取り得を持っていて,少なからずそれらを活かして仕事に就いている場合が多い。もちろん,本人のやる気が伴っての話である。
再就職
待っていても仕事が見つかる人も中には居るが,やはり自ら働きたい意志を見せ,チャレンジすることが必要で,その気持ちさえあれば,何らかの仕事が見つかることは間違いない。私の場合もそうだったが,やはりこれまで身に付けた能力が活かせる仕事ができることが幸いである。
生活で家族を養うために働くのはこれまでで十分働いてきたので,小遣い稼ぎやブラブラしているのは勿体ないので何か仕事をしようと思っている人達で,嫌な仕事でもやると云うことは少ない。年金収入とのバランスを考えながら仕事に就く人も多い。一方で,こうした能力を持った人を上手く活用したいと思っている中小企業の経営者が居ることも事実で,上手くマッチングするかしないかだけの話である。再就職を斡旋しているハローワークの状況からも,それが伺える。
私の再就職も,ハローワークからの紹介で成り立ったもので,1回では無かったが,再就職のチャンスは必ず訪れる。私の場合は,純粋なこれまでの技術経験と云うより,JQAなど経営的な面を含め,コンサルタントの仕事を経験したことが役立つことになった。もちろん,希望として,技術コンサルタントの仕事を探していたからでもあるが。
求められる職種にも依るが,専門的な技術を活かす仕事を見つけることは,非常に範囲が限られ,ピッタリ合えばそれに越したことは無いが,その機会は極めて希であり,技術者として幅広い経験があり,広範囲な仕事ができる方が求人は多い。また,必要なことは,これまでの会社と違って新たな企業を選択することなので,自分の能力に自信を持っていることも非常に重要な要素である。つまり,これまでの会社組織だったから,仕事が上手くできたと云うのでは困るのである。
意外と高い職に就いていた人は,組織の人を動かして仕事をしてきた人が多く,個人的な能力としては見映えのしない人も居る。新しい企業で発揮できる能力が問われるのである。もちろん,そうした地位を通じての人脈など上手く活用したいと云う企業もあるので,一概に不利だとは云えない。
再就職をするに当たって重要なことは,チャレンジする心である。これまでの自分を見つめ直し,新たな気持で仕事をしようと云う意欲である。あまり過剰になってはいけないが,自分の能力を信じる気持である。そうすれば,必ず新たな道は切り拓かれるものである。定年後の再就職は,これまでの組織に縛られていた時代と違い,自分の意志で自由に選択できる。その機会を上手く利用することが,老けてしまうことを避けるだけでなく,新たな人生とは大袈裟だが,何か新しい発見があり,人生に活力を与えてくれる転機でもある。
新たな気持で再就職にチャレンジしよう!
[Reported by H.Nishimura 2015.09.07]
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